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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 2章 投げ捨てることだって、簡単では無かったけれど
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1話 正直これが一番楽しい

「給湯器、復活よ!」

「テルマエに入れるってことですかぁ!?」


「黙りなさい平たい顔族」


 マヤさんによる完璧な返答には、相変わらず惚れ惚れしてしまう。俺の顔面の起伏が乏しい、という点はちょっと傷つくけど。ローマ人に比べたらね。


 わーわーやーやーわちゃわちゃわちゃ。と蛇口からお湯が出るのを確認する。ふざけたオノマトペだけど、大方こんなもんでした。俺はちょっと離れたところからやーやーする役。わちゃわちゃはしてないです。誓って。


 夕方のリビング。普段なら夕食時までバラバラなのだが、今日はわけあって全員集合している。そして誰もが、スマホなりメモなり、俺に関してはノートパソコンを持ってここにいる。


「ほら、確認したらさっさと座って。本題はこっちなんだから」

「「「はーい」」」


 キッチンから戻ってくる女子三人。やーやー係の俺は一足先に着席して、パソコンを起動する。

 デスクトップは可愛い女の子のイラスト、と思いきや普通に竹林の風景。最初っからテンプレートとして用意されてるやつ。推しが常に見えると落ち着かないのだ。というより、人前で見せられないものはデスクトップに表示したくない(本音)。


「真広、司会頼んだわ」

「なぜ俺が」


「つまんないじゃない。進行役」

「なるほど」


 納得の理由だった。じゃあなぜ俺に押しつけるんですか? という問いを飲み込んだ俺は社会性Sランク。

 別にこのメンバー相手なら、代表して喋るのも苦じゃないし。


「じゃあ、ぼちぼち始めますか」


 だらっと話題を動かし始めると、かつてないほど周りからの圧を感じた。ゴゴゴ……と立ち上るタイプの圧力、ここの人は全員使えるんですね。入居に必須でしたっけ?


 へらっと流そうとするが、しかしここは鎌倉幕府。三方を女学生に囲まれ、もう一方をOLに挟まれている。攻められやすく守りにくい陸の孤島。生きて帰れるかは、これからの俺の発言にかかっている。


 緊張感に乾いた唇を、静かに湿らせ、


「沖縄旅行。行きたいところがある人は――」


「美ら海水族館に行きたいですっ!」

「離島でその地ならではの空気を!」

「食べ歩く!」

「海は必須よ! 白いビーチ!」


「国際通りというところにも興味があります!」

「三線の演奏を生で聴いてみたいのだ!」

「座って食べるお店も外しちゃダメだよ!」

「水着でナンパされるまでは帰れないわね」


「なるほどなるほど……」


 古河はなしで、マヤさんは湘南っと。


 第二希望まで並んだところで、順番に確認していく。


「七瀬さんのは定番って感じだし、反対意見もないと思うんで。採用でいいかな」

「ありがとうございます!」


「混雑はすると思うから、休日は避けたいねって感じか……。オッケー」


 エクセルを開いたくせに、普通にワードに文字を打ち込んでいく。大学で学んだこと? 忘れたよんなもん。


 次、宮野。こっちもまともな意見でありがたい。


「離島ってどうなんだろうな。どこに行くかにもよると思うんだけど……と、いうより。酔いやすい人いる?」

「ボクの右に出る者はいないだろう」


「なんで自信満々なんだよ」

「特に船がダメなので、道路で繋がっている離島がいいのだ」


「なるほど」


 そうなるとけっこう限られてきそうだ。まあ、他の目的地との兼ね合いで決めるとしようか。具体的な指定はないようだし。

 どっちも実現可能ラインではあるので、上手く組み込む方向で検討、と。


「戸村くん戸村くん。ご飯の予定を綿密に決めないとダメだよ」

「自由にしといたほうがよくないか?」


「そしたらコンビニおにぎりになっちゃうよ!」

「一理あるけども」


 旅先で食べるコンビニおにぎりって美味しいですよね。そういうことじゃないか。古河が言ってることは違うな。


「じゃあ、ある程度食べる場所とかは決めとくか。でもあんまり綿密にすると、食べ歩きとかしんどくないか?」

「そこは胃袋に頑張ってもらうつもり」


「お前ほんと覚悟決まってるよな」


 古河の食事予定だけは綿密に……と。


「真広」

「…………」


「真広」

「…………」


「まひろぉぉぉおおお!」

「なんですかマヤさん! ツッコミ待ちならもっかいボケ直してください!」


 肩をがっちり掴まれて、頭をぐわんぐわん揺すられる。視界が高速メリーゴーランドのように回る。走馬灯、見えちゃったよね。


 これまでの人生を三週分見返したところでやっと解放。額を手で押さえて平衡感覚を取り戻す。


「で、なんですか」

「水着でビーチでパリピにナンパされるのよ」


「欧米か。はい、次」

「なんで! そんなに! 適当なのよ!」


「面倒くさいからに決まってんでしょうが!」


 あり得ないとでも言いたげに目を開くマヤさん。だが、俺は進行役なので毅然とした態度で振る舞う。


「……ちゃんとしたこと言わないなら、このまま無しにしますからね」

「シュノーケリング」


「了解です」


 拗ねた子供のように言うと、ふんっと視線を逸らされた。

 この人ほんと、難易度高いよなぁ。


 マヤさんのぶんを追加して、最後に俺の意見を加えておく。

 安全に楽しむ。と。


 ざっくりと行きたい場所を決めて、ルートを作って、宿泊施設にも目星をつけていく。

 部屋? 別室だよ別室。こっち見んな宮野。

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― 新着の感想 ―
[一言] 旅は計画している間が一番楽しいとか言うけど。 行ってからも楽しいかな。 沖縄は全く知見がないなあ。
[気になる点] 玉泉洞には行かないのかな? [一言] 暑さ対策忘れずに 夏の沖縄は本州どころか九州と比べても別格 飛行機から降りた途端に熱気が襲ってきて変な声が出たのを覚えてる これで盛りはまだ先と聞…
[気になる点] 楽しみですね~ 旅にハプニングは付き物ですからね~ さて、どんなラッキーが待っているのやら…(ΦωΦ)
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