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深夜、街が寝静まった頃、私は自室のベッドからゆっくりと身体を起こした。
この屋敷には、現在マコト様以外は誰もいない。
教会にいる孤児のためにも、アックドーイ侯爵たちをなんとかしなければいけない。
それも、できるだけ早い方がいい。
マコト様がなんとかしてくださると言っていたが、それでも今日明日には対処できないだろう。
私がやるしかない。
ベッドから音を立てないように慎重に立ち上がると、昼間用意しておいた動きやすい服に音をたてないようにそっと着替える。
支度が終わると、部屋のドアをゆっくりと開け、廊下の様子を伺う。
マコト様が起きている気配も感じられない。
一歩足を踏み出すと、ギシッと廊下が軋んだ。いつもは気にならないその音に、ドキッと胸が鳴った。
慌てながらも周囲を伺う。
そろり、そろりと廊下を歩き玄関のドアの鍵を開けると「カチャリッ」という音が大きく響き渡ったような気がした。
ドキッとしながらもマコト様が起きてこないだろうかと周囲を伺う。
誰もいないことを確認して、玄関のドアを開けた。
「どこに行くんですか?ライラさん?」
すると気配がなかったはずの後ろからマコトさんの声がした。
一瞬で心臓がドキッと跳ね上がる。
「マ、マコト様っ!?」
気配を感じなかったのに。
慌てて後ろを振り向くと夜着を来たマコト様が腕を組んで立っていた。
その顔は笑みを浮かべていたが、目は笑ってはいなかった。
「こんな夜更けに忍び足でどこに行くんですか?女性が一人で深夜に外に行くなんて関心しませんよ?」
丁寧な話し方が逆に怖い。
ドキドキと脈を打つ胸を右手で押さえて、ひきつりながらも笑みを作った。
「眠れなかったので夜のお散歩に・・・。」
「そうでしたか。でも、一人では危険ですよ。」
「あはは。そうですね・・・。」
「眠れないのならお勧めのハーブティーがありますので一緒に飲みましょうか。」
「嫌です」とは断れずに、曖昧に頷いてマコト様の後ろに続いてキッチンに向かう、
お湯を沸かし、丁寧に茶葉からハーブティーを淹れてくれた。
「さあ、どうぞ。リラックス効果がありますのでぐっすり眠れますよ。」
「あ、ありがとうございます。」
ハーブティーとは言ってもいろいろな茶葉がある。これは何の茶葉なのだろうか。
気になりはしたが、満面の笑みで飲むようにすすめるマコト様の笑顔が怖くて聞くことができない。
ハーブティーの匂いを嗅ぐこともなく、紅茶を口に含んだ。
爽やかな香りが口の中に広がる。




