表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クビになった最強勇者、家庭教師をしながら生徒のママ(魔王)と内通中!?  作者: 織星伊吹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/44

第7話 勇者の初めてのおともだちは無表情な使用人?

 小鳥のさえずりが遠くから聞こえ、小窓から差し込む朝日が部屋をやわらかく照らしていた。


 今日からベルは島外の学校へ通う。俺はその送迎を任された家庭教師兼ボディーガード……そう、俺の使命は今日から本格的に始まるのだ!


 大きく伸びをして、寝巻き姿のまま部屋を出ると、扉の前にセバッチュが立っていた。


「おはよう、セバッチュ」

「おはようございます。ユシャ様」

「……なんでそこに立ってるんだ?」

「朝のお手伝いが必要かと思いまして」

「お手伝い? どうした」


 セバッチュの瞳が、ウズウズと揺れるように輝いている。無表情なのに、妙な熱意だけが目に宿っていた。


「ああ、こちら頭髪が暴れていらっしゃいますね。それから、お洋服もクタクタで……もうお顔は洗われましたか? ああ、ここも! ……ああ、ここも!」

「なんだなんだ」

「失礼いたします」


 そう言うや否や、セバッチュは俺の手を掴み、すさまじい速さで動き始めた。

 まずは髪をブラシで整えてくれる。次に寝巻きをいつもの服へ着替えさせてから、洗面所へ連行。洗顔してくれたかと思えば、化粧水や乳液やら、よくわからない数種類の液体を次々と塗りたくられる。


「……お、おぉ」


 鏡に映る自分が、いつもよりイケメンに見えた。


「ユシャ様はもともと整ったお顔立ちです。スキンケアを続ければ、肌年齢はみるみる若返るでしょう。朝の身支度は、一日を迎えるための大事な一歩です」

「ありがとうセバッチュ。なんだか人間になった気がするよ」

「いえ……その……ユシャ様さえ宜しければ、今後も毎日お手伝いさせていただきたいのですが」


 表情は相変わらず硬いが、瞳の輝きは明らかに強くなっている。


「いいのか? そんなことが許されるのか?」

「はい。私は使用人ですので」

「俺は外部の家庭教師だぞ? お前の主人じゃない。というか……ベルやマオにもやってあげてるのか?」

「いえ。お二方はしっかりされていますので、自分でなさいます」

「……なるほど。つまり、セバッチュは誰かのお世話を焼きたい、と……そう言うことだな!?」

「そうです!」


 キラン――! 瞳の輝きがより一層強くなる。


「俺はお世話を焼かれたい! 朝の身支度なんて面倒だし、そもそもやったことがない! こんなに良いものだとは知らなかった! やってくれるなら、ぜひお願いしたい!」

「交渉成立ですね。明日からも宜しくお願いします」


 俺たちはガシリと握手を交わした。

 なんだか、友人ができたような気がする。勇者村では、家族も友人もいなかった。 勇者同士、互いに干渉せず、ひたすら鍛錬ばかりだったからだ。


 こうして、会話を楽しめる相手がいるのは、新鮮で心地いい。

 朝から上機嫌で食堂に向かい、セバッチュの用意してくれた美味い朝食をバクバクと平らげる。


 そして、登校の準備を終えたベルと、屋敷の玄関で対面した。


「おはよう、ベル」

「……おはようございます」


 しかめっ面のままでも、きちんと挨拶をするあたりに育ちの良さを感じる。魔王の育児は、うまくいっているようだ。


「それが制服ってやつか」


 ベルは赤を基調とした短め丈のジャケットに、花びらのような縁飾りがついた小ぶりのスカートを身に着けていた。所々に金の刺繍が施され、気品と格式を漂わせている。いつもの大きめの赤い帽子も相まって、驚くほど似合っていた。


「……何ですか、その目は。おかしいですか」

「いや、よく似合っている。金持ちそうで、ごろつきに狙われそうだがな」

「……それを防ぐのも、あなたの役目です」

「これまでは、誰が送り迎えしてたんだ?」

「日雇いのボディーガードです。でも皆さん、王都への船通いが嫌になって辞めますわ」


 そんなに嫌なものなのか……?

 俺は待つのも苦じゃないんだが……普通の人間の忍耐力ってのはそんなもんか。


「安心しろ。俺がいる限り、ベルが襲われることはない。だから安心しろ」

「……“安心しろ”って二回言われても、全然安心で来ませんわ」

「ベルも二回言ったな。ははっ、一緒だ」

「…………揚げ足とらないでください」


 玄関扉がセバッチュの手で開かれる。そのとき、ベルがふと振り返った。


「……そういえばあなた、当然学校は卒業しているんですよね?」

「…………俺が? してないが」

「…………学校がどんな場所かは、ご存じですか?」

「将来有望な子供が通って鍛錬する場所だろ? それくらい知ってる」

「本当に……どうしてお母様があなたを家庭教師に選んだのか、わかりません」


 深いため息をつき、ベルは先に歩き出す。

 玄関に残った俺とセバッチュは目を合わせた。


「ユシャ様。お嬢様は生真面目で、いつも気を張りがちです。でも本当は、素直で努力家で、慈愛に満ちた方。……良き友人になっていただけると、嬉しいです」

「まるで俺の話を聞いているようだ。似た者同士ってことか」


 使命に生きる生真面目さ。勇者村での張り詰めた日々……そしてたゆまぬ努力と勇者としての慈愛――確かに似ているな。瓜二つだ。


「ユシャ様なら、お嬢様の心に寄り添っていただけると……そんな気がしています。ぜひ、宜しくお願いします」

「もちろんだ。ベルをこの家の後継者にするのが俺の使命だ。そのためには俺と彼女はニコイチの存在になってみせる。まぁ、気楽に頑張るさ」


 頭を下げるセバッチュに手を振り、俺は屋敷を飛び出してベルを追った。

作品を気に入りましたら『ブックマーク』と『レビュー』をお願いします。

☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ