十七冊目・アリエナイ理科の教科書 薬理凶室
薬理凶室 アリエナイ理科の教科書
この本はシリーズもので題名に理科の「教科書」 とあります。でも、「アリエナイ」 という文句、著者名に「凶」 が入っていることからして、タダモノではない気配がします。副題が「文部科学省不認可」 となっています。そして裏表紙に注意書きがあります。短文なので丸ごと引用してみます。
……本書には過激な暴力表現、不謹慎な文言、差別的な記述、偏った思想がふんだんに含まれています。分別のないお子さまの手の届くところには置かないでください……
書店でこの本を見かけ、裏表紙を見てそそくさと買わずに本棚に戻す人あり、逆に興味を持つ人ありでいろいろだと思います。でも人気があって続刊もあり、その裏表紙には上記の文言に手書きの文字で更なる注意喚起分が上書きされているという……とっても奇妙で面白い本です。
中身を開いてみましょう。文面は終始タメクチです。人によってはふざけていると感じる人もあるでしょう。だから裏表紙で一応は断ってるんだなと思いました。こちらは画像、漫画つき、文面もジョーク満載です。教科書と名付けているのにどうしてまた、と奥付を見る。
と、発行元が三才ブックスとあれば「ああ」 ……と納得するのはありますね。この出版社は長きにわたりラジオライフや裏モノシリーズを出しています。変わった社名ですが、この三才は年齢ではなく、「天才・地才・人才」の「『三』つの『才』」からとっているそうです。三才ブックスとなればこの本だって、炎上しようが、何をしようがされようが、びくともしないイメージがあります。政治家が一言でも感情的な言葉を言えば窮地に追い込まれます。が、ここが出版したら何も言われないっていうイメージがある。
しかしこのシリーズの著者は複数いるのですが、本年六月にその中の一人が違法薬物に関与して逮捕されました。その人が書いたものはもう流通しません。在野の研究者さんだったのかは私には不明ですが、罪は罪です……非常に残念に思っています。でもシリーズは今後も続けてほしいの、ということでちょっと書いてみます。この本の体裁も流通分のみで終了らしいので。
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本来の理科系分野の書籍は、特に専門的な事柄を書いた本は、乾いた表現で感情的なところはまったくありません。ジョークをとばす文面も皆無です。理系を素人にもわかりやすく教える本はありますが、感情はまず交えません。子供向きでは「そうだよ、わかったかな?」 というイラストの添え書きがあったりはします。
そもそも理数系の文字や化学構造式自体には喜怒哀楽は当たり前にないし、黙々と狭い実験室で向き合うというのが一番しっくりします。私も想像力豊富な方だとおもっていますが、さすがに化学構造式に対して喜怒哀楽の感情は湧いてきません。無機物相手でも萌えて擬人化するのは面白いですが私にはできません。踊りの振付ならできるかも、ベンゼン環ダンスなど。いえ、ジョークです。
文面は「いいか、おまえら」「~てなわけで」「どーでもいいから」「テキトー」 ……最初から最後までそんな感じ。ブラックジョーク満載。この世にはジョークが全く通じない人もいるので、そういう人が読んだら絶対怒って本を放り投げる……裏表紙の断り文面があってよかったと思います。ま、薬理凶室という筆名がすべてを語ってます。読者さんが理解しようがしないが書くぜって感じがします。ゆるキャラならぬアニメ調のキャラも数名います。化学構造式や画像とともに漫画で出てきます。漫画のコマの中では特に危ないセリフばっかりいっている。こういう掟破りの本はこの本が最初のはずです。上梓されるまでこの世に存在しなかったと思います。
ただし実験にあたり、このあたりは実際にやるとこうなってしまうというのを例のタメクチでさりげなく、しっかりと伝えています。私が高評価するのはそのあたりきちんとしているから。一応私も理系出身なので実験時は、「準備、換気、後処理そして危機管理」 をきちんと組み立ててからやるというのを叩き込まれています。素人だけで科学実験をするのは危ないことです。それなのに、ネットで無料で転がっている情報ではそのあたりが非常に曖昧です。家庭内で普通に入手できるものをつかってある実験ができるとあっても、有毒ガスや周囲に健康被害を及ぼす有害物質もでてくるのに、全く書いていないところもあります。量も後始末のことも全く書いてなかったりする。これをどうしろと、驚いたりします。
誰でもできそうで、じゃやってみようかー的なノリでやられて事故ってしまう可能性もあり、非常に恐ろしい事態です。実験にあたり物質の特性、特に事故時はどうするかの危機管理なしで情報公開するのはとても無責任です。匿名のサイトでは責任の所在があいまいで本当にどこの誰が公開しているのか、わかってないのに◎◎はこうやってくださいって……コワイです。
ですから実はこの本だって簡単だよ~と書いているものの、テキトーなところはテキトーで、危ないところは危ないと明記してあって好感です。また火薬実験のページに、教科書に火薬や花火で遊んで爆発させるとこうなると、ケガの写真を掲載していました。私はこれに賛成です。化学物質は、成功例はこうですが、失敗例……扱いを間違えるとこういうケガをするという画像を掲載すべきだと思っています。グロになりますが、爆死した人の写真、手がめちゃくちゃになった画像とかね。花火の中身を取り出して火薬ごっこをするお子様への注意喚起です。今は注意って大人は誰もしないし、言わないし言えない。
未成年への教育にたばこやお酒、薬物への危険性を訴えていますが、かわいいイラストよりも「こうなりました」 というご当人や、病人やケガ人の鮮明な写真(もちろん目線を隠したもの) を掲載すべしだと思っています。
子どもや一般人に残酷な写真を見せるなという風潮ですが、今世界各地で紛争、時に虐殺や餓死の危険性があり被害を受けた子どもたちが悲惨な状況を実際に見ています。日本は現在は平和ですが、戦争するとこうなるっという免疫をつけるべきだと私は思っています。ゲームは簡単にリセットできてしまいますのでね。グロといわず、こうすればこうなります。今はかろうじて平和だけど戦争するとこうなります、後戻りはできませんって視覚で見せるべきだと思います。
私は北朝鮮のミサイルも怖いですがこの世には他にも恐ろしいものがあるってことを、知らせるべきだと思います。人類の叡智。それを利用するのも悪用するのも人類です。他の生物はできません。知らないよりは知っておいたほうがよい。殺人兵器の作り方まで書いているこういう本はあってよいと思います。




