第28話 終わりの、始まり
それは、晴れた日のあくる日の事であった――
板野は、都武に一人でダンジョン前に呼び出された。
「こんにちはでやがりますー井荻君もアリスちゃんもいないなか、一人で呼び出すってことはダンジョンアタックの話じゃないでやがりますよね?」
「そうだよ……これは、君にしかできない話だ」
眼鏡をかちりと上げる都武。その雰囲気は普段とは少し違っていた。
「さて、一つ話をしようか……これは考察のようなものであり、確認のようなものである。……君は、お守りを持っているかね?」
「お守りって……井荻君からもらった、これ、でやがりますかね?」
「そうだ……ああ、それは君が持っているといい。僕には過ぎたものだからね……」
カツ、カツと歩き出し、板野の周りを歩き始める。
「すべては、君が現代ダンジョン部に来てから始まった。魔導鎧の発見も、異変も、崩壊も――それは全て君の持っていたお守り、いやその中に入っていた石にある」
「……そうなんでやがりますか?」
「そうだ、僕はそう確信している」
ふと後ろを向き、両手を広げ、空を仰ぐ。
「この現代ダンジョン部には明らかにおかしいところがある。一つ。これが学校の地下にあるというのに存在が秘匿されていること」
指を広げ、一つ折る。
「二つ。ダンジョンを構成する魔力、その端末のシステムを構成する魔力はどこからきている?」
二つ、折る。
「三つ。なぜ僕らは、ここに引き寄せられた――?」
三つ、折る――
「そう、その謎は全てその石が握っている。いや――その石とつながっているそれ。魔神とね」
そうして、彼は振り向いた。
普段とは様子の違う都武に気づき、警戒を強める板野。
「都武さん、いったい何を――?」
「ああ、君はそこにいるだけでいい――」
都武は彼女に近づいて、目の前で手をかざした。
その瞬間、板野は目をくらませばたりと倒れた。
「その石と適合している、君が欲しいんだ」
その時、どこか遠くから刃のドローンが飛んでくる。
「おっと」
都武は、その刃を二本の指でつかみ、止めた。
「まさか君が来るとはね……井荻君?」
「板野を一人で呼び出したかと思うといったい何を――!」
「ははは、それを怪しく思ってわざわざついて来たのかい? 君の板野君好きも困ったものだねえ」
ははは、と怪しげに笑う都武。
その様子に、疑問を覚えながらも井荻は睨みつける。
「てめえ、板野に何しやがった……!」
「少し、眠ってもらっただけだよ。なに、傷つける気はないさ――ただ、一緒に来てもらうだけだからさ」
「来てもらうってどこへ連れていくつもりだ!」
「決まってるさ。神の祭壇にさ――」
パチリ、と指を鳴らす都武。
その瞬間、後ろに黒い渦のようなものが現れる。
「君も来るといい。まあ、簡単にはついてこさせないが……」
「いったい何を言っていやがる……!」
都武は、板野を持ち上げ、渦――いや、ワームホールの中に入っていく。
「てめえ! なんだそれは……どうするつもりだ! 逃げるのか!」
「逃げるんじゃない。しばしお別れするだけさ。さて、先日の祭壇の所で待っているよ……」
そういって、消えていった。
「――くそっ! 祭壇だと? あのネックレスのダンジョンの話だろうか……細かいことは何を言ってるのかわからねえが……行くしかねえ!」
そういって、彼はダンジョンの奥へ走っていった。
そうして誰もいなくなった後、4つの影が現れる。
「さて……ここからは私たちの仕事ですね?」
浴衣姿の、背の高い美女が一人。
「ケヒヒ……ずいぶん待ちましたよここまで、やっと暴れられるなあ!」
スーツ姿の、鎖のついた眼鏡をした男が一人。
「キシャシャ……あたしの右腕も喜んでいますわあ……?」
学生服姿の、右腕を黒く肥大化させた女が一人。
「――是といたしましては」
そして、鉋を持った一人の少女が、立ち上がる。
「ここで、邪魔が入らないようにするのが是かと」
「それではいきますわあ……我らの主、都武様の元に」
「秋津衆の……名において」
「ケヒヒ、全てを破壊しに、な!」
そうして、4つの影は一瞬にして消えた。
***
現代ダンジョン部内の電気が次々消えていく。
アイテムショップのロボットは落ち建物に供給されていた電源も途切れていく。
「ちょーっとちょーっとちょっと! なんかシステムがロックされてるんですけどー!」
悠城が本部のメインサーバールームに駆け込む。
急いでパソコンをカチカチと操作し、その原因を探る。
「あはは……これうちの仕事じゃないと思うんだけどな……っていったい何が起こってんのよーもー!」
外で、爆発の音が聞こえる。
「今度は何!?」
「悠城ちゃん、そっちで何とかしようとしても駄目みたいよ?」
管埜が扉を開ける。
「みっちゃん! いったいこれはどういうことで……」
「これだけの大規模なシステムハック、外部からするのは難しいわ。これは――内部からの攻撃よ」
「内部って、誰かが裏切ったって事!? いったい誰が……」
『皆さん、聞こえていますでしょうか……』
都武の、声がする。
『僕は、都武――秋津衆次期頭目、都武 礼式にございます。今回は次期頭目の命におきまして、この現代ダンジョン部を……徴発させていただきます』
「この声は……何を言っているの!?」
『止めたくば……ぜひとも、ダンジョン奥の祭壇に来てもらいますれば。それでは……』
そうして、放送は切れた。
「いったい何が起こって……うわっ!」
建物が大きく揺れ、爆発音が聞こえる。
「……ちょっとー! もしかしてこの建物攻撃されてる!?」
「そのようね……ここは危ないわ、すぐ出ないと」
「うーん! 原因が外にあるなら探らないと……!」
***
急いで本部から出ると、一人の男が立っている。
「やれやれ……ようやく来たようですねえ」
そこにいたのは……鎖のついた眼鏡をかけたスーツ姿の男。
「井出渕くん……! いったい何を!?」
「決まってますよ……こうするんだよ!」
手元から札のようなものを取り出すと、本部に向かって光が放たれる。
「危ない!」
管埜が武器を召喚し、とび膝蹴りを入れて光弾を相殺する。
爆発。
「ケヒヒ……やるなあ!」
井出渕が、髪をかき上げる。
「システムにロックをかけたのは、井出渕君なの!?」
「そうですよお! 普段から触れられていたので簡単な仕事でしたあ! ケヒヒ、こういうのは中からの攻撃に弱いもんだからなあ!」
「いったい何の理由があってこんなことを……」
「何の理由?」
井出渕が、ぎろりと悠城をにらむ。
「決まっていますよ……主命に、ありますれば」
そして、背筋をピンと伸ばして、綺麗におじぎをする。
「それでは名乗らせていただきましょう。私は都武四天王が一人……木の青龍、井出渕 東方と申します。以後よろしく……」
そういって、にやりと笑った。





