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黒と白の世界と  作者: 夕陽ゆき
第三章 『反転』
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第三章34 『アコガレ』



「芽空、大丈夫か?」


「……うん。怖いのは変わらないけどね」


 秋吉との一件を終え、道中ファミレスに寄って帰って来たルクセン邸。いや、いつ見ても城にしか見えないし、城というべきなのかもしれないが、ともあれ。


 その広い庭園にて、奏太は芽空と今後のこと——シャルロッテとの向き合い方について、話し合っていた。

 道中で結論を出したとはいえ、相当に緊張し、怯えていることは見て分かったから。

 だから、芽空を元気付けるために再度確認を取っていたのだが、


「ふふ、大丈夫だよ、そーた。私より顔怖くなってるよー?」


「そりゃ、怖くもなるだろ。あのパーティーで……って、掘り返したらダメだな。ごめん」


「そーた、今日はよく謝るねー」


 あのパーティーで、シャルロッテを前にして怯えていた彼女の表情。

 それ以前にも、何度かあったアレがどうしても頭の中でちらついてしまうのだ。奏太が心配してしまうのも仕方のないことだ……そう思っていたところを、彼女はクスクスと笑う。


 多分それは、本心の。

 奏太とのやりとりで多少なり心が和らいだのか、間延びした口調が混じってのんびりとしていて。

 それに奏太は驚きと安堵が同時に来て、


「でも、やっぱりもう一回だけ。芽空、大丈夫か?」


「心配性だね、そーた。……私は大丈夫。あ、でも」


「……でも?」


 そう彼女が言葉を区切ったところで、奏太は眉を寄せる。

 果たして、その口から発せられるのは弱音か、心配事か、あるいは。


 芽空はそんな奏太の感情をさらうように駆け、城内に入る手前の大階段を登って、


「————約束」


 一風。

 吹き抜けると同時、彼女は振り返って、言った。


「私がシャロとちゃんと話せたら……奏太に一つ、お願いがあるの」


「————」


 にこりと目を細め、微笑んだその表情は、思わず息を止めてしまうくらいの衝撃があって。

 恋心を抱いた——などと言うわけではないが、それでも芽空が見せた表情には、


「浅漬け、作って欲しいな」


「…………浅漬け?」


 はっきり言って、目を奪われた……はずだったのだが。

 続けて飛び出た彼女の発言に耳を疑い、何度かその言葉を頭の中で唱えてみるが、やはり浅漬けである。

 聞き間違いではないか、そう疑っても彼女は浅漬けだと頷く。


「いや、えっと。なんで浅漬け?」


「好きだから?」


「いや俺に聞かれても……」


 本気なのか、冗談なのか。

 考えてみれば確かに彼女は、事あるごとに奏太に浅漬けを求めていたが……それを約束としてしまって良いのだろうか。

 頷くべきか悩む奏太に、


「私はね、そーたが作る浅漬けが好きだよ。だから、それでいいの」


「まあ芽空がそれでいいならいいけど……」


 もう決めたからと、芽空は言う。

 以前ユキナにカメラを、ユズカに美味しいご飯を振る舞った時のようなご褒美とはまた少し違うが、彼女なりの自身の励まし方、なのだろう。

 「それにね」と言葉を継いで、


「これからの為、なんだよ。シャロと話をして、ユキナ達を助けて——日常に帰ったその後の話」


「日常……」


「勉強会や朝の稽古。部屋で本を読んだり、話したり。みゃお君やフェルソナがいじられたりして……みんなが笑って。そんな日常に誰も欠けないで帰る。その為の、未来の約束だよ。私、これでも、最高責任者だから」


 あまりその責務を果たしてはいないけど、と言うかのように力なく笑って。


 当たり前だった日々。

 それは、彼女の言った通り誰もが笑っていたように思う。

 希美という例外はいるものの、それでも、


「——ああ、約束だ。全部が終わったら、芽空に浅漬け作るよ。……っていうとちょっと締まらないけどさ」


 プルメリア・フォン・ルクセンとしての彼女と、古里芽空としての彼女。二つが重なった境界線の願いに、約束に、奏太は応じる。

 だから、


「いってらっしゃい、芽空」


「うん、いってきます。そーた」


 奏太は芽空を送り出す。

 彼女がシャルロッテと言葉を交わすために。

 知っていることを、知ったことを——伝えるために。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



「……で、お前が来るのか」


「何か悩みっスか、キヅカミサン!」


「いや悩みは数え切れないくらいあるけど……」


 芽空と別れて部屋に戻った奏太の元にやってきたのは、イス・エトイラク。


 彼女はフェルソナ同様に私生活でも白衣を着ているらしく、その元気は彼が行方不明の今でも変わらない。

 オダマキもそう変化がなかったが、考えてみればそれも当然だ。

 彼女らは繋がりこそあれど、ラインヴァントに所属しているわけではないのだから。


 ただ、


「今はもう少し静かにして欲しい」


「難しいっス!」


 即答である。

 フェルソナへのぶっ飛んだ愛情表現はもちろん、その騒がしい言動。

 何もそれに『怒り』を抱くわけではないが、多少なり落ち着く時間が欲しいものだ。


 ……が、こうして来てしまった以上はそう簡単に逃してはもらえない。理由はエトだから。

 とはいえ、


「エトは何しにここへ?」


「ヨーハンサンがキヅカミサンを呼んでくるように言ったからっス!」


「なんでヨーハンだけそのまんまなんだよ。まあ発音しづらいけど。……っていうのは置いといて、奇遇なことに、俺も後でそっちに行こうと思ってたんだ」


 そう、エトの訪問で予定が前倒しになったとはいえ、奏太はしばらくしたらエトとヨーハンに会いに行こうとしていたのだ。

 だから、


「話をしよう、エト。聞きたいことがいくつかあるんだ」



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



 ——夢を、見ていた。


 それはあの日、迷子になった姉を葵が探しに行って、一人で動物園の行列に並んでいた時の光景だ。

 あれだけの人に囲まれるのは、生まれて初めてだったかもしれない。


 だから、つい緊張をしてしまって。


「この平等博愛が、 HMA の名の下に、罪人がいるかどうかを確かめたいと思います」


 HMAのハクア。


 その名前が自分達『獣人』にとってどれだけ重要な意味を持つのか、ユキナは何となくではあるが予想がついていた。


 ——アレはラインヴァントの皆にとって、危険な存在かもしれない、と。


 姉のユズカやユキナは、蓮達が時々する真面目な話に混ぜてはもらえないが、それでも偶然耳にすることはあったのだ。

 そして、あの組織でも。


「おやおやぁ?」


 だから、ブレスレット——『トランスキャンセラー』がないことに気がついた時には、目の前が真っ白になるような恐怖と緊張、それから死の予感がした。


 世界から音が消えたと錯覚さえして、ただ聞こえたのは、全身が灰色でやせ細った男の声と、抑えられずに漏れた自分の声だけ。

 自分が『獣人』だと気づかれ、命の危機にさらされ、否定しようにも声が震えて、体が鉛のように重たくて、助けを呼んでも姉はいない。葵はいない。

 誰もいない。


 覚悟なんて決まるはずがない。

 死にたく、ない。助けて欲しい。


 怖いものに目を背けてしまいたいから。目を瞑っていたいから。

 姉のように『トランス』は使えない。何も出来ないから、一人じゃ立てないから、誰かが手を取ってくれて、自分を——そう思った時だった。


「…………間に合った」


 差し迫った生命の危機から、ユキナは救われた。

 それを為したのはもうすっかり、聞き慣れた声。ユキナが憧れ、理想とした女性だ。

 美水蓮、彼女が寸前で自分の手を引いてくれたから、ハクアの魔手から自分は逃れられたのだ。


 そしてそれは、一度だけではない。

 追ってくるハクアを迎撃するために、彼女は自分を置いて駆けて行った。相手が危険な存在であることは、他でもない彼女らが言っていたのに。


 けれどそれでも、ユキナを、ユキナの日々を——蓮は守ったのだ。

 二度目の危機に際した時には、奏太が一方的にハクアを突き飛ばして。


 守られて、また守られて。


 あの組織に、ブリガンテにいた時も、姉のユズカが守ってくれていた。もっと前からも、ずっと。


 姉のような強さは自分にはないし、その片鱗すら使えない。

 それは努力なんかで叶うものではないし、そもそも自分には誰かを攻撃したりなんて、守ったりなんて、出来ない。無才で、非力で、臆病だから。


 だから一人の女の子として蓮に、奏太に、憧れを抱いた。

 追いつきたい場所と、いつかは隣に行きたいと思う場所。


 後者はもっと成長しないと難しいだろうけれど、前者は少しずつ身についてきた。

 奏太が、蓮は怪我の治療中だと言っていたし、そのうち見せる機会も来るのだろう。


 その時は、謝罪とお礼と、あの秘密基地へ行くという約束を。

 蓮に会った、その時には————。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



 意識の覚醒は、水の滴る音が耳に届いたのと同時だった。


「ん…………」


 最初の一滴はぼんやりと、けれど二滴、三滴と音がすれば、徐々に世界は鮮明なものへとなって行く。

 白んでいた景色は他の色を認識し、水滴以外にも遠くから人の声がする。

 だから、自分の置かれた状況を理解するのにはさほど時間を要さなかった。


「————っ!?」


 埃臭い部屋。

 鼠色の無機質なコンクリートの部屋だ。

 それは少女——ユキナにとって見覚えのない景色だったが、正しい結論に至るための材料はそこら中にあった。


 水漏れしているのだろう、部屋の隅には小さな水溜まりと、時折落ちてくる水滴。

 ひどい頭痛に、ヒリヒリと焼けるような痛みがする全身。

 壁に打ち付けられた鎖を手前に辿って行くと、たどり着くのは錠のかけられた自分の両手、両足首。

 少しずつ、蘇ってくる記憶は、過去との結びつきを終えて、


「ぁ……」


 かつて自分達姉妹が属していた——正しくは、利用されていた組織ブリガンテ。

 そのリーダーたる『キング』のアザミが自分を捕らえ、今こうして監禁状態にしているということは、一年前と同じことが今、この場において起きようとしている。


 いや、あるいは。


「……っお、姉ちゃん」


 既に起きているのかもしれない。


 そう至って、ユキナは声を震わせた。

 もし本当にそうなっているのであれば、紛れもなくそれは自分のせいだ。

 このままでは、ユキナの為に姉が力を振るい、誰かを傷つける。


 そんなこと、


「ダメ、だよね」


 一年前は薄っすらとしか思わなかったけれど、この一年、特に数ヶ月の間に、文字を勉強して絵本を読む中で、それがダメなことだということは分かっていた。


 だが、倒したと聞いていたアザミが生きていたこと、どうしてアジトの場所が知られていたのか、フェルソナ達は大丈夫なのか……いくつもの疑問があって、


「私、どうしたら……」


 いずれにも答えを出すことはできない。

 ユキナには何の力もない。

 疑問の一つはもちろん、姉の為に何か出来るわけでもないのだ。


 もし、何かの偶然でこの錠が取れたとしても、先程聞こえた声がアザミの仲間なら、逃げ場なんてないはず。

 話すことも、確かめることすらも叶わない。どうしようも、出来ないのだ。


「……っ」


 悔しさよりも、嘆き。

 奥歯を噛み締め、拳を握るでもなく、自分の無力に強く感情が揺さぶられ、耐えきれずに涙をこぼしてしまう。

 最初の一滴はゆっくりと、それからは止まることなく、感情のままにただ溢れて。


「あぁ、ぅっ……、ぁ」


 嗚咽交じりの声。

 それを出したところで誰かが聞くわけでもなし、ましてや、自分に何か変化があるわけでもない。


 守られて、庇われて、助けられて、養われて、手を引っ張ってもらうだけの自分。

 どうすればいいか、なんて選択肢すら思い浮かばない。いや、あるはずもないのだ。

 微弱ながら『トランス』の力があったって、発動すらまともに出来ない。姉ほど運動が出来るわけでもない。錠なんて、取れるわけがない。


 ただ、守られるだけの存在。

 今、この瞬間ユキナはそれだけの少女で、足手まといになっている。


 自分を理由にして、姉がラインヴァントに脅威を与えるのだって、そう先の話ではないはず。

 自分一人では手が届かなくて、何も為すことが出来ない。

 料理だってまだまだで、辿り着きたい場所は遠く、果てない。


 姉とは違って、自分には何もないから。


「っぁ、ソウタお兄さん……っ」


 だから、なのだろう。

 姉の次に呼んだのは、保護者当然であった葵や、梨佳ではなく憧れの人の名前。


 ——あのハクアをやっつけるなんて、すごいことをやってのけたから。自分が大人になるまで見届けてくれると、言ってくれた人だから。ユキナにとっての『王子様』だから。


 彼に恋人がいることは分かっているけれど、あの日救ってもらったことをユキナは忘れない。

 だから、他力本願でしかないとしても、彼に助けてほしいと思ってしまう。願ってしまう。


 今までも迷惑ばかりをかけて、結果的に誰かを傷つけてしまっていたというのに。そんな、自分なのに。


「レンお姉さん……」


 だから、彼女のように強くなりたいと思った。

 戦闘だって姉に引けを取らないし、料理も出来て、綺麗で、奏太と恋仲で、誰かを守れるような強い人。


 そんな彼女達ならば、彼女達だから、きっとまた自分と姉を救ってくれる。

 そう思うこと自体、あまりにも身勝手で、強欲だとしても。

 

「……でも」


 今は怪我をしていても、一年前とあの日のように。


 ユキナは、信じているのだ。

 幼い子どもが、世界は愛で包まれていると、自分を中心として回っているのだと、何の疑いもなく純粋に思うように、奏太も、蓮も、すごい人なのだと。


 ならば、


「私に、出来ることは……」


 憧れの二人がどうにかしてくれる。

 だからそのために、自分に何が出来ないかを探るしかない。


 そう考え、顔を上げた時には——涙は、止まっていた。

 代わりにあったのは、彼女らのおかげで生まれた希望。

 無理くりにではあるが笑みを浮かべて、周りを見渡す。頭を回す。何もないから、何かがないかを探す。


 逃げる場所は、ドア一つしかなく、窓がない。鎖や錠が邪魔をして逃げられない。


 声を——上げても、怪しまれるだけだ。仮に姉ユズカがいるのだとしても、それよりも先に他の誰かが来てしまう。


 以前、強い感情によって『トランス』が使えるようになる、と聞いたことがあるが、やっぱり自分には使えない。

 どころか、あの爆発のダメージからか、身体中から力が抜けているようなだるみがあり、頭痛は今も続いている。


 ——他に。

 他に何かないか、自分の体のあちこちを確認して、


「…………あ」


 目を見開いて、時が止まったかのような希望を見つけた。


 ————デバイス。

 普段は腕時計を着用しないユキナ達だが、自分たちの世代は生まれた時にデバイスを体内に入れられる。

 だから当然、腕時計でデバイスのスイッチさえ入れられれば、奏太達や蓮に連絡を取ることができる。


 ただ一つ、問題があるとすれば、


「あれは確か、アオイお兄さんが」


 今、ユキナの手元にそれはない。

 たとえあったとしても、没収されていた可能性がなきにしもあらずではあるが。


 ただ、それでも、


「アオイお兄さんが気がついてくれれば……!」


 普段は言葉だけで、力の面では頼りない彼であっても、この事態ならば気がついて電源をつけてくれる可能性がある。だから、そうすれば。


 ——ユキナは、自分でも驚く程前向きに、綺麗に思考が進んでいた。

 以前の自分なら、焦るだけ、泣き出すだけのはずだったのに。実際、先ほどはそうなりかけていた。

 だが、首を傾げ、先のことを思い出して気がつく。

 それは多分、カメラレンズを通したり、実際に会話をして、奏太達と触れ合う中で影響を受けたから……なのだろう。


 自分に何もないことは変わらないけれど、それでも彼らなら諦めないし、前を向く。そう思うから。

 だから、自分に出来ることはたった一つ。


 今ここにはないけれど、奏太に買ってもらったカメラのレンズを覗くように、


「色んなものを、見ないといけませんよね」


 捕まっているからこそ、得られる情報を得て、伝える。

 姉がここにいるのなら、それを得る機会はさらに多いはずだから。


 ——そうですよね、ソウタお兄さん。


 そう、口の中で呟くユキナは、無理くりに作ったものではなく、心の底から笑っていた。

 彼に料理を作るのは延期になってしまったが、小さな一歩を踏み出すと決めたから。


 蓮のように、強い女性になって、彼女に——、


「————やあ、妹ちゃん」


 決意を新たにしたところで、その声は割り込んで来た。

 唐突に、扉を開け、入って来た人物。

 彼には、ひどく見覚えがあった。


 気絶する前、ラインヴァントのアジトで。

 その前にも、どこかで。


 一年前までユズカとユキナをモノとして扱い、『キング』としてブリガンテを指揮する立場にある『獣人』、その名は、


「アザミ……!」


「名前、覚えていてくれたようで嬉しいよ。妹ちゃん」


 彼は己の銀髪をかきあげると、人当たりの良さそうな笑みをその顔に貼り付け、ユキナに近づいてくる。

 が、それが彼の本性でないことはユキナにだって分かっている。

 だから、


「……そんなに警戒をされるのは、俺としては悲しいな」


 ユキナは冷や汗が頬を伝うのを感じながら、鎖の伸びる限界まで彼から距離を取る選択肢を取った。

 彼の力を考えれば、それが些細な抵抗でしかないことは分かっていても。


「お姉ちゃんは、ここにいるんですか?」


「ああ、いるさ。君を迎えに行った数時間後に、連れて来たんだ。そうそう、見た目が変わっていたから驚いたな。夢の時間は楽しかったかい、妹ちゃん」


「————」


 精一杯の、抵抗。

 震える声はもう、今にも崩壊してしまいそうで、圧迫されるような彼の言動に歯がカチカチと音を立てている。

 なんとなく予想はついていたものの、姉がここにいるという事実に、嘆きの声を上げそうにもなって。


 だけど、それでも彼の金眼を見つめ返せるのは、


『大丈夫。私には————約束が、あるから』


 そう言って、ユキナを守るため一人で立ち向かっていった憧れの声があるから。

 彼女がまだ心の内にあったから、ユキナは堪えられる。前を向ける。

 だから、


「——あァ、そォいえば」


 今、ユキナだけに出来ることをする。

 その為の一言を口にしようとして、直前に言葉は離散してしまう。


「ひとォつ、妹チャンに聞いておきてェことがあってよ」


「……?」


「難しい話じゃあねェよ。俺はたァだ確認をしてェだけだ」


 問いかけようとしたつもりが、逆に問いかけられる。

 本性を現し、口調が荒々しいものへと変わったアザミ。彼は獣のように獰猛な笑みを浮かべ、こちらを見つめている。


 彼の言う確認とやらがどういうものなのかは想像がつかない。

 だから、ユキナはそんな彼に眉を寄せて、



「————美水蓮、あァのヤロォが死んだのは知ってるか?」



 時が止まったかのような、絶望がユキナを襲った。

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