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四十冊目・九十歳。何がめでたい・佐藤愛子

 佐藤愛子・九十歳。何がめでたい



 佐藤愛子は大正十二年生まれの作家です。令和三年現在、九十七歳で現役です。ボケもせず、筆も達者で作家道を今なおばく進してます。同じような大正生まれの女性の著名な作家で存命しているのは、瀬戸内寂聴ぐらいかな。彼女は佐藤愛子より、一つ上です。でもお二人とも毛色がまったく違うので、比べられることはない。同じ作家でも書くものと性格が違い過ぎる。

 二人ともエッセイの名手ですが、寝転がってお菓子を食べながら読むエッセイといえば、私は間違いなく瀬戸内寂聴よりも佐藤愛子を選びます。あっさり風味の書き方だけど、突然怒りの表現が叩き込むように文面を連ねてきて、読まされるこちらは佐藤さんらしいなあと、笑いながら読む。そう、それが佐藤愛子。愚痴ともつかぬ、もやつく感情を一生懸命書いているところを、逆にわかるわと思いつつもついつい笑い読みしてしまう。佐藤愛子のファンは読むと元気になるというが、このあたりですね。私も大好き。もっともっと評価されてもいいような気がしますが、佐藤愛子自身は評価を求めない性格です。サバサバとして文章でもって人を叱り小言をいい文句を連ねるが、反応を求めない。

 実は私は佐藤愛子とその娘さんが登場するシリーズのファンでよく読んでいました。北海道に別荘を持って怪奇現象が、霊体験が、というあたりでなんとなく苦手になって離れていたのですが、「九十歳。何がめでたい」 で大ヒットを飛ばす。え、まだ書いてるのと驚いて読みました。すごくおもしろい。この本は百万部超のベストセラーですよ。佐藤愛子節、健在です。

 九十歳超で巨額の印税を稼いですごいです。読めばわかりますが、やっぱり気負いとか感じさせず、さらりと書いているので読者もさらりと読める。数十年前に北海道の別荘を作ったときの苦労話の続編があって非常に懐かしい思いで読みました。子授け地蔵のおかげで授かった子が今度は縁結びを、となっている。邂逅ってこういうことかと。本を読んでそんな単語かいこうが思い浮かぶなんて初めての経験です。

 数十年前、京阪特急の通学の行きかえりに私は必ず佐藤愛子か林真理子か加藤諦三のどれかを持って読んでいました。学生でお金がなくて(今もないけど)安い文庫本ならたくさん持っていました。懐かしいです。


 本を開くときは、私は本文を読まずラストページを見る。次に目次。ところがその目次の第一項目が、「こみ上げる憤怒の孤独」 です。それが目に入ったとたん「ああ、変わってない」 ともう笑えてきました。

 しかし「笑える」 なんて、通常なら九十歳代の人相手にそんなこと思わない。佐藤愛子が長らくエッセイを書き、長らく読者をしていたからこその想いです。憤怒、という言葉、ただ普通に怒るのではなく、活火山の噴火の如く怒るのが憤怒です。鎮められることのない佐藤愛子の怒りの対象は世の中全体もしくは自分への老い、それから運命。

 すみませんがもう一度、先ほどの題名を声を出してみてください。 → → →「こみ上げる憤怒の孤独」 

 実際に声を出して読むと短文でも韻律リズムを踏んでいるのわかる。この言葉の選択がうまい。

 愛する家族からいたわられてると思いきや、次々と出る体の故障やらで嘆かれている。「長生きするのも大変」 と。しかし、「長生きされるのも大変」 じゃない。佐藤愛子が書くとおかしみが出る。本文も愚痴ばかりではなく、最後には共感できるように書く。このあたりは簡単に書けるようでも難しい。このたびの連載にあたって、もうトシだしということで断ったりしたらしいですが、いざ開始したら老人性うつ病が治ったという。でも題名はやけくそでつけた、とあるのがどこまでも佐藤愛子。


 でも私は知っている。やけくそとは書いているけれど、熟考はされている。

「九十歳何がめでたい」

「九十歳、何がめでたい」

「九十歳の何がめでたい」

 多分、その「何が」 も「どこが」、「めでたい」 が「うれしい」 に変えてああでもない、こうでもないと考えられたと思う。決定題名が「九十歳。何がめでたい」 ですよ。句読点よく見てください。ど真中にある。止めるというより、トドメを題名に持ってきた。非常に珍しい使い方だと思う。

 佐藤愛子はさらりとエッセイを簡単に綴っているようでも、ひっかかりのないように工夫されている。私にはわかる。なぜかというと、同人誌批評では同人の作品をめったに褒めないから。書き手側の妥協を許さない。さすがに第一線で活躍されてきただけのことはある。超絶大物ですよ。このサイトでは作家を本気で目指す人も多いと思うので、あとがきで佐藤愛子の講評などを読めるサイトを貼っておきます。

 作家志望でない人は、この本を読みましょう。普通に読んでもすっきりです。



」」」」」」」


※ 追記 その一::昭和時代に書いたエッセイはどれを読んでも昔の男女の性差、感覚を俯瞰させる。佐藤愛子を育てた家族は明治生まれ。佐藤愛子の多感な少女期は大正と昭和初期。つまり明治、大正、昭和、平成、令和とその四つの時代の男女の性差、感覚がわかる。現在の価値観の変換を、嘆きともつかぬおかしみのある文体で読ませる。特に令和に発行された「こんな老い方もある」 がおすすめです。



※ 追記 その二::作家になりたい人へ。


 佐藤愛子は「役に立たない人生相談」、ポプラ社発刊 で作家になりたい人のための相談に答えています。

 過去、「作家になりたいんですけど」 と聞く人に対して遠藤周作が怒ったという。そう書く佐藤愛子もこの本の中でもっと怒る。アドバイスをくれと本職に質問する時点でダメだという。それはなぜか。短いページながら第一線を張った作家の回答をぜひ読んでみてください。これを上から目線だと感じたら、私もその人はダメだと思う。

 佐藤愛子のエッセイは結構自己開示部分が多いので、熱心な読者は佐藤愛子の個人情報を知っている。佐藤愛子は出版社から原稿依頼が来る以前、売れない小説を書いていた時期がすごく長かった。当時の貧乏話が小説やエッセイに全部生かされているのがわかる。売れたのでこうして書けるけど、売れなくても佐藤愛子は小説を書いていた。それは読者としても嘘ではない、正直に書いているとわかる。この回答は作家としての生存者バイアスの立場からの主張ではない。




」」」」」」」」」」」」」」






佐藤愛子関連のページ(こちらでも敬称略)

随筆春秋のページです。佐藤愛子先生からのご指導に飛びます。

 → → https://zuishun.jp/99_blank002014.html


 読んで興味を持たれたら、そこから更にトップページに飛んでみてください。そこでは同人でもなくても、一般人にもエッセイの募集をされている。募集作が最終選考に残ったら、佐藤愛子先生がその原稿を読んで更に選抜する。北日本文学賞形式です。掘り下げていくと、先生の講評が読めるが本当にめったにほめない。随筆春秋代表の作品でも厳しい講評が来る。容赦ない。ここに応募して受賞したら、授賞式で佐藤愛子先生に会えます。(令和三年現在、コロナ禍により去年から授賞式は中止です)


もう一つ不妊症の人へ。下記のページに飛ぶと、佐藤愛子の近影、ご自宅がうつります。そのページの下部までスクロールしますと、佐藤愛子のエッセイで超有名になった子授け地蔵の画像があります。北海道に行けるなら感染に注意しながら、お参りに行かれてもいいのではないかと思う。 → → https://zuishun.jp/99_blank020.html

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