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クビになった最強勇者、家庭教師をしながら生徒のママ(魔王)と内通中!?  作者: 織星伊吹


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第34話 騎馬戦って普通三人で馬作るんじゃないのか?

 ピピッ――――!!

 甲高い笛の音が会場中に響き渡った。空気が一瞬だけ張りつめ、ざわめきが落ち着く。


 やがて、審判らしき人物が俺たちの前へ駆け寄ってきた。顔を真っ赤にしている。


「競技前の魔法の使用は禁止です! 観客席から飛び降りたりして、危ないでしょうが! 即刻退場にしてもいいんですよ?」

「なっ――……す、すまない」


 大の大人にまさか本気で怒られるとは。俺は素直に頭を下げる。

 ……やっぱり、こういう“普通の常識”が抜けてるから、変人扱いされるんだろうか。悩みどころだ。


「で? この工芸品はなに? 大地属性の魔法? ……しかも無詠唱?」

「これは俺がテキトーに作った大地属性で……その、め、目立ちたくて……」


 ベルの横で怒られていると、妙に恥ずかしくなる。視線を向ければ、案の定ベルは呆れ顔だ。……さっきまでいい雰囲気だったのになぁ。


 けれど審判は案外ノリが良く、話しているうちに妙に意気投合してしまい、結局そのまま正式エントリーも受理してくれた。正直ちょっと遅れ気味だったから却下されるかとヒヤヒヤしていたが、助かった。


 俺は出現させていた工芸品を魔力に還し、自分の身体へ吸収させる。その様子を見ていたベルが、不意に口を開いた。


「……先生」

「ん? なんだベル」

「…………あのっ」

「……ん?」

「…………やっぱり、いいですわ。それより、競技の説明が始まります」


 ベルの様子は気になるが――今は競技の内容が優先だ。俺たちは審判の説明に耳を傾けながら、出場者の列へと歩みを進めた。

 

 ――プログラムはこうだ。

 

《初等部・蒼星組対紅星組――親子騎馬戦》。


 親が子を肩車し、子は特殊なハチマキを頭に巻く。すると、頭上にふわふわと玉が浮かび上がる。この玉は他人の魔力に触れると簡単に割れ、誰の魔力かまでわかる。割れた時点でその親子は退場だ。


 ルールはこう。

 ・親は親同士しか攻撃できない。子供を狙えば即失格。

 ・子供は親でも子供でも攻撃可。

 ・もちろん子が地面に落ちたら即失格。


 つまり、相手の玉を狙うだけじゃなく、親を妨害して騎馬ごと崩すのも戦術のうち、というわけだ。


 危険性は高いが、僧侶が一組に一人つきっきりで支援しているらしい。毎年、子供より親のほうが熱くなってしまうという――この競技会の目玉プログラムだ。


 紅星組の列に並ぶと、すぐ隣にミリーの姿があった。


「「……あっ」」


 ベルとミリーが同時に声を上げ、お互いにぷいっと顔を背ける。


 ふと目をやると、ミリーの横には今朝出会った大柄なボディーガードの男が立っていた。やはりミリーの両親も来られなかったのか。


「お互い苦労するな、大男」

「…………あなたは、私が真っ先に始末する」

「いや、今回は仲間だろ?」

「……クックックック……クーッゥッゥッゥゥウ」


 黒服の大男が、不気味に笑い始める。なんだこいつ。ヤバいやつか……。

 俺の周りが変なのばっかりなのか? ……俺自身も含めてか。


 見渡せば、ずらりと30組の親子ペア。両親が揃っている騎馬もあれば、代役にボディーガードや冒険者を連れてきたところもいる。

 それだけこの競技会が注目されているってことだ。子供だけでなく、大人たちも本気の眼差しをしている。


 その熱気に、俺の胸も自然と高鳴った。


「……ベル、燃えてきたな」

「……先生。頼りにしていますわ」


 ベルの言葉に、俺は強い感情が込み上げてくる。


「ベル」


 拳を差し出す。


「……もう、それはやりましたから」


 恥ずかしそうにそっぽを向くベル。……思い通りにならないところも、正直彼女らしくて堪らなく愛おしい。


 審判のアナウンスとともに、出場者たちは騎馬を作り始める。

 ベルは配られたハチマキを頭に巻き、頭上にぽわぽわと淡い光の玉を浮かび上がらせた。

 ほんの微量の魔力にも反応して割れそうな、繊細な玉だ。俺自身の魔力でも割ってしまわないように気をつけないと。


「どうした、ベル。早く騎馬を作ろう」

「……やっぱり……やらなければ、いけませんのよね」

「それはどういう意味だ?」

「…………い、いえ」


 よく分からないが、俺は腰を落とし、ベルが肩に乗りやすいようにしてやる。


「さぁ、しっかり足を締めて落ちないようにな」

「…………ヘンなこと、しないでくださいね」

「……ヘンなこと? なんだそれは」


 ベルは耳まで赤く染め、ゆっくりと俺の肩に跨がる。

 ぐっと腰を入れて立ち上がると――


「……おぉ」

「な、なんですか!?」

「いや、軽いと思ってな。ベル。ちゃんと飯食ってるか?」

「……先生にはデリカシーが無いんですの?」

「俺のデリカシーは地の底まで落ちてるらしいぞ。ゴーシャが言っていた」

「ふふ……そうですね。今更あなたにそんなことを聞いてもしかたないですわね……そういえば、ゴーシャさんは? 一緒にチャームさんを探してましたよね」

「ああ……アイツは、今頃どっかの荒野で伸びてる」

「……? よく分かりませんけど……先生とゴーシャさんって、一体どんな関係なんですか?」


 ――ギクッ!


「……お、俺たちは……同郷のよしみってやつだ。まぁ、ほとんど関わりはなかったけどな」

「……そう、なんですのね」


 嘘は言ってない!

 勇者村の存在は秘匿されている。勇者と同郷と言ったところで、不自然ではない。……はず。


 勇者関連の話題を強引に流そうとしたその時、審判のカウントが始まった。

 3、2、1――!


「ベル。今回のブレインはお前だ。俺を上手く使って優勝してみろ」

「わたくしが、先生を……?」

「そうだ。俺はお前の手足になる。戦況を把握して、どう動けば有利か考えろ。俺は、お前の指示をできる限り果たすよう動く」

「前に言っていた……戦闘考察力……ですか」

「そうだ。俺といる時はいつだって学びの場だ。成長のチャンスを逃すな」

「――はい!」

「いい返事だ」


『スタ――――トォォォォ!!』


 審判の声が響き、競技場全体が揺れるほどの歓声が爆発した。

 ――親子騎馬戦が、ついに幕を開ける!

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