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二十二冊目・ランゴリアーズ ・ スティーヴン・キング


スティーヴン・キング(Stephen Edwin King)・ランゴリアーズ



 あまりにも有名なキングオブホラー作家、スティーヴン・エドウィン・キング!

 彼は私が心から尊敬し、私の思考や創作意欲に多大な影響を与えた作家です。S・キングに関しては名のあるプロ作家さんがいろいろ書いているので、私ごときが今更……と気がひけるのも少しある……が、でもやっぱり書いておきたい。それに私には「ここ」 がある。この黄色いひよこ。「ここ」 ならば、何を書こうが私の自由だから。今回は大好きなS・キングの話です。

 なお、月日や数字、制作に関する一般的に周知された項目はウィキペディアから引用させていただきましたのでご了承ください。


 S・キングは、栴檀せんだんは双葉より芳しを地でいっていて、十代からすでに雑誌投稿を重ねていました。このあたりはさすがですし、やはり創って書かずにはいられない人だったのだろうと思います。 

 ウィキによれば、商業用としての初採用作は、十八歳のとき。コミックス・レヴュー誌に掲載された作品名 → 『私は十代の墓荒らしだった』。

 彼は幼いころからプロ作家になると決めていたと思います。しかしながら、SF誌、ミステリー誌にちょくちょく採用はされてはいても爆発的に売れた出世作「キャリー」 までの道のりは遠かった。キャリーが売れるまで……彼はもどかしい思いを抱えていたようです。エッセイで貧乏すぎてみじめだったころから出世作キャリーで人気作家になるまでの話をあちこちで書いている。実際つらかったようだ。売れ残りの安いドーナツは今でも嫌いだとはっきり書いている。そればかり食べていた時期が本人にとって長かったのね。

 そしてあの名作「キャリー」

 最初はキング自身が駄作だと思っていたらしい。狭い洗濯機の上で書いてたあの「キャリー」。今では信じられない。作者本人がダメだと思いつつ「キャリー」 を書いていたなんて。その原稿を捨てていたなんて。

 ……学生結婚をしていたキングの最愛の妻……タビサがキャリーの捨てられていた没原稿を拾い上げて「これはいい。ねえ、続けて書いてよ」 と励まさなかったら今の彼はなかっただろう。その没原稿はたったの「三ページ」 だった。

 この三ページというのが、主人公キャリーのみじめな境遇を書いたところですよ。タビサはキングの才能を心から信じていたのだろう。この三ページで、これはいい! と見抜いたのだ。作家としてのミリオネア、後世に残る偉大な作品。その可能性を確信したのだから。そしてその書き手は夫でもあり、夫を励まして書かせるのは世界中でタビサ・キングのただ一人。

 キングは今でもタビサのことを「私の一番の読者」 だと言っている。私も本当に素敵なご夫婦だと思います。

 そしてキングもまた「キャリー」 を五十ページほど書いて「これはイケル」 と感じたとエッセイで告白している。そうだろうね。

 私はキャリーを初めて読んだ時の衝撃を覚えている。SFでもない、ホラーでもない。まったく新しい「モダンホラー」 だ。これがS・キングなのだ。凄い作品だ。ブームになっている? 当然だ。こんなにおもしろいのだもの。いじめられっ子がテレキネシスでやり返す。ちょっと狂っちゃうけど、かわいそうだけど。いじめっ子をやっつける。親切心に見せかけたクソ教師もついでにやっちゃう。キャリーをあざ笑っていた、まわりの人もみんな。

 そしてお母さんも。キャリーのお母さんは最初からおかしかった。キャリーの生まれる前から。でもキャリーの超能力はそのお母さんからきていたのだ。

 キングの盛り上げ方がうますぎて、いじめっ子をやっつける残虐な場面でも、思い切りキャリーを応援しちゃう。やったー、やってやれ、やって、やれ!

 血は血で返すべきだよ、キャリー。

 そしてキャリーをおぼろげながらも理解していたらしき生き残りの少女は、良心の呵責を感じていた。キャリーに対峙して自らの頭脳をキャリーに開放する。キャリーは超能力を持って彼女に入り込む。入り込んでそしてキャリーに対する率直な感情を読み取り、キャリーは項垂れて出ていく……私はこのシーンを初めて読んだ時の感動が忘れられない。私はキャリーの中ではこのシーンが一番好き。

 映画も見たが、原作が一番おもしろい。原語はなんだ? 英語? 私は原作版も買って日本語版と照らし合わせながら読みました。唐突に話を変えますが、名作品の翻訳者さんはエラいなあといつも思います。日本語のボキャブラリーが貧困な人は翻訳なんてできないと思う。重圧もあろうかと思う。キングの持つ独特の雰囲気を壊さずに、日本語での破たんをさせずに夢中で読ませる。翻訳は頭が賢くないとできないと思うのだ。

 戻ろう。結果的には、キングが二十六歳のときに「キャリー」 の原稿は買われた。しかも米国大手出版会社のダブルデイ社。

 当時は今のように新人文学賞などはなく、雑誌や出版社に直接原稿を送付して、掲載や原稿の買い上げをお願いする。もしくはエージェントを雇う。キングは後者だった。キングがエージェントを雇ったのだ。

 逆にいろいろな新人の作品を見てエージェントが声をかけて「君の作品を売り込むけれど、もし作品が買い上げられたら何割か報酬としてもらうよ」 ということも多いらしい。アメリカはそういう形式。日本の新人文学賞に応募するやり方と海外のエージェント契約方式とどちらがいいのかは私は知らないけれど、キングの場合はそうだった。

 そしてキャリーの最初の契約料はたったの二千五百ドル(一ドル百円として、約二十五万円ぐらい) 。キングにとってはそれでも高額だったのだ。そして彼はそれで取引が終わったと思っていたらしい。だから大学の講師の雇用契約も更新した。専業作家は無理だろうと考えていたことのあらわれでキングほどの人でも、そうだったのだ。

 それがほかの出版社に転売されたときは、四十万ドル → 四千万円になった。つまりダブルデイ社からシグネットブックスという出版社が四十万ドルで「キャリー」 の版権を買ったわけです。この版権、大化けするかもしれないという作品は社命を賭けて大金を動かすらしいですね。アメリカはやはりスケールが大きいです。そして原作者に対する尊敬を率直に金額で提示する。このあたり創作者へのリスペクトを感じます。四十万ドルのうち、原作者のキングはその半額の二十万ドルを手中にする。大雑把に一ドル百円としたら二千万円ですよ。二十五万円が二千万円ですよ。当時の感覚ではもっと金額は重かったはずですよ。エージェントはその残りを手にする。大したものです。その後も版を重ね映画にも劇にもなってキングはミリオネア作家になる。

 ところが彼は作品を世に発表し続けて活躍と思いきや、十年もたたないうちにアルコール中毒アンド麻薬中毒者になる。これは本人自ら告白している。八十年代、私はコカインや大麻に耽溺していたと。キングの作品はダメなアル中の作家や、孤独な作家が登場してくる作品が非常に多い。ぱっと考え付くだけでも長編ではシャイニング、ミザリー、ダーク・ハーフがある。短編も結構ある。この時のあせりやつらさも作品構想の糧になっているのだろうと思う。セントバーナード犬に襲われる親子の話を書いた時がピークだったそうで、常に酔っぱらっていて、書いた記憶がないらしいです。私はそれを聞いて、へえ~と逆に感心しました。クージョも映画になっていますね。狭い車中での親子の行動、それが見どころなのに酔っぱらってばかりで書いた記憶がないなんて信じられない。天才とはこういうことをいうのでしょうか。

 でもやっぱり書く人だったのでしょう。妻のタビサの励まし、大勢の読者のファンレターの力も大きかったと思う。ファンに関してはキングはエッセイではっきりと変な人間が多いと書いてあって、「そうなんだ」 と絶句したことがある。ホラー作家はそういう運命になるのかな? よくわかりません。交通事故現場の死体をわざわざ運転中に減速してみる人間のために、私は見たいものをじっくり書くのだよという意味のエッセイを読んで、そういうものか、ならばいわゆる変なファンもくるのだろうな、と変な感動を覚えたりもしました。私もまたキングのいう変なファンかもしれません。

 キングの旺盛な制作欲は別名義での活躍にも見られる。多量にかつ良質な作品を生み出せるのはマジ天才。キングの名声が定着しているというのに、別名義で己を試してどのぐらい売れるかな? をしたのだから。こういうキングの性格も私は大好き。天才故の仕業ですね。このリチャード・バックマン名義では私は「痩せゆく男」 が一番好きでこれも繰り返し読みました。呪術がからんだ話で追い詰められていく主人公。ラストのあざやかなそして胸詰まる文面。凄過ぎるよキングオブキングオブホラー!


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 で、次。素直に表題の「ランゴリアーズ」 にいきます。いろいろな作家さんがキングのことを書いているのでかぶらないようにしたいな、と思いました。あ~ココいてるわ、という理由で今回のひよこは、「ランゴリアーズ」 を取り上げてみます。

 これも大好きな作品です。ホラーというよりはSF作品になると思います。私はここで登場するニックが一番好きです。彼は戦士、ヒーローなんですよ。カッコよすぎるわ。記憶が残らぬ男になることを承知の上で、犠牲になる。この心情をキングは全部書かないところが私はニクくてうまいと思う。ほんと、カッコよすぎます。ニック自身は己の魅力に気づかない。カッコいい自覚がなく、思うがままの行動をしています。

 この作品、登場人物もすばらしい。ネタバレはいけないかも。でもいいや。ここまで誰も読みにこないから、勝手になんとでも書けるわ。

 「ランゴリアーズ」 はざっくばらんに言うと、SF版メアリー・セレスト号事件の話です。メアリー・セレストは人間の女性名ではなく漂流していた船の名前なのですが、無人なのについさっきまで人がいた形跡があったので謎とされている実在の事件です。現在でも解明されていない不気味な事件。

 これの飛行機版、異世界版、SF、おまけに超能力をからませて最初からラストまで書いたものが「ランゴリアーズ」 です。いろいろな盛り合わせ小説とも言いましょうか。美味しいですよ。オススメ。

 飛行機に乗っていたはずが、時空を超えて異世界に意図せずにつっこまれてしまった登場人物はそれぞれの事情を抱えている。このうち嫌味な男、トゥーミーがその異世界で重要な役を担う。ランゴリアーズと名前をつけるのもこのトゥーミー。ラストは死にますが最後まで親の束縛を受けてかわいそうにと同情してしまいました。そして盲目の少女ダイナ。ダイナとトゥーミーの双方のかかわり方、というよりも発想がどうしてこんなの思いつけるの? とぼうぜんとするぐらいに余韻を小説途中の行間から醸す。ストーリーの真ん中あたりからべちゃべちゃとした余韻、これらを残しつつラストにガーと収めていく。感情という大型ローラーが異世界で暴れまわってくる印象です。

 私のお気に入りのニックは最初からカッコいいのだが、最後に短い愛を、消えゆく愛を告白して散る……泣ける。カップルはもう一組いるのだが、定番といえども、こういう恋愛要素もちゃんと結末をつけてある。独身売れ残りを自覚し、誰でもいいからとまで結婚をあせっている喪女ローレルは魅力的とはいえぬが好感のもてる女性。彼女はダイナによくしてあげていたので、ニックはその優しい性格を見ていたのかも。なのでニックと少しだけとはいえ通じ合えて愛をかわせて本当によかったと思いました。あ、主人公はニックではなくブライアンという男性です。私が読むとカゲ薄いな……本当はすごく頼りになるベテラン操縦士さんなのですがニックがよすぎてどうでもよくなっています。

 異世界とは書きましたが未知の生物は一匹も出てこず、変な科学的物質もゼロ。でもって、同じ空気を吸う異世界に飛ばされた人間が知恵を出し合い切り抜ける。そこで次から次へと新たにキャラが出てこない。安心して読める。私はキャラが多すぎるとごっちゃになって嫌になるタイプの読者です。最初からの登場人物でもってストーリーを動かし、ラストまでもっていく。若干の死者は出ても生き残りが無事、現実に戻ってハッピーエンドというのは、稀有な運びだと感じています。


 キングの作品の共通した特徴に、実際にある商品名の羅列、リアルな描写、克明な感情の推移、登場人物の作りこみ、ストーリーと一見関係のない細部までの書いているというのがあります。でも余計ではない。これを私がやると速攻で出版社のゴミ箱行きです。キングだからこそ読ませる。このあたりは見習いたいですがどうやっていいやら。どうでもいいように見えても、これらがあとで伏線となるってどうしてさ? 伏線に至らずとも、あとでじーわじーわ、と効いてくるのはどうやって作るのだろうか。読者を夢中にさせるのだろうか。

 ラストで全体的な俯瞰ができた時に、ああ、それであれはそうだったのか、とわかってくるようになっている。主筋とは違う傍論というかそこを読み取れるとまた違う感想を持てる。私がお気に入りのキング作品は何度読んでもステキというのは、それがあるからだ。そのあたりの書き方は私も見習いたい。ですが書き手としてはそこまでいくのになかなか遠い道のりでしょう。それぞれの作品のそれぞれの独自の世界観をキングはさらりと独特の筆で書き込んで完成する。私は一読者として、キングを天才として崇め、尊敬しております。


 キングの多大な作品をランキングしようというのはおこがましいですが、それ以外に好きな作品をベストスリーであげるとしますとトウモロコシ畑の子供たち、神々のワードプロセッサ、ファイアースターターかな。

 トウモロコシ畑は超短編だが途中で読むのがやめられぬ怪作。神々も然り。ファイアーは生まれながらの超能力者のチャーリー、そしてその父親を追い詰める悪役の組織がどれもいい感じ。日常的な監視、業務としての監視をやって任務につく、というのが新鮮に感じた。超能力が出てきますがデッドゾーンとまた全然違う味があって、私はこちらの方が好きです。ここにも薬物中毒の話が出てくるが非常にリアル。ハイライトになるコンピューター分析シーンは時代を感じさせるが古くはない。今後もなりようがないだろう。なぜならキングが書いたから。

 ペットセメタリーも好き。ラストが忘れられない。これはアンハッピーエンドだが主人公にとってはハッピーエンドという複雑怪奇なラスト。最後の一言が打撃。日常的な一言が非現実になるなんて。キング恐るべし。ペットセメタリーはアメリカ製柳田國男的と思えば双方とも失礼かもしれぬがアメリカ人の抱く原住民インディアンへの原始的な恐れを感じる。私の思い込みかもしれぬがそう考えて読むと大変におもしろく感じる。キングは呪術的な事象をからめて書くものにも秀作が多い。これは長編のITもそうだと思う。ただITはペニーワイズと戦うメンバーのうち、紅一点のベバリーの性的な扱いがちょっと嫌で「そんなあ」 と思っている。ベバリーのアレはキングが男性だからそうしたと思っている。しかしこれも名作。私は気に入らぬ小説の結末が自分で変えたりもしますが、キング作品はいじれない。というか触れない。スピンオフも作ろうかとも思わない。

 ほかにもいっぱいありますが。実は読むのを挫折したのも結構ありまして……キング好きよーと大声で叫べない。私は頭が悪く込み入った話が苦手なのでわかりやすいのが好きです。

 ああ、でも。キング、大好き。

 私が神ならば迷わずキングにノーベル文学賞をあげる。
















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