幕間 鉄の悲鳴と、温かな掌
……キーッ!! 鼓膜をつんざくような、タイヤがアスファルトを削る不快な音。 そして、ドンッ、という鈍い衝撃音。
視界がスローモーションのように歪む。俺の目の前には、大きな背中があった。いつも俺の前を歩き、俺の手を引いてくれていた、頼もしくて、大好きだったはずの背中。
でも、その背中は今、不自然な角度で地面に投げ出されていた。アスファルトに広がる赤色が、視界を焼き尽くしていく。
***
場面が変わる。消毒液の匂いがする白い部屋。俺は泣いていた。これ以上涙が出ないというくらい、ボロボロに泣いていた。
「ごめんね、ごめんね……」
何度も謝る俺の目の前には、車椅子に乗った人物がいた。足には分厚いギプス。もう、二度とボールを蹴ることも、俺と一緒に走り回ることもできないと、大人の医者が残酷な宣告をした後だった。
俺のせいで。俺が飛び出したから。俺の足が代わりに動かなくなればよかったのに。
絶望で押しつぶされそうになっていた俺の頭に、ふわりと温かいものが乗った。彼の手だ。大きくて、優しい掌が、俺の髪をゆっくりと撫でている。
「泣くなよ、ユウ」
彼は、痛みをこらえたような、でもどこまでも優しい笑顔で言った。
「足は動かなくなっちゃったけどさ……でも見ろよ、腕はまだ動くんだ」
彼は俺の頭を撫でる手を、愛おしそうに動かした。
「腕が動くから、こうやってユウのことを撫でてあげられる。……だから、俺はこれでよかったんだよ」
その言葉に、俺はまた声を上げて泣きじゃくった。 彼の掌の温かさが俺の救いになっていた――。
***
「……っ!?」
ガバッ! と俺は勢いよく上半身を起こした。 心臓が早鐘を打っている。額にはびっしりと汗をかいていた。
「……夢、か」
荒い呼吸を整えながら、周囲を見渡す。そこはニヴェア城の豪華な客室だ。隣のベッドでは、テオが幸せそうな顔で高いびきをかいている。俺は頬に冷たいものが伝っていることに気づき、手で拭った。涙だ。
「ふん……この俺が寝汗ならぬ、寝涙とはな」
俺は強がってニヤリと笑ってみせたが、胸の奥には、言いようのない寂しさと、懐かしさが渦巻いていた。夢に出てきた少年。あれは誰だろう。顔は思い出せない。だが、あの言葉と、頭を撫でる掌の感触だけは、魂に焼き付いている気がした。
(足が動かなくても、撫でられるからよかった、か……。まったく、お人好しにも程がある英雄気取りだな、そいつは)
俺は自分の両足を見た。今は自由に動くこの足。もし俺が同じ状況になったら、あんな風に笑えるだろうか。
(……まあ、俺は神に選ばれし存在だからな。足の一本や二本、失ったところで空でも飛んでみせるがな!)
俺はそう結論づけ、再び枕に頭を沈めた。二度寝をして、今度はもっと英雄らしい、ドラゴンの背に乗る夢でも見ようと決めて。




