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二十四冊目・反転 闇社会の守護神と呼ばれて・田中森一

 田中森一・反転 闇社会の守護神と呼ばれて


 闇社会の守護人、という題名からして、どこかの異世界作品のキャラクターのような……と思いませんか。でも現実にそう呼ばれていた人がいたのです。その名も田中森一たなかもりかず

 この本の題名に冒頭に書かれた「反転」 というのは、何らかのものを逆にするという意味です。副題として本の帯には「伝説の特捜エース検事はなぜ「裏」社会の弁護士に転向したのか」 とあります。もう一つ副題があって、「極貧とバブルを赤裸々に生きた男の自叙伝」 とあります。

 どういう読者層でも購入意欲をもしくは興味をもってもらえるように、数種ある煽り文句? もよくできていると思います。


 なぜ私がこれを読むかと申しますと、私と同じ世界に生きていていながらも「私と生涯接触することのない地位にある人間」 が何を考えていたのかを知りたいという好奇心があるから。そういった理由で皇室関係、特にダイアナ妃の著作も大好きです。氏も例外でなくまたバブル当時の新聞を連日にぎわしていた人です。

 帯の文面にあるように、氏は貧しい育ちでありながらも立身出世して政治家や財界の人に頼られる弁護士になりました。しかし、途中で詐欺罪で逮捕されて刑務所に行きました……。すごく簡単に書き抜いてみます。


 大学生で弁護士資格取得 → 特捜エース検事 → いろいろあって嫌になってやめる → セレブから闇社会まで重宝された超有名弁護士  → 逮捕されて犯罪人 → 刑務所に収監 


 まるで人生ジェットコースターです。この暴露本を出した時は判決を不服として上告中でしたが結局刑務所で服役しました。でも罪を認めたわけではなく、昔の仕事仲間にハメられたと思っていたようです。私には真偽はわかりません。

 こういう人間は何を考えて生きていたのだろう……私の感想は、もし本人が生きていれば多分苦笑一つですまされるでしょう。それでも私とは別世界の人生を垣間見せていただいたので忘備録の一つとして書いてみたいなあと選んでみました。

 多分年若い読者さんはこの田中森一の名前を知らないと思います。すでに故人ですが彼はバブルの時の超絶有名弁護士。七億円もするヘリコプターを持っていて全国各地を移動し、マンションも一戸ではなく丸ごとの棟買いです。普通の弁護士はヘリコプターなんて買わない。超お金持ちの弁護士さん。

 贅沢三昧をしていた氏だって小さいころは貧乏でした。幼少時は漁師のお父さんが借金取りに責められているのを見る暮らしです。本当にその日暮らしの貧乏人の育ちです。立身出世とはここからですよ、とはじまるテンプレのようなものです。幼い末弟が亡くなった時は氏の父は泣きながらも「これで食い扶持が減ったから親孝行な子だ」 とまで言わせたのです。かわいそうなぐらい貧乏。氏は七人兄弟の長男で漁師になることは決定でした。が、母親から「こういう貧乏暮らしから脱出するには勉学に励むしかない」 と言われていました。もともとは学問が好きだったのでしょう。漁師になるのに勉強なんかしてはダメというお父さんに対抗して、母親と一緒に内緒で勉強するくだりがあります。このあたりは、物語として読むとおもしろいです。文章も上手ですらすらと楽しく読めます。

 そろばんの練習もして、熱心のあまりに教師からそろばんを恵んでもらう、いや、譲ってもらう。中学生時代に近所の子を集めてそろばん教室を開き、学資を稼いだとあります。苦労していますね、でもその時から人をモノを教えて人の上に立つ感覚を得ていたのでしょう。紆余曲折の末、大学生の間に司法試験を一発合格します。合格した本人すら、勉強は確かに必死でしたがあれでよく受かったと、振り返るぐらいスリリングな? 合格でした。そこからは成功者まっしぐらです。裁判官希望でしたが、学生運動にかかわっていた疑いがもたれたために裁判官にはなれなかったとあります。それで検事になりました。


 えーと本の内容からそれますが。司法試験に合格するとまず約一年間の司法修習をうけてから「法曹」 になります。法曹とは以下の三つの職業をいいます。①弁護士②裁判官③検事(検察官の役職の一つ)の三つのどれかになれるようです。六十人ほどの司法修習クラスで、裁判官になれるのは1~2人ほど、検事だと5人ほどだそうです。残りは弁護士ですね。弁護士になるのだって大変なのに裁判官はさらに大変で成績優秀でないとなれないようです。氏はそれを希望していました。ちなみに検事は「検察官の役職の一つ」で検察官は、犯罪者を起訴することができます。つまり犯罪者を捕まえるまでは警察の仕事だがそこから懲役年数などを考慮していくのは検事の仕事、決定するのは裁判官、という考えかな。もうちょっと詳しく書くと検事は①刑事事件について捜査及び起訴、不起訴の判断を行い、②起訴が相当だと思えば裁判所に法の正当な適用を請求し、③裁判の執行を指揮監督します。

 この本によると裁判官になれなかったのは成績不良ではなく、学生運動とのかかわりが疑われたとあります。昼間は学生運動を妨害するために所属の空手部の依頼で運動家を蹴散らしていた。しかし夜になると逆に氏はかわいい女子大生の運動家と仲良くするために学生運動の本拠地に入り込んでいたと……自慢気な文面ではありましたが敵対する組織を行き来できること自体、「節操がない」 男です。私は氏のそういうところが甘いも酸いも噛分けるそしてセレブから闇社会までの気持ちがわかる弁護士になれた所以かもと感じました。つまり氏は良い意味で若い時から思考と行動が柔軟だったのです。

 結果、検事、それも検事の中の検事とされる特捜(特別捜査部、政治家の収賄事件など大規模事件にかかわる部署)のエース検事になったのですが、事務室に閉じこもってばかりではなく自腹を切って情報を購入したり。このあたり普通の検事はしなかったらしいです。というか本当はしてはダメ。それをやって成績をあげてエースになったわけです。

 しかし氏は頑張って解決に導いた事件を政治家の圧力で握りつぶされた悔しい思いもしました。それが長じて検事をやめて弁護士に転向です。氏は弁護士として政治家やヤクザともつきあいがあって社会の裏の裏まで知り尽くしていきました。これも成功して人生絶賛謳歌中、しかし一瞬先は闇というわけです。

 こういう破天荒ともいえる人生を歩んだ人が回顧録を書いたものだからそりゃおもしろいはずです。よく売れました。私の持っている本の帯には二十五万部突破とあります。著作の中で金満家に群がる政治家や芸能人の名前まで暴露しています。刑務所まで行くのだからもう恐れるものなんか何もナイ、という感じで書かれています。

 氏の人生としては、刑務所に行ったことはめでたしの結末ではなかったのです。氏と同じ時代を生きていた読者には「あのバブルとは何だったのか」 と思わせてくれます。今更ですが氏についてウィキから一部ひっぱってみます。先に私が書いた話とダブりますがお許しください。


」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 田中 森一、昭和十八年生まれ、平成二十六年没。日本の元検察官、元弁護士である。検察時代は大阪地検特捜部、東京地検特捜部等に所属し、「特捜のエース」として数々の汚職事件を担当した。

 昭和六十二年のバブル景気絶頂期に弁護士へ転身。山口組などの暴力団幹部や仕手筋、総会屋など、いわゆる裏社会の人間の顧問弁護士を多く務めたほか、許永中や中岡信栄などの裏社会の人物との親交も深く、「闇社会の守護神」、「闇社会の代理人」などと呼ばれていた。


」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」以上引用で終わり。


 

 こういった暴露本は当事者のどちらかが一方的に書くものです。だから真偽についてもひよこには触れません。ただ時代の立役者の一人である氏の生い立ちと思考になんというか感服することがありました。

 氏の人生は、日本有数の政治家や財界人、時には裏社会の人間との付き合いもあって煌びやかです。株に関しても日本中の仕手情報がすべて手中にしていたと書いていますのでお金も数億単位で動かしていたようです。逆にこれを書いているひよこは株で儲けたことなんかありません。それどころか大損して今では株とは一切つきあっていません。株で儲けたければ仕手筋さんと仲良くしないと儲かりはしませんね。株について記載された箇所には思わず溜息をついてしまいます。私は大負けした苦い記憶しかないので……でも仕手筋から情報を得ていた氏ですらバブルではじけると儲けた分も吹っ飛んでしまって、プラスマイナスゼロだとあります。そりゃもう私のような株の素人はバブルがはじけると同時に大損しかないわけですよ。何度も書くが人生ってそんなものかも。

 あと感じたのは、起訴されて人生の下り坂になった時に本当に親しい人が誰であったかがわかったこと、これはしみじみと書いている。政治家など地位が高い人ほど態度が変わってさっさと離れていき、なんというか裏社会に生きているヤクザさんたちの友情は変わらなかったとあります。氏は最初の出発地点の検事時代からですが、エリートの検事仲間でも裕福な育ちのものが多く、貧乏育ちであった氏には思考と行動に違和感があったらしい。それ、私もなんとなくわかる。私も学生時代、わりと学費の高いところに通学していましたが、親や本人が外車を持っている人もいましたので……考え方が違うなあと思ったことがあります。私の親は自家用車はあっても国産の軽だったし、無理して授業料の高い大学に出してくれたのですね……こういうのは最初から自然とグループができますね。変なところで氏のコンプレックス? に同調したりしました。

 氏は貧困からくる犯罪には同情を感じていたそうです。この本は氏が落ち目になってから書かれましたが裏社会の人々には優しい眼差しを感じます。多分上告中に書いていた本なので権力をアテにされていたり、仕手筋で儲かるとすり寄ってきた人物から態度が変化したのを身に染みていたころに書かれたと思う。

 闇社会の守護人と称されたことについて氏はインタビューで以下のとおりのことを言っています。ある親分が一般人が夜でも安心して歩けるのは警察よりも私が怖いからといいます、と。そういった法律ではしばられない存在も認めるべきだといいます。また世の中にはヤクザにしかなれない人がいる。同和や在日の問題等もある。力づくで法的に対処するだけでは解決できませんとも。かなり重い言葉かと。

 上記のこういうことをはっきり言える人は弁護士では少ないはずです。あと政治的な発言もかなりはっきりという。法律では解決しようがない貧困を自ら舐めていた氏の生きざまをこの本で垣間見せてくれる。そういうわけで私は手元に置いて何度か読んでいます。そして氏がまだ存命していたら現在のこの国のありようをどう思っているか新刊を出してくれて私にも読ませてくれただろうにと思います。







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