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第12話 戦場の女神と若き戦士

皆さんのおかげでポイントが70超えることができました!いつもありがとうございます♪


 奥からおびただしい数のザルガンディア兵――いや、魔王軍の先兵どもが、獣のような雄叫びを上げながらこちらへ向かってきているのが見えた。

 その数、ざっと見て百は超えているか……!


「ユウさん、敵の数があまりにも多すぎます! このままでは私たちも危険です!」

「一度ニヴェアの本軍に合流し、態勢を立て直して打開を狙いましょう!」

「あちらの丘の上に、ニヴェアの軍旗が見えます! あれを目指します! しっかり着いてきてください!」


 アリュールは俺にそう呼びかけるが、土煙と立ち上る黒煙のせいか、あるいは単に遠すぎるのか、俺の目にはそれらしき旗の姿は捉えられなかった。

(くっ、この世界の人間は総じて視力が良いというのか、それとも俺が日本の便利すぎる文明生活に慣れ、野生の戦士としての本能的な視力が鈍ってしまったというのか……)

(いや、そんなはずはない! 俺の目は常に千里眼のごとく真実を見通しているはずだ! これはきっと、敵の魔術師が幻惑の魔法でも使って、俺の視界を妨げているに違いない!)


 先程目の当たりにした生々しい死の光景を脳裏で反芻しつつ、アリュールに導かれるままに森を駆け抜けていると、なんとかニヴェア軍の本体らしき集団に合流することができた。

 そこには、盾を構え、槍を天に向けたニヴェアの戦士たちが大勢いたが、その多くは鎧に傷を負い、息も絶え絶えで、見るからに疲弊しきっているようだった。

(ふむ、これがニヴェアの誇る精鋭部隊か! 少々お疲れのようだが、この俺、ユウ様のカリスマと神がかり的な指揮で鼓舞してやれば、たちまち百人力、いや千人力の働きを見せるだろう!)


「ア、アリュール様だ! アリュール様がご無事でお戻りになられたぞ!」


 俺たちの姿に気づいた一人の若い兵士が、まるで救いの女神でも見たかのように、大きな声で歓喜の声を上げた。

 その言葉に、絶望の色を浮かべていた周囲の兵士たちも次々と顔を上げ、「おお、アリュール様!」「アリュール様が来てくださったぞ!」と、戦場とは思えぬほどの熱気と興奮が彼らの間を駆け巡り始めた。

 その瞳には、確かな希望の光が灯っている。

(ほう、このアリュールとかいう女、ただの特攻隊長というだけではなく、兵士たちからの人望も厚いと見える。なるほど、俺の未来の伴侶候補として、その器は十分なのかもしれんな! 俺の隣に立つには、これくらいでなくてはな!)


「アリュール様! ご無事で何よりです! 現在の戦況についてご報告いたします!」


 そう言って進み出てきたのは、部隊長なのであろう、他の兵士たちよりも一際立派な銀細工の施された鎧を身に着け、腰には指揮官用の長剣を帯びた、精悍な顔つきの男だった。


「本日はシルヴァン第二王子殿下の国境沿いの村々へのご視察のため、我々が護衛としてこちらへ訪れていたのですが、ザルガンディア軍による大規模な侵攻が突如として行われ、それに巻き込まれた形です」

「村民全員の避難は幸いにも済んでおりますが、シルヴァン王子が少数の護衛と共に、おそらくはあの前方に見える砦の中で敵の目を逃れて隠れておいでで、我々も王子を見捨てて撤退するわけにはいかない状態です」

「しかし、ご覧の通り、敵兵の数は我々を遥かに上回り、既に何度も砦への突撃を試みており、打開が非常に難しい状況にあります」


 その男――ハイラと名乗ったか――は、悔しそうに唇を噛み締めながら、簡潔に現状を説明した。

 アリュールは、ハイラの報告を厳しい表情で聞き終えると、1つ頷き、真剣な声色で言い放った。


「説明感謝します、ハイラ隊長。ここからの指揮は、私が執ります」


 そして、周囲の兵士たちを見渡し、凛とした、しかしどこまでも澄んだ声で呼びかける。


「皆の者、よく聞いてください! ここからは私、アリュールが全軍の指揮を執ります!」


 その声が戦場に響き渡ると、疲弊していた兵士たちの目に再び闘志の炎が宿り、彼らの士気がみるみるうちに上がっていくのを、俺は肌で感じた。

(ふむ、なかなかどうして、大したカリスマではないか。この俺の指導を受ければ、いずれは一国を率いる女王にでもなれるかもしれんな!)


「我々の目標はただ一つ! 砦に孤立されているシルヴァン王子殿下を救出することです!」

「私が先陣を切って道を切り開きます! 皆さんは私に続いてください!」

「そして、もし万が一、逃げ遅れた村の方がいらっしゃった場合は、王子救出と並行し、最優先でその方々の安全確保と避難誘導をお願いします!」


 これまで俺の前で見せていた、どこかおっとりとした姿とは全く違う、まさに戦場を駆けるリーダーとしての気迫と覚悟が、アリュールから溢れ出ていた。

 アリュールの話を聞いていると、横の歳がおなじくらいであろう男が話しかけてきた。


「お前...戦場にそんな格好できたのか?」


 そんな風に、ずいぶんと馴れ馴れしく話しかけてくる。


「まぁいきなり国王に命じられたから着替える時間がなくてな」


「国王様に直々に命じられたん!? すげぇなお前。ってことは戦場は初めてか? くれぐれも気をつけろよ。俺はテオ。またいつか会うかもだしよろしくな」


 そう挨拶したとき、


「では、全軍、私に続け! ニヴェアの誇りを見せるのです!」


 アリュールがそう叫び、剣を掲げて敵陣へと駆け出すと、兵士たちも雄叫びを上げてそれに続いていく。

 テオは、「じゃあまたいつかな!」とそう言って、俺が名乗る間もなく、彼は仲間たちの元へ駆けていってしまった。


 俺も、このビッグウェーブに乗り遅れるわけにはいかんと、アリュールのすぐ横に並んで走り出した。


「ユウさんは、ご自身の命を第一に考えてください。決して無理はなさらないように」

「ですが……もし何か、戦況を打開できるようなことに気づかれたら、すぐに私に教えてくださいね!」


 アリュールが、戦場を駆ける中でも、俺の身を案じるような優しい視線を一瞬だけ向けてきた。

(ふん、俺の身の安全を気遣ってくれるとは、殊勝な心がけだ)

(そして、この戦場の混乱の中にあっても、俺の持つ超人的な洞察力と戦略眼に期待していると見える!)

(よし、この戦場の全ての情報を瞬時に解析し、的確無比なる神託を授けてやろうではないか!)


 すると、前方からおびただしい数のザルガンディア兵――いや、見るからに邪悪なオーラを纏った魔王軍の雑兵どもが、獣のような奇声を発しながら雪崩を打って押し寄せてくるのが見えた。

 その先頭には、禍々しい黒鉄の角飾りがついた兜を被り、両手に三叉の刃を持つ、血塗られたさいのような異様な武器を構えた、一際大柄なオークの首領リーダーらしき男が、地響きを立てながら立ちはだかっていた!

(出たな、魔王軍四天王の一角! あの禍々しい武器は、間違いなく魂を刈り取る呪われた魔剣の類だ!)


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