第三章63 『雪の心』
——今にして思えば。
「あ、あの、ソウタお兄さん。これって……」
「カメラだな。最近だとデバイスが主流だし、タブレットもあるからそうそう見かけないけど…………欲しいのか?」
自分でも気づいていたのかもしれない。
ユキナという名前をつけてもらう以前から、ずっとずっと前から、どうしようもないくらいに世界が怖くて。一人でいたら泣き出してしまいそうだから、誰かに縋っていたのだと。
守られていることに、どうしようもなく依存しているのだと。
そんな自分だったから、あの日報いを受け、死ぬはずだったのだと。
「えと、はい。ダメ、ですか?」
「ダメなわけないだろ。まあ値段は……目を瞑るとして、どうしてカメラなのかな、って。ほら、ユズカじゃないけどさ、好きな食べ物とか服とか。他に欲しいものとかあったら、そっちでも良いんだぞ?」
けれど、黒髪黒目の少年、三日月奏太。彼に救われたから、今自分はここにいる。
だからその手はカメラを選んだのだと思う。
短い生涯の、ほんの一瞬。
残したいと思うそのひと時を、願い通りに残してくれるから。
変わらないものであって欲しい。
いつまでも残っていて欲しい。
どうかこれからもよろしくお願いします、なんて願いながら。
やけに値が張るカメラを、珍しく意地になりながら。
「これでお願いします、ソウタお兄さん。……安いのがあったら、その、そっちでも大丈夫です」
妥協した部分と、譲らない部分。
それぞれをごちゃ混ぜにしながら。
心のどこかで、諦めていた。
*** *** *** *** *** *** *** *** ***
とても、騒がしい家だった。
『ユキナ』が『ユキナ』になるよりももっと昔。物心がついた頃だ。
その頃にはもう、誰もかれもが壊れていた。
割れるような怒号が耳をつんざき、飛んでくる張り手に逃げ場はなく、出来るせいぜいの抵抗は走る痛みに目を瞑ることだけ。もうやめて欲しい、早く終わって欲しい——そう祈るように。
けれど幼い少女の抵抗は、大人の力の前には無力も当然。
すぐに耐えきれなくなって、いつも最後にはわんわんと泣きわめいていた。感情表現の方法をそれしか知らないように、ただ、ずっと。
だって、名前も言葉も知らなかったから。
保育園や幼稚園はもちろん、小学校にも行かせてもらえず。満足な食事を与えられず、きちんとした教育も受けられず。
そんな環境の中、かろうじて自分を自分だと認識できるのは『アンタ』か『ガキ』か、『イラナイコ』という音だけ。そしてその音が聞こえる時は、大抵が「今から体を痛めつけてやる」という宣告だった。
父親らしき人物は家族皆に暴力を振るい、それを受けた母親らしき人物は彼がいない間、腹いせとばかりに自分と姉とに暴力を振るい。珍しく静かな時があっても、思い出したかのように再び怒声。
煙草とお酒と血の匂い。痛みと涙と冷たい床。食事として与えられたのは両親らしき人物たちが残したものか、あるいは彼らが捨てたものか。それらに口をつけるたび、刺すような嫌悪の視線と舌打ちがあったのをよく覚えている。
そしてそれから、姉が守っていてくれたことを。
「こ、れ、もぐぐ、しよ?」
「もぅ、う?」
「もぐぐ!」
どこで覚えたのか、たどたどしい言葉。それを上手く発音出来ず不安の表情を浮かべる自分と、元気良く訂正する姉。
劣悪な環境を耐え切れたのは、そんな姉のおかげだったのだろう。
一緒に殴られた後はそれしか愛情表現を知らないように頭を撫でてくれて、それに対して「ありがとう」の一つすら満足に言えず、およそ会話と呼べるものは交わせていなかったけれど。とても、温かかった。
膝が震えて立ち上がれない時は手を差し伸べてくれて、寒くて震えそうな夜は一緒に体を寄せ合って。
ご飯を食べる時も隣にいてくれて、いつだって一緒で、自分の前に立ってくれていた。
そんな日々が、続いていた。
満足にお風呂も入れず、髪だって切れず。家からは出してもらえず、あれもダメ。これもダメ。色んなことが禁止されていて、色んなものが遠ざけられて。
そんな日々だったから、いつの間にか、ぼんやりとこんなことを考えていた。
——ああ。わたしたちは誰にも必要とされてないんだ、と。
*** *** *** *** *** *** *** *** ***
その日は指先がかじかんで、とても静かな朝だった。
少しずつ体も大きくなってきて、やや偏りはあったけれど簡単な言葉は発せるようになり、どうやらいつも隣にいる自分そっくりの少女が、『おねえちゃん』であることを知った。
『わたし』には彼女のように名前はなかったけれど、それよりも彼女が名も知らぬ誰かではなくて、側にいてくれる温かな存在なのだと知って、すごく安心した。
それから、もう一つ。
母親らしき人物からぶたれることがなくなった。
理由はよく分からなかったけれど、ある日の朝方、闇に溶けてきてしまったかのようにその人は姿を消したのだ。一体どこへ行ったのか、それもやっぱり分からないけれど。
とはいえ、記憶のある限りではその人たちに温もりを受けたことは一度もない。
外へ出たことがなかったから比較対象がなかったものの、そのあり方が何となく違うことはぼんやりと分かっていて、その人は『おねえちゃん』じゃない『こわいひと』として写っていた。
じゃあその人がいなくなって手放しで喜べたかと言われれば、そんなことはなくて。少しばかりの心の空白は、血の記憶しかないその人に何かを求めていたのかもしれない。
……でも、やっぱり。それをはるかに上回る安心感が心のほとんどを占めていたことは、否定のしようがない。
『わたし』と『おねえちゃん』を傷つける人物はもう一人だけ。痛みに耐える時間が減るんだ、って。
だからなのだろう。
『おねえちゃん』はしばらく経ったある日、父親らしき人物がいない間に外へ行こうと提案した。
冬だというのに薄着とそれぞれ毛布が一枚ずつ。体は当然冷たく、動くことすら苦しいくらいだったけれど、『わたし』は頷いた。
仕事へ出ているらしい昼の間ならば抜け出しても見つからないし、父親らしき人物が帰ってくるまでに自分たちも戻ればいい。
そんな稚拙な反抗心と毛布を抱えて。『わたし』と『おねえちゃん』は手を繋いで外へ出た。
初めての景色、初めての声。
色んな匂いがあって、色んな感触があって、すごく。なんだかすごく、キラキラしていると思った。
時折通る人たちがこちらを見て何か言っているけれど、よく聞こえない。
それよりも『おねえちゃん』の後ろについて、もっともっと知らない世界の冒険をしたい。そう思って、
「————?」
胸の中がくすぐったくなる感覚。
外へ出て、数分のことだった。
体がおかしくなったのかもしれない、そう思ってムズムズする部分を軽く撫でて見るけれど、それは治るどころかどんどんと増していく。
さらにどういうわけか体がぽかぽかとしてきて、唇の端が震えて、持ち上がろうとしている。
「お、おね、えちゃ……」
「————」
声を震わせながら問いかけるも、疑問の答えは『おねえちゃん』にも分からないようだった。
だって『わたし』と手を繋いだ彼女もまた、胸のくすぐったさに困惑していたのだから。
「え、へへ」
「——?」
初めての感情。
それが何なのかは分からないけれど。
『わたし』はこの感情を受け入れたい。そう思っていることは確かだった。
「あは、ははは!」
「ふふふ!」
いつしか姉もまた、いつもと違う声を出して。
二人は寒さも忘れて、弾けた。
飽きるまでその感覚を味わって、小さな旅行は長く続いて。
家に着いたのは、人の声も明かりも消え去った夜のことだった。
*** *** *** *** *** *** *** *** ***
振りかぶった右手が幼い体をぶち、目をつぶった直後に小さな悲鳴とどすんと地面に衝突する音。
「————」
何を叫んでいるのかは分からない。
けれどおそるおそる目を開ければ、分かる。
肩を震わせ、唾を飛ばし、怒りを露わにする父親らしき人物と、いつも以上に痛めつけられ身体中を真っ赤には腫らす『おねえちゃん』。
その理由は多分、『わたし』と『おねえちゃん』が外へ出たからだ。
「————」
母親らしき人物が出て行ったことも関係しているのだろう。この頃荒れていた彼の攻撃は、やむ気配がない。
つい一時間ほど前までは寒空の下を歩き、体は冷え切っていたのに、『おねえちゃん』は痛みにびっしょりとした汗を流し、対照的に震えが止まらないほどに『わたし』は寒気を感じていた。
——何かが失われようとしている。
そんなわけの分からない危機感が頭を支配してるのに、鈍い張り手の音に、蹴りを受け呻き声をあげる『おねえちゃん』に、耳を塞ぎ、目を背けることしかできない。
だが、
「…………ぁ」
外へ出たことへの罰だというのなら、向けられる拳は一人に対してのものだけではない。
ましてや、日常的に暴力を振るう彼がそれだけに留まることなどない。逃げることなど許されず、目を背けたところで、理不尽は平等に『わたし』の前へ現れる。
「ひっ」
どたどたと、乱暴で品のない足音。獲物を捕らえようと迫る父親らしき人物に『わたし』は立ち上がることが出来ない。
ちらちらと、横へ——何度も殴られ、地に伏した少女へと救いでも求めるかのように視線を向けるが、あれだけ何度も受けた後だ。動けるはずもない。
そもそも、彼女が間に入ったところで何か変わるわけでもない。
『わたし』と『おねえちゃん』が血を流しても、痛みを訴えて泣き出しても『こわいひと』の気がすむまで終わりなど来ないのだから。
「————」
と、そこで目が合った。
ぶるぶると震える手を動かしながら、立ち上がろうとする『おねえちゃん』。
彼女は苦痛に顔を歪ませながらも、こちらをじっと見て、何かを呟いている。
——よく、聞き取れない。
それは果たして自分に向けられたものなのか、あるいは父親らしき人物にあてたものなのか。
いずれにしても理解の瞬間は訪れない。
耳を澄ませるよりも先、一瞬の間忘れていた恐怖が後を追いかけてきて、胸ぐらを掴まれ、体が宙に浮く。
「——クソガキドモ、バレタラドウスルツモリダ!!」
知っている名前と、呪文のような知らない言葉。けれど、意味を考える暇も余裕もない。
必死の形相でこちらを睨み、怒号を放つ彼が怖くて怖くてたまらない。
「いや……っ」
無駄な抵抗。首を振って言葉にならない声で懇願するも、『こわいひと』はその力を緩めない。
ぎりぎりと、地を揺らすような歯ぎしりと、怒りのままに握られた拳。
飛んでくると分かった瞬間、『わたし』は涙交じりの瞳を閉じて————。
「げ、ぇ」
潰れるような声。
それが耳に届いて、自然と閉じたばかりの瞳を開けさせる。だが、光景を理解をするよりも早く。
自分を掴んでいたはずの大の力が離散し、抑えるものがなくなったとなれば当然、
「……え?」
全身が未知の浮遊感に襲われた。
たまらず悲鳴を上げ、重力そのままに体が落ちることに恐怖が高まって——とすん。吸い込まれるように、それは誰かの手に受け止められる。
知らないけれど、知っている手。
どこかで触れたことのあるような温もりで、どこでも触れたことのない冷たさ。頭の中が疑問でいっぱいだったけれど、答えはすぐに、明らかになる。
『わたし』の体がゆっくりとその場に下ろされ、直後。風が駆け抜けた。
「う、ああ!!」
父親らしき人物の、初めて聞く声。それはずっと、他の誰かが出していた声。
少なくとも彼がそんな声を出した記憶は『わたし』の中にはない。だから。
肌を刺すような寒さの中、心がじんわりと温まる感覚。
何も知らない、暴力と理不尽だけの世界は終わって。
だからこそ、その瞬間が始まりだったのだと思う。
何度か人の体が壁に叩きつけられる音と声があって、隣の部屋へと貫通した時、ようやく世界は音を止めた。
そしてそれを行なった人影が、振り返った。
「……おねえ、ちゃん」
「いこ。あたし、と」
知らない姿だった。
手入れされることなく伸びた蜜柑色の髪先は黒く変色。
全てを切り裂いて進むかのごとく鋭い爪が生え、肌は何層もの皮が重なり、本来の痩せ細った体には似合わない強靭なものへ。
極め付けには本来ありえないはずの位置から、ありえないものが生えており、動揺からか、困惑からか。すぐに返事が出来なかった。
けれど息遣いに合わせて動く——頭頂部から生えた耳は、どこか不思議で、おかしくて。先ほど自分を助けた力の持ち主とは思えず、なんだか胸の奥がくすぐったくなってくる。
だから、『わたし』は答えた。
「うん、おねえちゃん」
守られたことに安堵して。
分からないことは怖くて、足が震えそうになるけれど。
『おねえちゃん』なら何が来ても大丈夫だと思えた。救ってもらえたから、そう思えた。
それから『わたし』と『おねえちゃん』は。それぞれ一枚ずつの毛布を手に、外へ飛び出した。
手を繋いでくれる彼女がいるのならどこへだって行ける。だから、遠くへ。ひたすら遠くへ。
戻ることなく二人は冷たい空の下を進んだ。
雪の降る街を、守り、守られて。
*** *** *** *** *** *** *** *** ***
何度か季節が巡った。
いくつもの街を歩いた。
たくさんの人と出会った。
最初こそ外の世界に夢中で気づかなかったものの、そうやって色んな視線が向けられる場所へ足を運べば、言葉が分からずとも自ずと気がつく。
——どうやら『わたし』たちはかなり目立っている、と。
理由に関しても見当がついていた。
いわく。『ショウガクセイ』が二人だけで一日中歩いているというのは、おかしいのだという。それからさらにいわく。髪が地面を引きずっている子や、薄着と毛布だけで外を歩く子は『ヨウカイ』なのだという。
二人は家を出る以前と以後、どちらともちゃんと言葉を習っていないため、知っている単語にはかなり偏りがある。だから全部が全部理解というわけではないが——『ショウガクセイ』と『ヨウカイ』。どちらも意味は分からないけれど、後者はなんとなく良いものでないことは分かっていた。
分かっていたから途中、それらの原因となっていたものが心優しい『おばさん』のおかげで改善されるという予想外の道を通ったのかもしれない。
なんでも、『わたし』たちを心配したのだというその『おばさん』は家に迎え入れてくれて、髪を整え、お風呂も貸してくれた。
『ムスメ』が着れなくなったから、と服をもらった。ご飯を食べさせてもらった。このまま住んでも良いんだよと、言ってもらえた。
——でも、何日か過ぎて、その家を出た。
『おねえちゃん』いわく、『おばさん』が怖い人を連れて来たから、と。
言葉の意味はよく分からなかった。けれど、妙に納得していた。
色んな場所を巡る中で、みんながみんな自分たちの居場所を持っていたから。帰る家を、誰かが迎えてくれる場所を。
そして自分たちには、それがない。
もちろん、寂しくなかったといえば嘘になる。ほんのひと時とはいえども、優しくしてくれた『おばさん』には体がぽかぽかとしてくる温かさがあった。両親らしき人たちにはなかった、『おねえちゃん』に近いもの。
でも、それは近いだけ。『おねえちゃんには及ばなくて、自分は『おねえちゃん』についていくだけでいいと、本気でそう思っていたから。
だから優しくしてくれた『おばさん』の家を出た。
引き返すこともなかった。本当の意味では『おばさん』も、生まれてから何年も過ごしたあの家も、『わたし』と『おねえちゃん』を必要としてはいなかったから。
だから、歩いた。
知らない人が声をかけて来ても、『おねえちゃん』に守ってもらって。
ご飯はいつも『おねえちゃん』が持って来てくれたし、暑い時も寒い時も一緒にいてくれて。
時たま一段と汚れて帰ってくるのが気になっていたけれど、「えへへ」と目を線にして笑う彼女の前では、そんな疑問もすぐに吹き飛んでしまった。
たくさん、歩いた。
しばらくして、『わたし』と『おねえちゃん』は銀髪の少年に出会った。
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小さな体で歩む、小さな旅が終わった。
それは大きな街で出会った銀髪の少年が『わたし』たちを受け入れたからだ。
背丈は大きいが、屈強な体つきというほどでもなければ、痩せ過ぎというほどでもなく。言動は一般人のそれとはどこか異なっていて、妙に落ち着いていることと品があった。
名前はアザミ。裕福な暮らしをしているよ、というのが彼の言葉であったが、それを証明するように彼は『わたし』たちに食事をくれた。
「これ……」
「ああ、遠慮しないで食べてくれ。その代わり、少し君の『おねえちゃん』を借りていくよ」
その呼び出しは度々あった。
小さな廃工場に案内され、ここに住むと良いと言われたあの日から。
日を追うごとに頻度は増えていき、いつの間にか毎日朝から晩までずっといないことが当たり前になるくらいにまで。
彼が一体『おねえちゃん』を連れて何をしているのか、気にならなかったわけではない。でも、聞こうとするとその度に止められた。
「だいじょうぶ。ここに、いて?」
『わたし』にとって『おねえちゃん』は一番だ。彼女が言わないのならば、自分はそれ以上を求められない。
だから彼女がいない間、硬い地面に寝転んで、ぼうっと空を眺めることが多くなった。
誰もいない工場の中で、一人。
心がぽっかりとした感覚を味わいながら。
*** *** *** *** *** *** *** *** ***
「あ、あの」
「どうしたんだい?」
そんな日が続いていたから、『おねえちゃん』がいないタイミングで『わたし』はアザミに声をかけた。
「え、っと。わたしも、てつだうこと、あります、か?」
単純な話だ。
毎日のようにご飯がもらえて、旅をしなくても『こわいひと』は来ない。でも、『おねえちゃん』は夜しか帰って来ない。だから寂しい、何もやることがない、と。
もちろん役に立ちたい、という気持ちがあったのは確かだ。すぐに笑って隠してしまうけれど、『おねえちゃん』は毎日くたびれて帰ってきている。
だから自分が仕事を少しでも手伝えれば彼女は楽になるし、二人の時間も増える。何より、ぼんやりと空を見つめるのにも飽きたし、と。
だが、アザミは申し訳なさそうに笑みを浮かべて、
「すまない。君にはちょっと難しいことなんだ。その気持ちには申し訳なく思うが……いや、そうだな。少し待っててくれるかい?」
そう言ってアザミが連れてきたのは、工場外で待機していた、彼と同年代かそこらの少年と少女、一人ずつ。
続けて彼は言った。
「この二人と一緒にいて欲しいんだ。もちろん、話すのも遊ぶのも自由。どうだい?」
「おねえちゃんのため、です?」
「ああ、そうだとも。『おねえちゃん』が帰ってきたら、この二人と遊んでいた時のことを話してあげると良い。きっと彼女は喜ぶだろう」
彼の語るそれは、胸の踊る話だった。
今までのようにぼんやりと空を見つめるだけでは新鮮な体験なんてそうそう起きないし、『おねえちゃん』を笑わせることなんて出来ないけれど。
彼の言う通り、二人と遊べば、昼と夜との両方ともが楽しい時間になる。
だから頷いた。
だから、疑わなかった。
それが『おねえちゃん』のためになるのだと、盲目的に信じていた。




