第19話 笑い方にクセのある魔法使いの特級隕石魔法で終わらせてやる!
18代目がまっすぐにキャンヴへ突っ込み、黄金に輝く剣技を叩き込む。
一方、キャンヴはそれを片手で受け止め、もう片方の手からは魔力の塊を投げ放った。
二人の攻防は拮抗しており、互いに好敵手を得たかのように、活き活きと死線を繰り広げている。
――レベルにして、70~90帯の戦い方だな。
戦闘評論家としては、そう分析する。まだまだ青臭い。だが、決して弱くはない。俺があの域に到達したのは10才くらいだったな……と、つい懐かしくもなる。
しかし、実力が拮抗しているせいで、勝負はなかなかつかない。
そこで俺はひとつの案を思いついたのだ。
――“この18代目パーティーに便乗し、この争いに終止符を打ってしまおう!”
俺は、隣で戦闘を観戦していた魔法使いテルミンに声をかける。
「……ときにテルミン殿」
「は、はい……?」
突然名を呼ばれ、テルミンは焦ったように顔をこわばらせた。
――しまった。
設定的には名前を知らないはずだったな。俺はただの歯抜けの村人だ。
「あなたは……魔法で追撃しないのですか? ほら、勇者様をサポートする必要があるでしょう」
「いえ、僕が手を貸す必要もありません。勇者様は最強です」
「……そんなことは、ないのでは?」
「あなた、勇者様を侮辱するつもりですか?」
――俺のことは“チンカス勇者”とか呼んでなかったか……!?
まあ、あのときは俺も実力を隠していたから仕方ないんだが。
「というか……なぜ僕の名前を?」
「ああいや、風の噂で聞きまして」
「そうでしたか! やはり我々の活動は、市民の方々にも届いていたのですね!」
――お前らが魔族を殺しまくったせいで、今こんな騒動になってんだけどな!
そんなこと知らないであろうテルミンに言っても仕方がないが……。
「18代目勇者様は、前勇者の支持率12パーセントを大きく塗り替え、現在77パーセント! 我々の勇者活動もそこに含まれていると思うと、涙が出る思いです!」
――いやそれ、いつも思うけど誰の何処調べなんだよ!
「はあ……大変だったんですね」
「ええそれはもう。魔王城を探す傍ら、あちらこちらの町を転々とし、魔王討伐の公約を掲げ、市民の方々に熱い思いを理解していただきました」
もっとやるべきことがあるんじゃないのかとは思うが、勇者をクビになった不適合者の俺が口を出す筋合いもない。
……しかしこいつ、マジで魔法撃ってくれないな。公約とかどうでもいいから、さっさと魔法を撃てよ。お前は政治家じゃなくて魔法使いだろう。
テルミンが魔法を放ちさえすれば、俺はひそかに補助することができる。それで、勇者・キャンヴもろとも消耗させることができるのだ……!
思えば、パーティーを組んでいたときは、テルミンの魔力には随分世話になった。
こいつは魔力操作が下手で、感度も低すぎる。だから、他者の魔力が混じってもまるで気づかない。それどころか「なんだか今回の魔法は凄かった! 僕の成長の証だ!」とポジティブに捉えることができる素晴らしい逸材――!
他人の魔力を遠隔で操作するのは至難の業だ。だがテルミンなら、以前から幾度と通わせたこともあるし、魔力のクセ・流れ方も熟知しているぶん、同期もさせやすい。
さあ、だから早く魔法を撃て……!
災害級の隕石魔法を降らせてやる……!
「…………実は僕、16代目勇者様に憧れていまして」
――ええ!? なんか自分語り始まったんだが!
18代目が必死で戦ってる最中に、過去の勇者へ思いを馳せるな! お前はいいから早く魔法撃て!
適当に相づちを打ちながら、俺は目の前の戦いに視線を戻す。
お互いに負傷しつつも、戦いは終盤へと移行していた。
……あれ? なんか凄く良い感じじゃないか。
かつて俺が命じられた協定など知らぬはずの二人が、互角の相手との戦いゆえに、まるで申し合わせたかのように拮抗した戦いを見せている。
お互い消耗し、息も荒い中――、
「ああっ、勇者様が負けてしまうっ!」
ここで突然、テルミンが吠えた。
さっきまで「最強ですから」と信じきっていた勇者様が息を上げているのを見て、この態度。きっと、16代目との馴れそめエピソードを語った流れで、感傷的になってしまったのだろう。さっさと魔法を撃て。
テルミンが早速詠唱を始める。
「天よ裂け、星々の礫を放て――大地を穿つは、我が祈りと滅びの礫なり。降り注げ、深淵の流星――――!」
テルミン十八番(だと本人は思っている)の中級隕石魔法がお披露目される。
突如として、空の雲行きが怪しくなり――、
暗雲の中から、紫電を纏った隕石が、雲を突き抜けて落ちてくる。
……相変わらずだな。天空からは小さな隕石がひとつしか降ってこない。
中級の詠唱をしてはいるが、実際の効力はパッと見で下級。いや、それ以下だ。
己の実力を過大評価した結果がこれだ。パーティー時代は俺が補助していたから(利用させてもらっていたから)、俺のせいでもあるのだが。
俺は、18代目がかけてくれた光の壁にぶつからないよう、指先から紐状に伸ばした魔力を操作して、テルミンの首元へと巻き付ける。
準備完了。俺は一気に魔力を放出――!
すると――――!
ひとつしか降らなかった隕石が、その数50を超える大群となり、戦場に降り注ぐ――!
俺は全ての魔法に精通しているわけではない。
魔法の威力だけを見たら、賢者のような存在には到底及ばない。
だが、攻撃・防御・癒し・補助――八割程度の魔法を習得し、80パーセントくらいの出力で使える。
勇者だからこそ、なんでも100パーセントで使えたら格好良かったのだが、そこまでの才能はなく、この程度に落ち着いている。
まあでも困ることはない。
なぜなら俺は魔法はほぼほぼ物理攻撃の補助に使ってしまうからだ。こんな風に魔法ブッパして気持ち良い思いをするのは、テルミンを介したときだけである。
上級を超え、もはや“特級”の隕石魔法へと化したテルミンの「中級隕石魔法(効力は下級以下。ややこしい)」は、18代目とキャンヴの戦場を荒らしに荒らしていく。
ドゴン、ドゴンと面白いくらいに隕石が落ち、次々と凄惨なクレーターを刻む。
……これ、ちょっとヤバいか?
久しぶりにまあまあな魔力出力で、力みすぎたかもしれない。まあ、でもあの二人ならギリギリ死なないだろう。勇者と魔王軍兵隊長なんだから、……多分。
「ウワッーーーハッハッハッハッハッハッハ! 見てください! 僕の隕石魔法を! もはや神の領域に到達しました! ウワーッハッハッハ!!」
笑い方に癖のあるテルミンは、実力以上の魔法を放ててご満悦。
いいのか? お前の慕う勇者様もろとも撃ち抜いてんだけど……。
まあ、いいか。何かあったときは全部テルミンのせいだ。
隕石が降り止み、広大な平原は穴だらけ。砂埃がパラパラと舞う。
そこには――二人の人影が、立っていた。
さあ……どうだ。
生きているのか!? 元気にしているのか……!?
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