四十五作目・ バレエ映画感想 「ジョイカ JOIKA 美と狂気のバレリーナ」
NOTE側の文面には画像、動画多数あります。
よろしければそちらもご覧ください。
https://note.com/1fujitagourako1/n/n8d891bd5cae4
本作は実在のバレリーナ、ジョイ・ウーマックの半生を描くバレエ映画です。これ、観に行くつもりが上映期間が異常に短い上に取り扱う映画館が極少で困りました。でもバレエものなら大画面で観たいし、というわけで岡山から那覇まで飛行機で日帰りで観てきました。那覇が本作を公開する最後の地域だったのです。
なお、これを書いたわたしはバレエが好きですが、特定のダンサーは推していません。この人の踊りが好き、というよりバレエという存在自体を愛しています。
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本作は大雑把に3つに分けられます。
① ボリショイバレエ団に入るまでのあれこれ、
最初にアメリカ人として初めてボリショイバレエアカデミーに15歳で入学。そこで認められたらボリショイバレエ団に入団できる流れです。ヴォルコワという教師のクラスに入るが別の生徒に対するえこひいきがあからさまでした。同級生からも「どうやって入り込んだの?」 と冷たくあしらわれる。大昔のバレエ漫画を思い出しましたよ、頑張れジョイカ。
無事ヴォルコワにも認められ入団できる、という段階でロシア人でないからダメだと言われた。即日レッスン中の恋人を呼び出して今すぐ結婚してという。形だけの式が終わるとその足で結婚証明書をヴォルコワに見せにいき、「ロシア人になりました」 と宣言する。それで入団できた。これ実話ですよ、すごいよジョイカ。
② 無事入団してから解雇されるまでのあれこれ、
せっかく入団してもその後はパッとせず群舞ばかり。ジョイカのすごいところは、かつてヴォルコワにしたように、今後はボリショイで一番地位の高い芸術監督に直談判してソリストの役をくれという。自信家でうらやましすぎる。
驚いたことに監督は役が欲しいならパトロンを持て、と勧められる。監督の紹介でパトロンとデートをして覚悟を決めたがやっぱりダメ、というわけで断る。すると監督の顔をつぶしたなとバレエ団を解雇される。
性接待のパトロンを監督から紹介されるって……実話ならすごいよね。確かにボリショイの性接待はかつて問題になった。でもこれはあんまりすぎる。よく映画化できたなあと思う。
③ このままで終わってたまるかと起死回生するまでのあれこれ。
解雇されて離婚もされて家も追い出され、ジョイカはバレリーナから掃除婦になる。勤務後は一人でもバレエレッスンをかかさない。ボクシング練習場の片隅で一人で踊る。
そんな折にヴォルコワがやってきてあなたのせいでボリショイから私も干されたのよと愚痴をいいつつ、ヴァルナに出ないかとすすめる。ヴァルナ国際バレエコンクールですね。ブルガリアで開催される権威あるバレエコンクールです。そこからクライマックスへ。
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以下はバレエシーンについての考察です。
わたしはバレエスクールの初日のシーンでずっこけました。そこのスクールは全員がボリショイバレエ団の入団を希望しているので当然双方即ライバルになる。しかもジョイカはアメリカ人。余計に警戒されて敵意を向けられるのはわかる。
でも、最初のバーレッスンの曲がくるみ割り人形の中国の踊りで、あり得ん。映画なのでその一曲ですぐにセンターレッスンに移りますがヴォルコワ先生の態度もあり得ん。
最初から目立つ場所で一番に踊らせる。ヴォルコワの目つきと言葉が怖く、目をつぶったまま踊ると、バカにしてるの? とさらに怒られる。
そのうえで無音で1人だけで踊らせる。
でも日がたつうちにジョイカも上手にできるとヴォルコワも徐々に褒めてくれる。感情的な教師だけどまあ芸術家だし、納得できぬ踊りをする生徒を排除するのも仕事のうちだし。(実際にできない生徒を追い出すシーンもあった)
でもジョイカは選抜に漏れると抗議しにいくのだよね。まだ10代なのにちゃんと自分は踊れるからチャンスをくれと言いにいく。これはなかなかできないことではある。
自己主張ができないと認めてもらえないってそれって、内気なわたしには理不尽に思える。誰かに認めてもらえるまでに、黙々とレッスンを励むのが王道だと思うが、ジョイカはそれをすっ飛ばす。この辺り無鉄砲だけど、自分の才能を信じ切っており偉いと思いました。やっぱり成功する人は気の強さも必要なのかも。
自信の裏付けはあり、皆が寝ている時でも一人で黙々と自己レッスンを続ける。そうやっていくうちにジョイカは認められていく。すると周囲の目も厳しくなる。
バレエは技量で認められると皆が優しくなるのではなく、逆に厳しくなる。これは感覚的にわかる。できて当たり前になっていくから。
映画では徹底しており、ジョイカに仲の良いバレリーナは一人も出てこず、談笑しているシーンすら一度も出なかった。ご飯も一人で食べている。でも美人だから彼氏はすぐにできたのだよね。やっぱり美人はトク。
ジョイカがヴォルコワに話しかけられて、無視されたかつてのお気に入りだったバレリーナが泣きだすシーンもある。でもヴォルコワやジョイカは平気だ。このあたりも大変シビアですね。強いものは場面も支配できるのだなあと思う。
バレエに因んだいじめはもう定番中の定番が出ている。トウシューズにガラスのかけらを入れられたり、大事なレッスンに遅刻をするように目覚まし時計を盗まれたり。
被害者には誰も同情しない。先生すら。まさにバレエ弱肉強食です。でもジョイカは被害者になってもまだヴォルコワにくいさがる。
あなたが私の立場であれば、そのまま引き下がれますかと。
いや、気が強くないとここまではできない。だからこそジョイカはバレエ界に生き残れた。
映画上ではジョイカ役の女優はダンスは得意だがバレリーナでない。それで顔のアップがやたらと多いのかと思っている。美しい人だから見るに堪えるが、踊るシーンは顔だけ、もしくは足だけが多い。パドドゥ全体像も少しあるがほぼ静止シーン。案の定、重要な舞台シーンはジョイカ本人が自ら吹き替えに出たらしい。フェッテやジャンプのシーンですね。バレエ映画はそのあたりのつなぎの編集も難しいかと思う。
◎◎ バレエ界における性接待の話
これね……バレエファンとしては複雑ですが、その手の話は都市伝説だと笑い飛ばせないのが怖いところです。ボリショイの性接待が映画になったと誰も強調しないのはボリショイに遠慮もあるのだろうな……。
性接待でなくセクハラは昔から問題になっていた。近年では10代前半のバレリーナ育成の名門とされているスイスのバレエスクールでもニュースになった。厳しすぎる食事制限も問題になった。
バレリーナ志望者は国外に出る前に、そういうことになったらどうやって拒絶するか、逆に受け入れるのかと赤裸々に親子で話し合った方がいいかと真面目に思う。
映画ではジョイカは性接待を断ったからバレエ団を解雇されたとなっている。それを聞きつけたアメリカの新聞紙から取材要請があり応じる。すると嘘つき女とロシアの新聞のトップに顔写真とともにでかでかと掲載される。気の強いジョイカもさすがにショックを受ける。交通機関の中で己の顔が出ている新聞を全部持って帰る。後年回顧録を出したときにその時のショックを思い出して映画化を承諾した理由になったのではないかな。
◎◎ ジョイカの無鉄砲な性格が成功に導いた
まだ10代なのに先生にくってかかる。これは母親に似たのですね。ジョイカの母親も、関係者が制止しているのにもかかわらず、ヴァルナバレエコンクールの舞台袖まで入り込んでいく。暴挙です。あのヴォルコワでさえ、ため息をつくほどに止められない。
ジョイカの親子関係も映画では丁寧に扱っているが、母親のコンクール本番での舞台袖での振る舞いをみて、娘の足を案じるがゆえではあるけれども、母親が思う通りに正直に生きろと今でも態度で示しているじゃないかと思った。
現在のジョイカはバレリーナでも権威ある地位についている。彼女はボリショイでは成功できなかったが、そのヴァルナでも銀賞をとり、バレエ界で活躍中です。ハッピーエンドです。よかったね、ジョイカ。あなたのその気の強さが成功を導いた。真似しようたってこれは誰でもできることではない。
ジョイカは実在の人物なので、今どこで何をされているかわかります。しかもまだ若いし。ええ、彼女は1994年の生まれなのでこれを書いている令和7年現在では31歳です。まだ30代! そりゃ今もなお踊り盛りで、主役の踊りのシーンは本人が踊るし踊れるし。
それでいてすでに自伝を書いて出版もしているし下記のように自分だけのHPを作っているしで、映画にもなったし、今年(令和7年)からローザンヌ国際バレエコンクールの審査員にもなるしで我が世の春ですよ。素晴らしい活躍です。
教えもされているので、来日されることがあれば見学したいと思っています。
下のURLは、独自のHPです。下部には彼女が踊る動画がたくさんUPされて、しかも無料で視聴できます。
www.joywomack.com
下のリンクは本年(令和7年)開催されたローザンヌ国際バレエコンクールの審査員の告知です。ジョイカ自身は、最初から(15歳から)ボリショイ入団を希望していたのでローザンヌには参加していない。
ボリショイを退団させられたあとで、方向転換してヴァルナ国際コンクールに出場したのです。(ローザンヌに出場するには年齢制限などがあった)
ヴァルナではボリショイの発表を鵜呑みにしたバレエファンから、本番で嘘つき女などのヤジを飛ばされていたが、それをはねのけて銀賞をとり、現在にいたります。やっぱり彼女、かなり気が強いですよね。インスタでも見ていたらわかってくるものがある。
彼女は最終的にボリショイのプリマにはなれなかったが、それ以上のものを手に入れたと思う。おめでとう、ジョイカ。よかったね、ジョイカ。
www.prixdelausanne.org
ウィキ(英語)あり。 Joy Womack - Wikipedia
en.wikipedia.org
最後に面識ないけど元バレリーナ志望の弁護士さんの考察を置いておきます。狭い世界の中での法的な相談がある場合は、こういった弁護士さんを念頭に置くのもいいかなと思う。ジョイカは、性接待も跳ねのけるほどの強い自我があったけれど、そうでない人も多いと思うので。
https://japan-ballet.com/pdf/s_20230227.pdf




