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クビになった最強勇者、家庭教師をしながら生徒のママ(魔王)と内通中!?  作者: 織星伊吹


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第2話 勇者村ってなんだよ。どこにあるのかは俺も知らん。

 ――数ヶ月前。どこにあるのかも分からぬ、勇者村にて。


「17代目……お主に、大切な話がある」


 ある日、勇者村の長――“村長”から、俺は神妙な面持ちで呼び出された。


 ――やっとか……。

 俺は、この瞬間をずっと待っていた。

 17代目勇者としての使命を果たすため、今日まで鍛錬に明け暮れてきた。


 今日、俺は――生まれ変わる。

 世界に平和をもたらすため、魔王を倒す!


 村長のピカピカに光る後頭部を眺めながら、俺たちは誰も入ることを許されぬ神聖な領域へ足を踏み入れる。

 向かい合い、俺は決意の瞳を燃やす。


「……心得ています」

「おぉ、そうかそうか……ニブチンなお主でも、さすがに分かったか」

「ええ。当然です。俺は使命を全うします。そのために生きてきた」

「ほっほっほ……嬉しいのう。お主をこれまで鍛え上げてきたワシも報われるわい」

「命をください、村長」


 ――ここ、大事な場面だぞ?

 俺の気持ちは最高潮。いい感じに“命”を渡してくれよな、じーさん!


「お主には…………」

「……ゴクリ」

「……今、何か飲んだのか?」

「いやそうじゃない、緊張で生唾を飲んだだけだ。頼むから早く続けてくれ、村長」

「喉が渇いているのかと思ってな。そこの湧き水、美味いぞ? 汲んでくるか?」

「俺が悪かった、頼むから命をくれ、今すぐ今すぐ今すぐはやくはやく」

「そうか、では――」


 困惑した顔の村長が、床まで伸びた白髭をわさわささせながら言った。


「お主に命を授ける」


 ゴクリ――。


「――魔王討伐の旅に出よ。パーティーを率いて、魔王城を目指すのじゃ」


 村長は、すぅぅぅぅ――と息を吸った。


「――――そして、魔王と“なぁなぁ”な感じで仲良くやってくれ」


 ……お?


 いや、待て。今、何て言った?

 幼少期にすべての情報が遮断されたこの村に連れてこられて以来、一歩も外に出ず鍛錬しかしてないせいで、ついに俺は耳がおかしくなったのか? 脳が腐ったか?

 冗談だよな? そうだと言ってくれ。


「……じーさん、頼む。もう一回言ってくれ」

「じーさんて……もう敬語は終わりか? まあいい。魔王討伐パーティーを率いて、魔王城を目指してほしい。でも、魔王は倒さないし、魔王軍も殲滅しない。うま~く、人間対魔族の戦いを拮抗させて“なぁなぁ”でやってくれ」


 ――このハゲ、何を言ってやがる……?


「……意味が分からん。俺は魔王を倒すために鍛えられてきたんじゃないのか?」

「まあ、一応な。ただな……この二百年の歴史を振り返ると、戦いってのは“なぁなぁ”でテキトーにしていた方が、かえって平和だったんじゃよ」

「まあ一応、だと……?」

「聞け、17代目。勇者が最強である必要はある。でも、それは“偽りの平和”を演出するため。そのためには、本物の力が必要なのじゃ」

「アンタ今“偽りの平和”って言ったぞ!? 勇者村の村長が!」

「うるさい、聞け17代目。ワシも、かつては真面目に魔王を倒し、魔族を根絶やしにして世界を平和に導いた。……しかしな、その後に始まったのは、人間同士の争いじゃった。しかも、魔王がいた時代よりもえげつない戦争をな。……皮肉な話じゃ。共通の敵が存在していた世のほうが、結局世界は平和じゃったのよ」


 御年250歳のじーさんが勇者だった、というものがそもそも信じられないが、まあ無い話ではなさそうだった。


「……それで、魔王とグルになって八百長しろと?」

「そういう認識で構わん。だが実際には、魔王軍による被害も少なからず出ておる。協定はあくまで魔王とワシの間のものじゃ。末端までは徹底されとらん」


 ……その協定、破った方が良いんじゃないか? と、俺は本気で思った。


「魔王は強さの次元が違う。決して怒らせるな。お主ほどの才能でも勝てぬ」

「…………すぐには、受け入れられそうにない」

「真面目なお主のことじゃ、そうなるとは思っておった」


 村長が少し苦い表情で腕を組み直す。


「待て。それじゃあ16代目はこのことを知っていたのか? まさか……俺への代替わりが遅れたのは、それが理由か?」


 俺が27になるまで勇者の座が回ってこなかったのは、16代目が“まだ頑張っているから”と聞かされていた。

 16代目は、御年47歳。おかしいとは思っていた。


「その通り。本来なら40歳で勇者は隠居。だが、16代目は“なぁなぁの適性”が高かった。ワシがこの話をした時も『え、楽じゃん? 遊んでて良いってこと?』と笑って受け入れおった」

「ふざけてんのか!?」

「いや本当に。あいつは魔王幹部のトドメを刺せる場面でも逃したり、やられたフリをしたり……やらかしもかなり多かったとは思うが、なぜだか民衆からは支持を集め、『あいつなら許せる』『しょうがねーよ、あいつがやったことなら』などと言われ、支持率は脅威の89パーセント。結果、歴代最長の勇者として表彰されることになった」

「魔王倒してねーのになんで表彰されんだよ! というか、本当に勇者と魔王の話か? これが」

「とはいえ……ヤツも歳じゃ。そろそろ戦場から離れたいと、引退を申し出てきてな。そこで、お主との交代となったわけじゃ」

「……何度も言うが、俺は受け入れられない。今日この日こそ、魔王討伐の使命を受けるつもりでいた。そのために……生きていたんだ」

「お主ももう27歳。本来ならもっと早く送り出してやりたかった」


 村長が、キラリと輝く頭部をこちらに向けた。

 まさか……これは――!


「土下座するな! じーさんやめろって!」

「なぁ……頼むぅ……16代目と一緒に、おねーちゃんの店予約しちゃったんじゃ」

「完全に引退後の予定じゃねえか! ふざけんな、俺は絶対にやらんぞ」

「すまないの。お主には苦労をかける……」

「なんで了承したみたいになってんだ!」

「大丈夫じゃよ、お前は16代目よりもさらに上手くやれる。なんせ、これまでの勇者の中でピカイチの才能なんじゃから。さて、とっととステータスを出してくれ」

「急に話を進めるな!」


 気乗りしないまま、俺は地面に手をかざしてステータスをズゴン! と展開。

 大地属性魔法で、個人情報が刻まれた岩石がせり出すという形式だ。

 本当なら、魔王にこのステータスを見せて、「俺はこういう人間です」自己紹介してから、そのまま頭をかち割るつもりだったのに。

 もう意味なくなっちまったじゃねぇか。


=======

レベル255/355

生命力:A+

魔力量:B+

筋力:A+

俊敏:A

魔力操作:A+

=======


 村長は、俺のステータス(石)の周りをくるくる回りながら、満面の笑みで言う。


「んー……強すぎぃ! いつ見ても惚れ惚れする能力値じゃあ!」


 俺のステータス(石)をペチペチ叩きながら喜ぶな。


「魔力量以外、ほぼオールA……正直美しすぎるんじゃよね。比較的バランス型になる勇者でもおらんて。普通は得意分野に偏るものじゃ。じゃが……旅立ちの時点でこの能力値は、パーティーメンバーが引くぞぉ……「うわ、コイツきも……」って思われて、ぼっちになる予感がプンプンするわい」

「余計なお世話だ。俺は強さをひけらかす気も偽る気もない」

「嘘が嫌いなんじゃったな。じゃが、ちと細工は必要じゃ。ギルドで公認されさえすれば、お主の“偽造ステータス”も公的なものになる。そこから、少しずつ“成長していく演出”をすれば完璧じゃな」

「面倒くさいな……」

「じゃから、“D”とか“E”ベースにしつつ、たまに“D+”くらい混ぜればええんじゃない? ほれ、一般人~ちょい優秀くらいの範囲で、新人勇者のリアリティ出してこ」

「こんな感じで勇者が“メイキング”されていくの、イヤなんだが……」

「あっ、そうじゃ。お主のステータス開示方法、『勇者村の石がズゴン!』もやめとくんじゃよ? 絶対みんなビックリしちゃうから」

「他のやり方なんて知らないぞ」

「なーんか冒険者のみんながやってるような感じのことを真似すれば良いんじゃないかの? ほら、みんなシュシュって馬鹿みたいに宙で指走らせとるじゃろ。半透明のウィンドウ出して。うっすーい魔力でお絵かきして、記憶させて呼び出す系の魔法じゃろ? とりあえずアレ真似しとけ」


 じーさんが無茶苦茶テキトー言ってるが、なんかもうイメージだけで創れそうな気がしてくるのがイヤだな。冒険者たちのステータス開示なんて見たことないのに。


「おい待てよ。俺は本当にこのままその“なぁなぁ協定”が使命になる感じなのか……?」

「うん」



 ――こうして、俺は17代目勇者になった。


 いや、正確には、もうクビになったんだがな……。

 これからどうすんだよ、じーさん……。

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