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クビになった最強勇者、家庭教師をしながら生徒のママ(魔王)と内通中!?  作者: 織星伊吹


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第20話 ウワッーーハッハッハッハッハッハッハ!! VS フゥーハッハッハッハッハッハッハ!!

 18代目は、全体重を地面に突き刺した剣にかけていた。

 その姿こそが、彼の体力が尽きかけていることを物語っている。


 ――生きてる!

 良かった……と内心で胸をなで下ろしながら、俺は1キロ以上先で交わされる彼らの会話に耳を澄ます。


「くっ……まさか、特級隕石魔法を自分もろとも振りかけようとは……このボクが……こんなところで」


 ――――よし。良い感じに勘違いしてくれている。

 18代目はキャンヴが仕掛けた魔法だと思い込み、そしてキャンヴは、辺り一面の壊滅した平原を見て傷心気味……。


「…………18代目勇者よ。その実力はしかと受け止めた。だがしかし、貴様を殺すのは俺の役目。いつかまた必ず矛を相まみえることもあるだろう。貴様が、魔王様の前に立ちはだかろうとする以上は――!」

「待て……! 逃がすと思うのか!」


 18代目が勇者らしく、ボロボロの身体で手を伸ばす。

 宙へ舞い上がったキャンヴの黒き翼は、なおも凶悪に広がっていた。


「貴様たち人間が安息の地を得ることは無い! 我々がこの世界を手にするのだからな! フゥーハッハッハッハッハッハッハ!!」


 コイツもだいぶ笑い方のクセ強いな。

 キャンヴは高笑いを響かせながら、次元の彼方へと消え去った。瞬間移動の魔法だろう。


 そういえば――魔王城ってのはどこにあるんだろうな。

 ……いや、まさか俺が今住んでいる屋敷ではないよな? 日中マオは良く出かけている。きっと他の場所に広大な土地を持っているんだろう。


「勇者様ァ……! 大丈夫っすか!!」

「勇者様! 僕の素晴らしいサポート、見ていただきましたか!?」


 ガルクとテルミンが、負傷した18代目のもとへ駆け寄る。


「ああ、居たのですか貴方たち。……ヤツは手強い相手でした。ボクも少し本気になってしまって――ですが、人質も助かりましたし、村を狙っていたようなので、結果オーライとしましょう」


 やいのやいのと勇者を中心に会話が盛り上がる。

 駆けよってくるガルクはなぜか汗でびちゃびちゃだった。

 こいつ、ただ遠くで離れて見てただけなのに、滝みたいな汗を流している。多汗症か?


「しかし……やはり男メンツというのは暑苦しいですね。勝利の美酒を味わうとき、愛らしい女性が居るだけでも――」


 美酒て。ガルクの汗でも飲んだら良いんじゃないか? と俺は思った。


 そんなとき、村のほうから若い女が走ってきた。

 ぶるんぶるんと豊満な胸を揺らしながら。


「だ、大丈夫ですか~!! ユシャさ――ん!」


 チャームだった。

 あれだけ大規模魔法を降らせたのだから、心配して見に来るのも無理はない。……が、危険な魔物が残っていたらどうするつもりだ、この子は。


 それでも、他人のために危険を顧みない巨乳シスター美少女を見た18代目の目の色が変わった。


「ぅ、美しい……!」

「「……勇者様?」」


 首を傾げる仲間たちを押しのけ、18代目は片膝をついた姿勢でチャームに手を差し伸べた。


「ボク……いや、18代目勇者であるこのボクのパーティーに入りませんか?」

「へっ……? 勇者様、なんですか?」

「そうです。そのお姿、シスターとお見受けします。今、ボクのパーティーには圧倒的に癒やし枠が不足している! なので是非!」

「ええっ、そんな! 急に言われても! わたしなんてただの酒場の娘で――」


 18代目がチャームに夢中なそのとき、多汗症のガルクが俺に気づいた。


「へへ。おめぇも助かって良かったな。勇者様が来なかったら死んでたぜ、確実にな」

「あ、ああ……へへ……ひい!」


 あ、ヤバいな。自分でも変な返しをした自覚がある。

 こういうとき、弱者はどんな反応をするのが正解なんだ……?


「…………なんだてめぇ。なんか知らんが腹立つな」

「……ひ、ひぃ!」


 よし、押し通すことに決めた! 俺は「ひぃ……!」で乗り切る!


「なんだろうな……俺が最も嫌いなヤツに顔が微妙に似てるんだよな……」

「……ひぃ!」

「あ、それ僕も思いました。なんか、あの17代目チンカス勇者に似てますよね」


 テルミンまで会話に混ざってきた。

 18代目は相変わらずチャームに夢中で、こっちに目もくれない。


 ――ヤバいぞ! バレる。

 こんな、前歯も無くなった不細工な面をしてるのに、イケメンの俺と間違えるだと!? やはりこいつら、一発ブン殴るべきか……?


 いや……待てよ。こいつらに俺の正体がバレるのは癪だが、18代目には明かしても問題ないのか? 勇者村に帰ってもらわないといけないわけだもんな。

 とはいえ今はチャームに夢中のようだしな……。


「……いや、アイツはもっと不細工だった! 腐ったミルクみたいな面してたからな! ワハハハハハ!」

「それもそうですね。ウワッーーハッハッハッハッハッハッハ!!」


 お前に言われたくないな。得にガルク! 腐ったミカンみたいな顔しやがって!

 テルミンは相変わらず笑い方のクセが強いし……。


 ……よし! なんか色々腹も立つし、一発お灸を据えてやるか。


「あ。こんなところにお金が!」


 二人が下を見下ろそうとした瞬間、俺は音速で拳を上げ、顎をトン――と突く。


「……うごっ」

「……うぅ」


 二人はそのまま意識を失い、地面に崩れ落ちた。数時間は起きないだろう。


 ――あースッキリした。

 酒場でミルクをかけられたときから腹が立ってはいたからな。

 弱小のどうしようもないヤツらだから、強者である俺が手を下すのは違うと思っていた。だから見逃してやっていたが、やっぱりムカつくものはムカつくからな。


 そういえば、パーティーを組んでいた頃も、こいつらに気づかれない程度の小さな暴力で鬱憤を晴らしてたっけ。些細なことすぎて忘れてたな。

 だからちょっとやそっとバカにされたくらいで、俺は怒らないのだ。ひそかにボコって発散してるから。


 18代目のほうをチラリと見る。

 こっちの騒ぎなど気づきもせず、チャームを口説き続けていた。


「えぇ~……でもわたし、……回復魔法なんて、本当に初歩的なものしか――」

「何でも構いません! なんなら魔法なんて使えなくても良い! あなたが傍に居てくれるだけで、ボクは体力全快になりますから!」


 無茶苦茶言ってるな。もうおねーちゃんの店でもなんでも行って、同伴してもらうほうが良いんじゃないのか?


 さて……勇者村の真相について教えるべきか……――。

 かなり若く、真面目そうな男ではある。(今の言動からはとてもそうも思えないが)

 だからこそ、伝えたときどういった挙動になるのか、想像もできないな。

 俺が、そうで合ったように……。


 もう少しこの男を観察してからのほうが、良いかもしれない。

 チャームにあれだけ惚れ込んでいるなら、また会う機会もあるだろう。

 俺とチャームは、もうお友達だしな。


 そのときに勇者村に帰ってもらえば、それで十分だろ? じーさん。



 * * *



 ――――魔王城にて。


「…………」

「どうしましたキャンヴ様」


 キャンヴの脳裏には、さきほどの戦いが鮮明に焼き付いていた。

 あの場に、明らかに“おかしな魔法”が乱入してきていることに、あの戦地において、彼だけが気付いていた。


 ――“特級”隕石魔法……だと?

 18代目勇者は、たしかにそう言った。

 まるでキャンヴ自身が放ったとでも思い込んでいるようだった。


 だが、そんなもの……自分が扱えるはずもない。

 どういうことだ……? 誰が放った?

 キャンヴは可能性を探る。


 あの多汗症の戦士? あり得ない。阿呆だ。

 ずっと鼻をほじっていただけで、戦いに身構えもせず、緊張感もない。我々の戦いを“本当に何もせず、ただ黙って見ていた”。

 実力者ならば、目を懲らして緊張するなり、自分の身に降りかかる危険性に構えるなり、そういった色々な事柄を考えながら観戦するはずだ。

 言うなればヤツは何者にもなれないこの世界の塵にすぎない。あいつが世界に何か影響を与えることは万に一つもないだろう!


 となると……もう一人のヘナチョコ魔法使いか?

 詠唱をしていたのは見えたが、いかんせん能力が低すぎる。

 笑い声もなんだか腹が立ったし、さっさと国に帰って家の手伝いでもしたらどうだ。


 となれば――残るは一人。

 ……あの、義勇兵だ。


 そもそも自分が戦場に赴いたのは、正体不明のその義勇兵を確認するためだった。

 奴の周囲で、魔王軍の強者たちが謎の敗北を重ねていたからだ。


 だが、いつの間にか視線は勇者へと逸らされ、義勇兵の存在が霧に隠されていた。

 ――これは偶然か?


 軽く格闘しただけで顔面はズタボロ、前歯まで折れていた。

 なのに逃げもせず、馬鹿の一つ覚えのように「……ひぃ!」と連呼するだけ。

 格上相手にそんなことをする弱者が存在するのか? 殺されるだけではないか?


 弱者の行動は理解できない。

 だが、キャンヴの直感は告げている。


 ――あれは、遊ばれている。


 あのとき、「……ひぃ!」と顔を見せられた瞬間、腹が立って力んでしまった。

 雑魚相手に、余裕を欠いたのだ。魔王軍大隊長が。……強者らしからぬ失態である。


 もっと調べる必要がある。

 あの男こそ、近隣の魔物を皆殺しにしていた“真犯人”かもしれない。


 ――もっと強く、精進しなければ。

 魔王様が世界を手にするとき、その光景を、この目で見下ろすためにも。

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