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二十冊目・透明なゆりかご 沖田×華

 沖田×華 透明なゆりかご


 沖田×華は変わったペンネームを持つ漫画家です。この読み方……最初私はわからなかった。「おきたばつか」 と読みます。 ⇒ 私には「起きたばっかりだよ~」 という連想が働いてお寝坊ばかりする女の子というイメージが想起されます。インパクトもあって、良いペンネームだと思います。

 本作はこの漫画家さんが過去産婦人科で働いていた経験を描かれているのですが、普通の出産から異常出産、性虐待のオンパレードです。とても重要なことがさらりとした筆で、書き込みの少ない絵柄ながらこの絵柄だこそ味わえるという不思議な読後感を出してきます。私は夢中で読みました。

 日本国内では人間であればどういう人間でも産婦人科の世話になっているはずです。どういう人でも、です。「産婦人科」 は数ある医療科の中で唯一、人間が人間を産みだす所です。つまり人生の最初の通過点です。そして闇に葬る場所でもあります。まさに訪問する人間の人生の岐路にあたる場所になる。妊娠してうろたえる人もいます。時には小学生も妊娠します。妊娠されて喜ばれる人あれば、怒られる人、捨てられる人あり。レイプの被害者もやってきます。出産に至ってもそこからまた別のドラマが生まれてくる。産科は正常出産が多いイメージですが死産もあります。不妊も多いです。作者はそこに勤務していたのです。

 医療に勤務する側のはしくれとして、患者さんの個人情報を把握もできますし、その後の経過も支障のない範囲で描くことができる。プラス、漫画的にとても漫画な絵柄。登場人物の顔の喜怒哀楽がストレートに伝わってくる。私は「凄い」 漫画家さんだなあと感動しました。

 じっくり読めるし、気楽にでも読めます。そして感動を与えてくれます。小説で数百、数千、数万の言葉で人間の真理を言葉で書いて表すよりは、ペンで少ないページで読者にストーリーの流れを伝わらせるという手法は漫画ならではです。読書で分厚いページを前に「さあこれから読もう」 と舌なめずりをするような人は少数派なのです。しかも作者のインタヴューなどを見ると肩の力を抜いて原稿を落としそうになり、描くネタがなく苦労しているときに思い出して描いたとありました。徹底的に肩の力を抜いている。この人の漫画が、さあ読むぞという気合がなくとも気楽に読める所以だと思います。

 しかし内容の扱いはさらりとした絵柄とは別に人生の深淵をもこれまたさらりと描く。小児に対する性虐待も描くのですが、親はなんのために子どもを産むのか? と疑問を持つ看護師の存在……彼女は親は己の都合で子どもを産むのよと言い切る。親に身体を売られて生活費を得ていたその看護師の心情を思えば即座に否定できない怖さがありました。それでも彼女は産婦人科に勤務する。生まれたばかりの赤ちゃんを見て、祝福する親を見て彼女は救いを得る。この手の話が数話あります。

 ラストはどうでも救いをもたせるせいか重い話でもハッピーエンドにしている。ちょっと無理やりだなと感じてもそれが読者にもほっとさせる。この作品が沖田の出世作となりベストセラーになったのは当然です。


 沖田は異色の経歴を持つ漫画家です。看護師のみならず風俗嬢をも経験しています。 LD(学習障害)とAD/HD(注意欠陥・多動性障害)であると本人自ら告白しています。周囲に違和感を持ち、周囲にどうしてそうなのよ、と怒られながら生育しました。自己卑下感は相当あったはずです。しかし己のコンプレックスを漫画で表すことで不特定大多数の共感を得ることができたのです。彼女の作品がいずれドラマや映画になるのも時間の問題だなと感じています。

 本作は現在でも連載中です。より早くたくさんのページを読みたいのは山々ですが、あまり追い詰めないほうが良作が生まれるでしょう。私も続刊をゆっくり待って、読み続けたいと思っています。

 すでにベストセラーになっていますが、どなた様にもおすすめしたい漫画本です。





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