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十冊目・世界で一番いのちの短い国、シェラレオネの国境なき医師団  山本敏晴

山本敏晴著・世界で一番いのちの短い国、シェラレオネの国境なき医師団 


 これはユーモアをちりばめつつ、シェラレオネの医療現状を生々しく書いたものです。書棚整理をして出てきたので再読。あらためて名作だとおもったので、この黄色いひよこに書き留めました。初版発行が2002年とやや古いのですが戦時状況としては古くとも、本に掲載されているシェラレオネの子供の笑顔並びに我が国と比較にならぬほど過酷な医療現場のありようについては変化がないはずです。

 というわけで今回は初めての? 医療系本を取り上げてみます。


 さてタイトルから見ると悲惨な話ばかりかも、というイメージは打ち砕かれます。いつの時代でもあっけらかんと「人生なるようにしかならん」 と深刻にならず割り切って生きていける人は強いものです。氏が行かれた当時のシェラレオネの平均寿命は三十四歳でした。2016年のデータはまだ出ていず現在は公式で四十五歳というデータが出されています。私、シェラレオネで生まれていたらとっくに死んでおります……。

 ちなみに世界一長寿は我が国です。一応私も医療現場に生息しているので手放しでは喜べないですが……長寿世界一ですよーと我が国の誰もが「長寿を誇りにしてない」 この不思議な国。

 日本はつくづくおもしろい国です。


 また脱線してしまいそうになるのでさっさと本題にいきます。

 文章が上手でおもしろい、というか誰でも直面する衣食住の話からすすんでいくので、さくさくと読めます。この本に書かれている排泄関連の話で、私は先進国でしか生きていけない人間だと実感しました。体調不良を誘う食物も、もつれた人間関係も私は苦手だ。感染も怖いです。本当に国境なき医師団に在籍する人間はある種の超人ですよ、これは。(私はシェラレオネに限らず汚いトイレはちょっと、というへたれ人間ですので……寄付しかできませんが。ええい、なんとでも罵ってください。)

 

 アフリカでは問題山積みです。氏のおっしゃるとおりヨーロッパ勢の植民地から発生したので根は深いです。そこで生まれて死ぬということは一体どういうことか。植民地とされていなければ搾取も何もないでしょう。貧富の差もそんなになく、独特の文化や民族の風習を根強く守り誇り高く生きていけたのかも……とここで思索にふけっても仕方ありません。(独特の文化のうち、少女への性器切除の奇習はやめたほうがいいけどね)

 内戦から少年兵、民族虐殺、麻薬問題、エイズ。すべてがからまりあい、団子になって……内政干渉をせずに人道的配慮という見地から黙々と医療を続ける無償の行為……それが国境なき医師団です。

 この作品のすごいところは、あれもこれもそれもしっかりと書いているところです。

 辺境の地に就職、配属される方にとっては必読の書になっているのではないだろうか。

 個人的にはあとボランティアに応募する性格分析が一番おもしろかった。応募理由に正解はないと割り切っている。変わり者が多いとずばり書いてあるのも好感です。事実崇高な理想に燃えた人は現地での現実を見て、がっかりして任期途中で帰るらしい。難しいね、人生。勝手な理由づけ並びに理想家はある意味ナルシストなんだろうなと思う。私は個人的にナルシストが嫌いなので、特別にその文面に反応しすぎているのかも。

 かつ現地の住民に対して優越感を持つというのも、罪なこと。これも書いている。ピースコロナイゼイション=平和的植民地化という意味だが、氏は、はっきりと「人道主義者の皮をかぶった文化的侵略者」 と書いている。どういう意味かを読者はしっかりとくみ取りたいものです。少なくとも私は。


 シェラレオネ、現在もなお五歳までに亡くなる児童が三十五%、我が国では考えられない重くかつ凄い数値です。こういう本の存在は稀有です。また一度も停滞せず読めるというのは良い書き手なんですよ、氏はおじいさんになって引退したら小説を書いてほしいですね是非。





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