98
「ナーオット殿下のことは対策を立てるとして、ライラ嬢はもう私のことは暗殺しないのだな?」
確かめるようにエドワード様が質問してくる。
私はそれにしっかりと頷いた。
「はい。暗殺稼業からは足を洗います。」
「そうか。わかった。ならば、私の味方になってくれると思っていいかな?」
「はい。エドワード様。」
私はその場にひざまづきエドワード様に向かって頭をたれる。
私の中で眠っているレイチェルの存在。彼女の心の温かさに触れ、孤児たちの生命力に触れ、私は暗殺稼業から足を洗うことを決意した。
そうしてエドワード様に忠誠を誓う。
レイチェルの大好きなエドワード様。
私はエドワード様もレイチェルも守りたいと思った。
レイチェルの意識を共有したからか、レイチェルに対して自分の半身だと思えるほどの愛着がわいたのだ。
「悪事に手を染めて足を洗う。染まった手は元には戻らないでしょうが、この先エドワード様に誠心誠意お仕えいたします。」
心からそう思ってエドワード様を見上げれば、満足気な笑みを浮かべるエドワード様がそこにいた。
どうやら、私はエドワード様に認められたようだ。
「心強いな。レイチェルのことを頼んだ。必ずレイチェルを、目覚めさせてくれ。」
「はい。承知いたしました。」
私は深々と礼をすると、マコト様と一緒にエドワード様の執務室を後にした。
そうして、マコト様と会話もすることなく一目散に私たちの家に向かう。
玄関をくぐったところで、私は足から崩れ落ちた。
「おっと、大丈夫ですか?」
「は、はい。」
どうやら、自分でも思っていた以上に緊張をしていたようだ。
自分のテリトリーに入った瞬間に安心して気が抜けてしまった。
慌てて私を支えるマコト様にお礼を告げると、ダイニングに二人で向かう。
足が覚束ない私の腰を支えながら、ダイニングの椅子にゆっくりと私を座らせてくれたマコト様。
彼の目から溢れんばかりの愛情を感じて気恥ずかしくて思わずマコト様から目をそらす。
「頑張りましたね。」
そう言って、マコト様は私の頭を「よしよし。」と優しく撫でてきた。
「………私、子供じゃありません。」
「わかっていますよ。ライラさんが子供だったら、ライラさんを特別だと想う私は犯罪者になってしまいます。」
「………。」
なんだかマコト様がストレートに感情を表現してきて、とても気恥ずかしい。
マコト様はこんな人だったのだろうか。
にこにこと笑うマコト様の目を直視出来ずにいると、マコト様はおもむろに椅子から立ち上がり、握っていた私の手を放した。
「あっ………。」
思わず名残惜しくてその手を視線で追ってしまう。
すると、「クスクス。」とマコト様が笑い声をあげた。
「すぐ戻りますよ。紅茶を準備してくるだけですから。」
そう言ってマコト様は鼻歌を歌いながらキッチンに消えて行った。




