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十八冊目・お父さんへの千羽鶴 ときたひろし

  ときたひろし   お父さんへの千羽鶴


 今回は初の絵本を取り上げてみます。まずは恒例の前置きからいきます。はっきりいって、絵本画家としての、ときたひろしは寡作です。ベストセラーでないので発行部数も少ないはず……私もつい最近まで知る人ぞ知る有名な本だとは知りませんでした。恐らく発行した出版社がマスメディアの新聞広告やテレビでの宣伝に力を入れなかったのではないかと……ブームはある程度作られるはずだと私は思うので。

 それでも、この本は平成十九年初版発行、平成二十九年秋現在で五刷までいってます。

 この本に限らず、感想は私個人だけのものです。ここで当たり前のことを、わざわざ前置きではっきり書くのは異例です。理由は以下のとおり。一行で書けます。


 この本は靖国神社で販売されているそうです。


 さあ~、早速、わかった、英霊がらみだっと感じる人がいそうです。事実英霊さんが出てくる本です。しかも特攻隊。でも「戦争賛美の本ではない」 です。それでも、この手の戦争関連話がお嫌いな方はどうぞページを閉じていただいて構いません。それと括弧つきで強調したのは、文面をつまみ食いならぬつまみ読みをして怒る人もいるだろうから。また人の死、それも特攻隊を扱う話は、日本史にかかわる非常にデリケートな問題を含むが、大事な事柄であると感じているからです。

 たかが絵本、されど絵本。小説に比べごく少ないページでも、感動を与えてくれる本はたくさんありますね。この本もそうなので取り上げましたが、絵本の話といえども、思想がからんでいると一部の人に判断されてしまうと、無名の私でも書いて大丈夫かなと躊躇するところはあります。

 私は思想関連に関しまして、大したことは話せません。が、この本の根底の特攻隊に志願した人々、特に幼い家族を置いて旅立った人の心理を思えば、切ないです。だから書くことを決めました。

 この「ひよこのページ」 は、テーマが「現世を思考で漂流する」 ですからね。私は行動範囲が限られていますので、まさに他人が創った本を読んではあちこちの思想の流れを「漂流中」 です。理解度は今一つの頭ですが、一応は「思考を思考する」 、というのは私にとっては生きていることを確認できる作業でもあります。この点は開き直っとります。


」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 私はときたひろしの別名を以前から存じていて、それで本作を知り得たパターンですが、俄然興味を持ったのは、靖国でも売られている本なのに、某公立図書館では閉架扱いになっていると聞いたからです。閉架というのは図書館の来訪者が気軽に手に取ってもらえないようにする処置です。いろいろな理由があるでしょうが。

 この本に関しましては、靖国の文字は一言も出てきません。強調しておきます。それでも特攻隊と書けば近隣の国々との関係が~となりますし、感想文といえども英霊、特攻隊と書くだけで、どこからともなく出現する右翼もしくは左翼の方々から怒られるかも、と思っています。

 主人公のお父さんが特攻隊で死ぬ内容ですので、いろいろな感想はあると思います。死ぬ前に家族のお別れをする、そして心のこもった千羽鶴を道連れにお父さんは、片道だけの燃料を積んだ特攻機に……。

 そのため、子供にはこういう戦死の話は難しい、また戦争を美化したものはいけないと考える人もいるのでしょう。「戦争賛美の本ではない」 のは明らかですが、覚悟の死に行く人を書いた話を幼い子どもに聞かせたくない人もいるのでしょう。閉架処置を受けたのはそれが理由かと思っております。

 私は普段から個々の思考をも尊重しています。時間の流れも誰しも来る老いによる思考の柔軟性もしくは硬化もアリだと思っています。人間の思考は個人や共通でも、私と同じく常に漂流していると思っています。

 右翼左翼の言葉がでたのでせっかくですので、私ごとのエピソードを一つ。少し前の話になりますが、双方の意見を拝読しているうちに気付いたことがあります。

 過激な思考を持つひとは、双方とも相手方のことを罵倒しているうちに「ブサイク、ハゲ」 など相手の発言者の容姿や国籍をも攻撃するようになっています。時には殺してやるなど犯罪すれすれの言葉も見かけます。

 そのあたりは似ているのではないか。ということで、対比一覧を作ってみました。このサイトでは小説専用ですし、年少の利用者も多いし、政治的なことは私も言いたくありません。なので別のブログサイトでやったのですが、ものの二日で全文削除され、ログインもできなくなってしまっていました。強制排除です。全部コピペでいき、しかも内容がヘイト、街宣、チョン、慰安婦、賠償、花王とあれば、ヘンに目立ったのでしょう。公開もしてない文面でも運営側からしたらスケスケです。削除されて当然の処置なのかもしれません。

 己の意見も出さずに粛々と右と左に並べる作業はいけなかったかと私も反省しましたです。私の文面の世間様に対する影響力は、ゼロ以下なのですが、やっぱりこのひそやかな作業自体も「ヤバイ」 んだろうなあと思ってやめました。


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 さて絵本の内容に行きます。読めばわかりますが、とてもわかりやすいです。そして説教くさくありません。ただ淡々とお父さんの行動が続き、クライマックスの玉砕後、つまり戦死後は家族からもらった千羽鶴の背中に乗って帰宅するというストーリーです。内容で驚いたのは、白い折り鶴がお父さんの夢の中とはいえ、本物の鶴になるというところ。しかもそのどてっぱらには心のこもった手紙文つきです。家族が心をこめて折った千羽鶴がリアル鶴になり、心のこもった文面はリアル鶴のどてっぱらに書かれたままです。私は鳥類が大好きなので、このリアル鶴ハーレム場面では感動しました。千羽鶴の設定なのでリアル鶴も千羽いるはず! そしてお父さんはリアル鶴の背中に乗ってお空を飛んで懐かしい我が家に帰るのです。この時のお父さんの笑顔、とてもいいですよ。

 私も絵本が好きで自分でも絵を描きますが、この英霊ストーリーに、この発想はなかった! ので初読で思わずのけぞりました。

 そういうメルヘンチックな展開にあうような淡い感じのやさしい水彩画で丁寧にしあがっています。ときたひろしの絵には、長年童画に携わり手慣れたプロにはないものがあります。一部の図書館では閉架になってますけど、お暇な方は見に行ってください。お金を出してもいいやと思われる方は靖国神社なら毎日売っておられているようです。


 せっかくなので思想にも少しだけ触れます。

 戦時中の日本人の玉砕精神、自己犠牲精神ですが、死に行くために片道だけの燃料を積んで、敵機に向かう。

 これを勇敢であり崇高であるとみるのは日本人の思想教育の賜物かどうか過去の悪い思想であったかと思う人もあり賛否両論あるかと思います。しかし国民全員が右へ倣えのこの精神を諸外国が恐れたのは事実です。また国内でも普通に「非国民」 という語彙が存在していたのですからね、明らかに差別につながりますので、それは怖いことかと思います。

 思想の自由が今以上になく、兵隊になれることが誉であり、「立派に死んでいく」「英霊となって靖国で会おう」 が美徳とされたのは昔の話だと断定はできます。しかしこの思想は完全に間違った教育の結果であると私は言いきれません。確かに日本は戦争に負けました。歴史は勝者に書き換えられます。思想もまた……。

 現在の日本はわりと自由で奔放であっても許されているといえましょう。しかし日本の歴史や思想の流れにある程度の濁りが出てきたのは勝者側の周到な強制と教育の賜物でしょう。同時に戦時教育をよかれと思って信じて亡くなった人やご遺族にとっては、敗者の哀しみもあります。戦争は誰でも嫌なものです。戦争を決めるのは国民ではなく、政府ですからね。大変に愚かなことです。その政府を信じて英霊となった人々は現在の日本のありようをどう思っておられるかと私は考えます。

 しかしこの本は戦争の美徳を教え込む話ではありません。思想の強制は全く感じられません。戦争がなければお父さんとその家族の団欒もずっと続いていたはずです。それはちゃんと書いています。戦争がなければよかったのに、と読者は誰しも思うでしょう。

 それでもお父さんは戦地に死に行く。家族もそれがわかっていてお別れします。お父さんの国を思うひたむきさ、見送る家族は、お父さんへの想いを千羽鶴に託して渡します。それだけの話です。この救いのない話を、ときたひろしはメルヘン仕立てにしました。英霊となったお父さんは笑顔でリアル鶴の背に乗って帰宅します。本当にそれだけの話。

 それを閉架にまでするのは、一体なぜか? 私はそこのところに大変興味を覚え、同時に「恐れ」 も感じました。

 私の実家や婚家先にも英霊さんがいます。Twitterにもお盆の頃に祖母の涙を思い出して自由律でつぶやきましたが、「英霊」 のある家、当時の家族は「英霊の死を悲しんでも日本政府を責めてはいなかった」 と思います。それが国をあげての戦争賛美の洗脳をされていた証だと思う人もいるでしょう。その思想もわからなくも思いますが、これまた日本憎しの好材料の一つになっている状態であるのが残念に思います。

 日本落とし、日本下げ、日本は悪いことばかりしていましたよ系の本は、そのものずばりではなくとも、さりげなく子供向けでも出版されています。反戦を歌いつつも、日本が悪いからこうなったと書いている本もあります。

 しかし真っ向から当時の日本の特高精神を書いたものは戦後発行ではこの本しかないのではないでしょうか。愛する家族を置いて、愛する家族のため、国のために死に行く話……おかしいと思うのも号泣してしまうのも読んだ人の自由です。どちらにせよ、この本の存在自体が、大変に稀有なことだと思います。

 それもあって私はこの絵本を高く評価します。もっと読まれてしかるべきだと思います。つまり……閉架はいけないと思うのですよ……こんなにいい本なのに。


 リアル鶴ハーレムシーンが一番いいですよ。

 私の鳥類好きを知っている人は思想云々をすっ飛ばして「やっぱり」 と言うと思います。

 なので私のことを気に入らない人は「鳥バカ」 が何かいってると思ってどうぞスルーしてください。














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