第32話 若いってのは良いね。なんでもできるだろ、実際
「……っ!? クッ――!! ふんぬぅ――!」
「……おっ。抜けたな」
攻撃を止められた呆然としたゴーシャは、力を込めて踏ん張ることで、ようやく俺の指から剣を引き抜いた。
「相棒はもっと大事にしろ。エモノに横から衝撃入れられたら、一発で折れるぞ。敵に武器を取られるな。勇者村で何を学んできたんだ」
「…………ふ、ふん。力自慢みたいですけど、力だけでボクに勝てるとでも?」
「力だけでも勝てるし、魔法だけでも勝てる。というか、たぶん何でも勝てる」
「…………あなたは、ボクを苛立たせる天才ですねッ……!」
ゴーシャの魔力が爆ぜる。全身から立ち昇るような濃密な気配。
おいおい、もうガチギレか。早いな。
「もう容赦はしません! 全身全霊で、あなたを殺す! ボクにここまで言わせたこと、光栄に思いなさい! ――剣を抜け! 全力で来い!」
「お前との決闘は、俺にとって朝の洗顔みたいなもんだ。抜くわけないだろ?」
「フゥックックック……フゥッーフゥ……! 後悔するがいい――! 死ねェ!! 17代目ェッ!!」
セリフが完全に魔王なんだが。村長、早くこいつ除籍処分にしてくれ。
ゴーシャが剣を掲げると、周囲に光弾が無数に出現した。上級の光属性攻撃魔法。おそらくヤツの切り札だろう。
早くも勝負を決めるつもりらしい。
一斉射出された迫りくる光弾を、俺は魔力を通した片腕一本でパァン、パァンと弾き返す。
一つひとつに自分の魔力を流し込み、形状変化させ、炸裂させて消失させる。
やがて、反転した光弾がすべてゴーシャに向かっていく――。
「な、なんだ……!? くっ……ぐわぁぁぁぁ――!」
自分の魔法に被弾するゴーシャ。
何をされているのかもわからないまま、ダメージを負うとは、あまりにも滑稽だ。
「バカ野郎。遠距離魔法をバカの一つ覚えに撃ちまくるな。打ち返されたら対処のしようがないだろうが」
「打ち返した……!? ボクの魔法を!? あり得ない! そんなこと、できるわけが――!」
「片手しか使ってないぞ。次は足だけでやってみるか?」
「……舐めるなよ、クソ雑魚がァァァァ――!」
激高したゴーシャが、学習せずにまた突撃してくる。
剣に光属性の魔力を付与し、威力の底上げを図っているようだが――。
「そんな見え見えの強化に意味なんてあるのか?」
ヒュン、ヒュンと、ゴーシャの繰り出す連撃をジャストタイミングで躱していく。こうでもしないと、弱すぎて俺の戦闘モチベーションが上がらない。
「刃を伸ばしつつ曲げるとか、分裂させるとかさ、もっと工夫しろよ」
「フゥックック……フゥッーフゥ……! このボクに説教ですか! 随分とまぁ、余裕なものですねェ!」
「余裕だからな」
紙一重で避けてあげているせいか、コイツ、図に乗っているな。
別に俺は押されているわけではない。遊んでやっているだけだ。
合間に裏拳を一発。ゴーシャの顔面にクリーンヒット。
「ぐっぅほ――!」
「自分の攻撃に集中しすぎだ。俺はお前の木偶人形じゃねえぞ。反撃されるかも、と思わないのか」
ゴーシャが吹っ飛ぶんでいく先に、俺は石壁を生成し衝撃を抑制する――つもりだったのだが、――ガン! と運悪く頭を打ち、そのままゴーシャは地に沈んだ。
「悪い。攻撃のつもりじゃなかったんだ。受け止めてやろうと思ってな。大丈夫か? 生きてる?」
頬をぺちぺち叩きながら、地面にそっと魔法を仕込んでおく。
「起きろ」
次の瞬間、ドゴン! ドゴン――! 石柱が突き上がり、ゴーシャが宙に舞う。
「ぐわぁぁぁぁ――――――!」
「これが勇者の魔法の使い方だ。せっかく無詠唱なのに、ロスタイムの長い大技繰り出してどうする。しかも、自分より早いヤツ相手に」
再び地面でのびてしまったゴーシュの元へ向かう。
「なんだ終わりか? 若いんだから、どんどんかかって来いよ」
蹴っ飛ばしてやろうかと思ったところで、パチリとゴーシャの目が開く。
「……こんのッ!」
「おおっ」
狸寝入りからの関節技。ピタリと俺の身体に絡みつき、上半身を束縛される。
「いいぞ。勇者らしからぬ地味な技だ」
「このまま締め落としてあげますよ!」
「……ふんっ」
――ぶちんっ。
ん? なんか今嫌な音鳴ったな……。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
自由を取り戻すために、ゴーシャの腕を外そうとした結果、彼の左腕そのものが、千切れてしまった。
「ああっ……すまん! それは流石にやりすぎた。大丈夫だ。すぐにくっつける」
「くうっ……くぅううぅぅぅ……」
涙目で震えるゴーシャに、自らの吹っ飛んだ左腕を持たせて、俺は上級の回復魔法を使ってやった。よし、これで元通り。
「よし、続きやるか」
「…………」
さっきまでの剥きだしの闘志はどこへやら。戦意喪失してしまったらしいゴーシャからはやる気を感じられない。というか、完全に引かれている。
最強の必殺技を素手て跳ね返され、腕を引き千切られた挙げ句に治されたんだもんな。プライドも高そうだし、だいぶ厳しい精神状態なのかもしれない。
「……なんなんですか、あなたは」
「俺は……ユシャだ」
「違いますよ。あなた……なんで勇者クビになってるんですか」
「ガルクとテルミンにイジメられて」
「あんな雑魚ども、この力があれば一発でしょうが!」
「アイツらとは持ちつ持たれつで俺自身楽しんでいるところもあるからな……。別に今のままの関係で良いと思ってる」
ゴーシャは顔を伏せる。
「……このボクが、何も、できないなんて……」
「弱いからだ。鍛錬を積め。お前はまだ若い。頑張れば俺を超えるかもしれない」
「……弱いステータスは、改ざんしてるんですね?」
「村長命令でな。本当のステータス、見せてやろうか?」
俺は、手を突き出して、ドゴン――! と石のステータスを出現させる。
そして、出てきた石の根元を蹴って割り、担ぎ上げる。
「……? 何をするつもりですか」
「? 俺のステータスをプレゼントしてやる」
「は?」
俺は石のステータスを抱えたまま、ぐるんぐるんと回転。
そして――、ゴーシャに向かって掴んでいた石をタイミング良く離す。
「――なっ……!」
ドゴォォォォン――!
俺のステータスと一緒になって、ゴーシャは空の彼方へ。
「うわぁあああああああああ――!!」
よく叫ぶな、あいつ。でも……まぁ、
「これでちょっとスッキリしたな」
勇者村出身者だし、ヘンに気を遣う必要もないしな。
冥土の土産に、やるよ。俺の石の個人情報。あとで魔力に戻すけど。
ゴーシャの叫びが遠ざかったころ、「んんっ……」とチャームが目を覚ました。俺はドーム型の結界を解除する。
「チャーム。大丈夫か?」
「あれ……ユシャさん。わたし……」
「真犯人を追いたいのはやまやまなんだが、聞いてくれ。親子競技が……もうすぐ始まるんだ!」
真剣さを伝えるため、チャームの肩を掴み、顔を寄せる。
「え!? ち、近っ……!」
「急がないとベルが可哀想なことになる!」
「ふぇ!? あ、あれ……ていうか」
ハッとした表情のチャームが慌ててスカートを押さえ、顔を赤らめた。
「……わ、わたし、もしかして……その…………パ、パンツっ……」
「ああ。脱がしておいた。汚れていたからな」
「……っ!! ゆ、ユシャさんが……!?」
「そうだ。安心しろ、見ても触ってもいない。一瞬で脱がした」
「~~~~っ!!」
「替えはセバッチュに持ってこさせる。今は俺の上着を巻いといてくれ」
「……う、うぅ……。なんか、よくわからないけど……ありがとうございますぅ」
「もうお嫁に行けない~」と涙声に啜り泣くチャームを横目に、俺は言った。
「大丈夫だろ。まだ若いんだから」
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