第4話 たぷたぷの巨乳美女は整形女子でした。
ベルに和やかな笑みで別れを告げられた、そのとき――
「ベル! セバッチュ!」
邸宅のほうから、澄んだ女性の声が響いた。
現れたのは、ベルの母親らしき女性。若く美しい、そして圧倒的なナイスバディの持ち主が、たぷたぷと胸を揺らしながら優雅に歩いてくる。
「お母様……!」
「家庭教師希望の方ね? この方は私のお客様です。ベル、セバッチュ、あなたたちは屋敷へ戻っていなさい」
「でも、お母様、このお方は――」
「ベル、人を見かけで判断してはいけません。たとえそこまで若くなくて、格好良くない殿方だったとしても、ステータスは嘘をつきません」
「お母様……その、ステータスも……」
「…………たとえステータスが低くとも、人は中身よ。さ、二人とも戻りなさい」
少し強引とも思える態度で、ベルたちを退かせた母親は、ベルが先ほど座っていた椅子に優雅に腰を下ろした。
「…………」
「どうかしました?」
なんでもない人間の母親……のはずだ。
だが、何故だろう。妙な違和感が拭えなかった。
俺は目に魔力を集中させた。
すると、魔力の流れが視界に浮かび上がる。彼女の“ソレ”は、規則正しく、余裕すら感じさせる――だが、そこが妙だ。
初対面の怪しい男(俺は決して怪しくないが)に対して、驚きも警戒もまったくない。“魔力の揺らぎが、あまりに大人しい”。その余裕が、不自然すぎる。
「……失礼ですが、大昔に“大賢者”でもやってましたか?」
母親が、ふふっと笑って、沈黙する。
まるで仮面をかぶっているような――そんな“違和感”。
身体に圧縮された魔力の質と量。それは極めて微細で、並の冒険者では感知すらできないだろう。
しかし俺にはわかる。これは、極めて高度な魔力制御の結果だ。
一流の冒険者――とくに魔法を主としている歴戦の古株ならば、安易なステータス改ざんなどせずとも、“パッと見弱そうな一般人”を装うことはできると聞く。
この人は……圧倒的強者。それも、勇者と遜色ない……いやそれ以上のポテンシャルを持っている。
おそらく「魔力量」も途轍もない。上手く身体に押し込めているが、圧縮しすぎて身体を巡る魔力が“色濃くなりすぎている”ように見える。
「魔力量」は後天的に伸ばしやすい「筋力」や「魔力制御」などと違い、生まれ持った資質の要素が大きく、個人的な鍛錬で最も伸ばしにくい領域だ。
つまり、産まれの時点で圧倒的強者。
これほどの資質を持つ者が、なぜこんな離島の貴族に――?
「いや……違うな。失礼を承知で言うが……アンタ、本当に“人間”か?」
母親がニヤリと笑った。
「すごーい。ちなみに、私たち、以前お会いしたことがあるんですよ?」
「なに? そんな、俺がこんな巨乳美女を忘れるわけが――」
「ふふっ。本当におっぱい好きなのね」
どこか見覚えのある、その笑い方。
「私、あなたのパーティーにいたの。覚えてるかしら? 勇者様」
「……まさか、ヘレンか?」
かつて俺のパーティーにいた僧侶。戦闘中に隙を見て谷間をガン見していたらビンタしてきた、あのヘレンだ。
「まあ、顔も変わってるし無理もないわね。ヘレンは変身魔法で整形してたもの」
「いや……でも、ヘレンはそこまでの冒険者ではなかった。せいぜいオールD程度の――」
「そうよ。ヘレンも、本当の姿じゃないから」
彼女は人差し指で宙をスッと弾いた。
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ステータス
レベル500/650
生命力:S+
魔力量:S+
筋力:S
俊敏:S+
魔力操作:S+
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目を疑った。ステータスは完全に規格外。オールS――人間の枠を超えている。
冷や汗が、こめかみを伝った。
「あら、そんなに驚いた? あなたも素性を隠してるじゃない」
くすりと魔性の笑みを浮かべ、彼女は名乗った。
「どうも。“魔王”のマオと申します。これから、あなたには娘の家庭教師をお願いしたいと思っています。よろしくお願いしますね、ユシャさん」
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