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三十八冊目・ブロンドの処刑人 ・ ダン・グリーンバーグ

  ダン・グリーンバーグ ・  ブロンドの処刑人



 本作の原著である英語題名だと「exes」 です。exは、昔の恋人という意味です。その複数形ですね。ですので原作の直訳だと「昔の恋人たち」 になる。それを日本語訳では「ブロンドの処刑人」 としています。私はこちらの和訳の題名の方が好きです。題名に「処刑」 とあると、「そういう話」 だとわかるから。多分直訳の「昔の恋人たち」 にすると復縁話かと判断して読まなかったと思います。私は昔から男女交際話は、小説でも漫画でも「あの人は私の事が好きなのかしら」「昔のように、もう一度仲良くなりたいわ」 と、ぐねぐねと悩む人物にイラつく性格です。

 本作は何度も再読しています。しかし、読者デビューを見ると酷評に近い……同じ作者による「ナニー」 もおもしろいと思うがこれもデビューが少なく評価されていない。映画化をされていないせいだろうか、これを好きだという私の感覚がおかしいのだろうか……というわけで今回のひよこにあげてみます。


 ダン・グリーンバーグは1936年(昭和十一年)シカゴで生まれ、イリノイ大学で工業デザインを学んでいます。作家だけではなく、多岐にわたる分野で活躍されています。つまり作家以外にアダルト本、子供向け本、編集、テレビ業界、デザイン業界……いずれの分野でも名前を残している。どこの世界に首をつっこんでも生きていける器用な人という印象。令和三年現在、かなりのおじいちゃんですが、ひよこにあげるために、グリーンバーグ関連のホームページを閲覧したら講演などもしていて元気そうです。会ったこともない遠い世界の人ですが、長生きしてほしいです。


 さて、このブロンドの処刑人のあらすじです。私は連続殺人犯を追う刑事の小説というよりも、復讐譚と見ています。父親をはじめ異性から軽視されていた女性、ジュディーがやせて美しくなりお金持ちにもなって、どんな人でも対等に渡り合えるようになった。しかし彼女は、過去の恋人たちを探して殺すだけ。幸せになりたいと思って既婚者の刑事とつきあうが……という話ですね。

 殺し方の経緯が大胆で逆に同情を覚えます。元々父親から性的虐待を受けていて自己評価が最低だったことも、復讐心が燃え続ける要素にもなっている。ドラマ化したらヒットしそうと思うのですがそれはなかった。復讐賛美ストーリーは社会的影響を与えてしまう危惧もあるし、作中の殺し方がえぐすぎるところがあるからでしょう……でも私はそんな復讐譚が好き。ジュディーはたった一度の情事をした相手でも忘れられない。ヤリ逃げされた、遊ばれただけと悟ったときの失望を忘れない。ジュディーは金銭的にも容姿にも恵まれたとたん、復讐開始をする。この小説の評価が低いのは、たった一度の情事で相手を恨み殺人をするところでしょう。その面では感情移入しにくいところもある。もちろん、ジュディーの過去のつらい思いを丁寧に救い上げて書いてはいますけれども。

 また連続殺人犯を追う推理小説としては、都合がよすぎるのはある。犯人のジュディはスーザンと名乗り最初から刑事のマックスと雑誌記者として接近しています。だから厳密には推理モノではないし、マックスの刑事としての捜査方法もありえないらしいけれど、創作として面白ければ私はそれで良しとします。


 ああ、かわいそうなジュディー……きれいになって誰でも好意を持たれる素敵な女性になったのに……それなのに、彼女のしたことは、過去の恋人たちを殺すこと。再開した相手も、ジュディーとわかると、その美しさを褒めたたえてもう一度寝ようとする。ジュディは、そんな彼らを許すことができない。過去の行為をあやまりなさいというと、彼らはその通りにする。結局ジュディはそれを聞くと、「失格者だ」 として殺す。妻を選んでジュディーを拒絶すると、殺さずに生かして助けるルール。でもそのルールで合格した男は誰もいなかった。

 そんなに美しければ、いくらでも新しい恋人を得て楽しい人生を歩めたのに。よりによって記者として殺人事件を追う刑事と出会い恋人になる。この刑事はマックスといって妻と別居中。独身ではない。

 連続殺人ストーリーと並行して、恋愛に奥手なジュディと既婚者マックスとのつきあいが進む。でも、マックスはスーザンが殺人犯とはまったく気づいていない。相棒のカルーソ刑事は、スーザンを疑うが、スーザンもなかなか尻尾を出さない。

 マックスは都合のよい思考を持っていて別居中の妻のバベットとは離婚はしない。むしろ再構築を画策しながら、スーザンとつきあう。スーザン、イコール、ジュディーはそれを知って絶望する。ラストのクライマックス、スーザンが連続殺人犯と気付いたマックスとの緊迫した会話は、どきどきします。でもマックスは、やっぱりズルイです。なんじゃお前は~、私はマックスが嫌い……。同時に二人以上の女性を愛することは可能でしょうが、ジュディーのような過去に囚われて抜け出せない、ある意味気持ちの切り替えができぬ女性には過酷です。

 結局スーザンは部屋に踏み込んできたカルーソに殺される。監禁?されていたマックスは重傷ながら助かる。幼い息子を連れてお見舞いに来たバベットと簡単によりを戻すところが頭にきます。なんじゃお前は~と何度も思う。

 私はジュディーに肩入れしていたので、ハッピーエンドじゃなくてかわいそう。でも殺人犯を幸せにするわけにはいかぬ。グリーンバーグも彼女を殺すしかなかった。そういう話の持って行き方がうまいと思う。印象に残る終わらせ方で、読者は忘れられない。


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 ついでに同じ作者の「ナニー」 も。これは一種の妖怪譚です。ナニーも怪物になったきっかけがちゃんと書かれてあって同情した。だからといって雇ってくれた一家を支配しようとするのはいただけないけれども。最後はナニーを雇った一家は助かるので安心ですが、普通のハッピーエンドじゃないところが腕だなあと思う。

 グリーンバーグの作品はこの二作しか読んでいないが、彼は怪物側にたって、そういう心理や犯罪を遂行する描写が秀逸で飽きないです。日本語訳のこの手の本がもっとあればいいのにな、と思いつつ筆を置きます。

 多分私がジュディに肩入れするのは、良い意味での変身後、過去の屈辱感を払拭すべく相手を屈服させた上、命を絶つところが共感したのではないか。社会的生命を葬るだけでは彼女にとっては意味はない。そういう復讐をやり遂げる行為に、私自身が一種のあこがれを抱いているのも否めない。こう書けば危ない人認定されると思うけど、平気。この世には、もっと危ない人が善人のふりをして生きているから。因果応報なぞない狂ったこの世、私もまた、もがいて生きていくしかない。絶対に許せないことがあっても、結局どうにもならないことに憤るしかないから。





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