表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クビになった最強勇者、家庭教師をしながら生徒のママ(魔王)と内通中!?  作者: 織星伊吹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/44

第43話 元勇者の大切な友達たち

 ベルがどれほど魔族の血引いているかは不明だが、仮に肉体は普通の人間である場合、マオよりも速く老いることになる。

 マオが魔王化したときにぼやいたことは、彼女の心からの声だったのかもしれない。


 彼女はこれからも、ずっと悩み続けていくことになる。

 ……きっと、これから先も苦しむことがあるだろう。魔王として、人間の娘を持つ母親として。相応のストレスが溜まるはずだ。


 だとしたら、俺にできることは一つだけだ。


「……マオ。俺でよければ、今後もストレス発散に付き合うぞ」

「うふふ。あらあら、そんなに気持ち良かった?」


 紛らわしい言い方で彼女が茶化すと、ベルが顔を赤くして、俺とマオの間に入る。


「お、お母様!? せ、先生に何をしたんですか!?」

「うふん。あなたにはまだ早いわ」

「そういう破廉恥な言動は慎んでください! ただでさえ噂になってるのに! お母様が……魅力的すぎるから!」

「えっちなお母さんでごめんなさいね。でも、そうね……ユシャちゃんと一緒に身体を動かすの、とっても楽しかったから、これからもお願いしようかしら」

「俺からもお願いしたい。次は絶対に負けない」

「えぇ!? 先生が負けたんですか!? お、お母様って……!」


 途中で意識を失い、怪我まで治されたんだ。負けにきまっている。ちと悔しいのが本音だ。人類最強として、このまま黙ってはいられない。

 しかし……マオとの戦いは、本当に夢のような時間だったな。


「単身で魔王に突っ込んできて、何を言ってるのかしら……。勇者はパーティーを組んで戦うものでしょう。魔力量も、結構底を突いてたみたいだし」

「それはそうだが……そもそも俺はパーティーに向いてないからな……」

「先生は底知れない人ですけれど、勇者様って感じはあまりしないですね」


 生徒にまで言われてしまった。

 使命が複雑化していたとはいえ、クビになったし、俺に勇者は務まらないのかもしれない。そういう意味では、ゴーシャは、勇者らしいと言えるのか。アイツは危なっかしい。誰かがサポートしてやらないといけない。

 光属性の魔法も似合ってるしな。俺は似合わないからなぁ……。今回必殺を披露できて、実は少しスッキリしていたりする。勇者っぽいだろ? アレ。


「ぜひユシャちゃんには、これからも色々なことをお願いしたいわ」

「家庭教師の副業にしては、とんでもないもの持ってきそうだな」

「あっ……そういえば。例の件は? わかった?」


 ――ギク。


 ベルもいるため配慮しているのだろうが、俺にはしっかりと聞こえる。

「魔族殺しの犯人、わかった?」だ。


「今、ギクって顔しなかった?」

「あ、ああ……犯人は……まだ特定できていない……!」


 じぃ――とすべてを見透かすような瞳で、マオが俺を見つめてくる。

 あまり顔には出ないほうだとは思うのだが、嘘が下手だとはベルにも言われていたな。そういえば……。


「…………もう。本当に嘘が下手なんだから。まぁいいわ……あなたが隠したいくらいなんだから、今は聞かないでおくけど……いつかは話してね」


 そして、マオは俺たちを横切って、手を振りながら去って行く。


「それじゃ、私はキャンヴと話があるからこれでね」


 残されたベルは、少しだけ俺に身を寄せてくる。


「……先生」

「……大丈夫だ。魔王の娘でも、ベルはベルだ。俺は元勇者で家庭教師のユシャ。俺たちは、先生と生徒の関係のままだ」

「…………そ、そうですわよねっ。わかっていますわ!」


 ベルは潤んだ瞳で俺を見上げ、こくんと頷いた。

 もっとハツラツした返事を期待していたが、何か気に障っただろうか。

 考え込んでいると、明るい声が俺たちのもとに届いた。


「ユシャさん! ベルちゃん! 大丈夫!? 待たせてごめんー!」


 チャームが、ぶんぶんと両手を振りながら駆けてきた。

 その後ろを影のように寄り添って歩くのは、いつもと変わらぬ姿のセバッチュ。大きな鞄を抱えて、微動だにしない。


「チャームにセバッチュ。大丈夫だったか? 怪我は?」

「うん! 全然! 何が起きてるのかわからないくらいで……途中で怪我してる人を治療してたら遅くなっちゃった~。でも二人が無事なら、それで良かったよ~」


 こんなときでも、チャームは聖女らしさを惜しみなく振りまいている。……ほんと、眩しい存在だ。


「そうか。……もしや、セバッチュの計らいか?」


 俺が横目をやると、セバッチュはやっぱり服も靴も汚れ一つない。彼女は鞄を軽く持ち上げ、静かに言った。


「私のほうで、密かに時間調整をさせていただきました。なんとなく……離れていたほうが良い、そんな気配を感じましたので」

「えぇ~! だから~? 着替えるだけでいいのに、なんか妙に気が利くなと思ったの! 髪整えたり、お化粧やり直したり……すっごい手間暇かけてくれて!」


 やはりセバッチュの勘は鋭い。あいつの采配のおかげで、二人とも危険を回避できたわけだ。


「本当に、良かった」


 気付くと、そんな言葉が俺の口から零れていた。

 自然と溢れたのが自分でも不思議で、何故なのかを考える。


 俺にとって、ここにいるヤツらは、大切な存在だ。

 居なくなったら、悲しい。


 ……だからか。シンプルだな、相変わらず。

 でも、そういうものなのかもな。友達っていうのは。

 深い意味なんて、考える間もなく、大切なものは大切なんだ。きっと。


 そこで俺は思った。もっともっと、この友達の輪を深めたいと。

 仲の良い友人とは食事を囲みながら会話を楽しむものだ。最近俺は友達との会話に絶賛ハマっているからな。なら――。


「これは提案なんだが、近いうちにみんなで打ち上げでもやるか! ウチの屋敷で」


 言った瞬間、しまったと思った。

 あの屋敷は別に俺の家ではなかった。あわててベルの顔をうかがう。


「ベ、ベル……チャームをウチに呼んでもいいか?」

「ふふっ、先生も配慮したりできるんですか、驚きました。……いいですね。是非、わたくしの屋敷にご招待したいですわ」

「え~!! 本当に!? 嬉しい~!」


 チャームの琥珀色の瞳が輝く。

 思えば、ベルが友人を屋敷に招いているところを見たことがないな。

 まぁ、一ヶ月鍛錬をみっちりしていたから、無理もないが。


「ベルも、ミリーを呼んだらどうだ? みんなで楽しくやろう」

「……そ、そうですね。でしたら……声だけ、かけてみます」

「大丈夫です。お嬢様。私はミリー様の好物をすべて把握しております。なんでもござれでございます」

「セバッチュ!? あなた、なんでそんなことまで知ってるのかしら!」

「私は使用人として、当然のことをしているだけです」


 セバッチュが、微妙に口角を上げている。大変レアだ。初めて見たかもしれない。本人的にはドヤ顔を決めているつもりなのかもしれない。


「よし、予定は決まったな! そしたら今日は解散だ。俺は会場の復旧を手伝ってくる! セバッチュ、ベルをよろしくな」


 そうして俺はみんなと別れ、魔族たちの輪に交じって、復旧作業に汗を流すことにした。

作品を気に入りましたら『ブックマーク』と『レビュー』をお願いします。

☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ