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クビになった最強勇者、家庭教師をしながら生徒のママ(魔王)と内通中!?  作者: 織星伊吹


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第13話 ご令嬢の泥魔法と、村長からのクソい手紙

 ……泥か。

 小綺麗なご令嬢には似つかわしくないモチーフだ。

 彼女のこれまでを知っているわけではない。ただ、なんとなく似合っているような気もした。


「ほぉ。なかなか面白そうだな。俺と同じ大地属性の魔法だし、師弟関係の感じが出るのも良い。うん、私的にも超オススメだ。それでいこう。ステータスを刻むのにはまた別でコツがいる。それはおいおい教えていくから、ひとまずは自分の魔力を泥に変換して、放出する練習をしよう」

「師弟関係は別に……出したくはないのですけど」

「それは残念だな……。まぁいい、じゃあ魔力を練ってくれ」

「え、あの……詠唱は……? 大地属性の詠唱はまだ習ったことがなくて……」


 詠唱か。なるほど。教科書通りだな。


「いらんいらんそんなもの。“無詠唱”でできるようにしよう」

「む、無詠唱ですって!? …………で、でもたしかに……あなたの魔法、詠唱がなかったような……っていうか、……なんですかそれ、聞いたこともない!」


 ベルが興奮しながら言った。

 確かに無詠唱で魔法を扱う人間を、俺は勇者村でしかみたことがない。あまり一般的ではないのかもしれないな。当たり前のように言ったのは良くなかったか。


「信仰心が高いヤツなら詠唱にも意味がでてくるから構わないが、魔法の性能が大きく向上するメリットより、詠唱をすることで繰り出す技がモロバレになるし、自身の危険性を跳ね上げる行為に他ならないと俺は考えている」


 固定砲台のように圧倒的火力で敵を蹂躙したい場合は詠唱は不可欠だ。それぞれの属性神への信仰心が高ければ、威力・範囲ともに爆増する。

 ただ、俺は魔法をそんな風には使わない。


「これは俺の持論だが……魔法ってのは、あくまでも自身の補助が基本だ。強力な魔法の一つで敵を倒そうだなんて、思わないことだな。殲滅するときは、自分の手でトドメを刺すのが一番良い。魔法なんてのは、斬りかかるときについでに浴びせてやったり、引くときにさらっと置いて妨害したり、その程度で良い。尚のこと詠唱なんてしてる場合じゃないだろう?」

「で、でも……そんなこと学校じゃっ」

「学校の勉強は学校でできるだろう。今は俺の授業を聞いておけ。その上でいらないと判断したのなら、別にそれでも良い」

「……わ、わかりました」

「大丈夫さ。念じて、念じ続けろ。そのほかのことは考えない。それだけだ」


 ベルが、夕日に向かって魔力放出を始めた。

 俺は瞳に魔力を集め、その姿を後ろからチェックする。


 おぉ……出てる出てる。魔力が陽炎のように揺らいでいるのがわかる。

 俺のアドバイスが刺さったのか、さきほどより余程魔力が活き活きしているし、スムーズに流れている。

 コツを掴んだからかもしれないが、センスは元からあるほうだな。

 魔力を放出しながら、ベルが訊ねてくる。


「……そういえばあなた、ミリーの火炎魔法をどうやって打ち消したの?」

「あの程度なら息吹きかければ――じゃなかった。……消滅魔法を使ったんだ」


 おっと危ない。たとえ下級の魔法であっても、普通の人は、息で消すなんてことはできない。息といっても、濃厚に魔力を絡めた風だけどな。


「……なんだか、透明になる魔法が使えたり、顔を変える魔法だったり、石のステータスだったり、消滅魔法? 聞いたことないものばかりで……なんでそんなことができるの……? って思ってしまうんですけど。あのステータスで」

「だから言ったろ。ステータスにこだわるなと。本当に大事なのは、もっと他にある。……そ、それより、双星競技会楽しみだな。チャームも応援に来てくれるし」


 俺は話をすり替える。

 実は三人の昼食の最中に約束をしたのだ。チャームも、話しやすくて良い子だ。俺たちは三人で共通の友達になったというわけだ。


「チャームさんが来てくれるのは嬉しいですけど…………って! あっ、泥でた!! 出ました、先生!!」


 早いな。

 ベルの前には、泥の弾が転がっていた。紛れもない彼女の魔法。

 この指導方法で間違ってはいないみたいだ。それも喋りながらやるとは……。

 賭けではあった。魔力は一人一人性質の異なるもの。ヘンに他者が介入すると返って上手く行かないことが多いのだ。


「す、すごい……わたくしが……本当に無詠唱で……!」


 ベルが地面にべちゃっと落ちている泥の玉を興味深そうに見つめる。

 だが……そんなことよりも……!


「今……“先生”って言ったか?」

「…………い、言ってないです……!」

「いーや言った。俺は聞いたぞ。だからもう一回言ってくれ、この録音魔法で――」

「何よそれやめて――!」


 俺たちがはしゃいでいると、どこからかやってきた鳥が、肩に乗っかった。

 鳥の足首には手紙らしきものが巻き付いている。


「これは……じーさんの」


 俺は、手紙を開いた。


====================================

 拝啓 17代目へ


 よっ。元気しとる?

 何? 風の噂でお主家庭教師やってるんじゃって?

 いいんじゃね? お主がまさか指導側に回るとはワシは感動した!

 生徒はどうじゃ? ピチピチギャルか? もしそうならワシも見に行きたい。というかワシが教えたいくらいじゃ。マンツーマンで。って……そんなことはどうでもよくての……。


 実は大変なことになったんじゃ。

“18代目”のヤツが、勇者村のどこにもおらんのじゃ!

 あやつ、もしかしたらそっちに行っておるかもしれん。せっかちなヤツじゃからのう……! 協定の話を聞く前に魔王ブチ殺しに行くかも……! あいつもお主と同様クソ真面目なところがあるからのぅ……タイプ全然違うが!


 というわけで、もし18代目が魔王に戦闘でも仕掛けようものなら、この世界は終わる! ハッキリ言おう! 終わるから! 滅びます! THE ENDじゃからね? お主には休息をさせるつもりじゃったが、これだけは頼む――!

 16代目にも声はかけておくから! 家庭教師やりながらでもいい! ついでに探しといて! というわけで、18代目を見かけたら、勇者村に帰ってこい! って言っといてな!

 ほな バイナラ★


 村長より

====================================


 俺は、手紙丸めて飲み込んだ。もぐもぐ。ゴクン。


「えぇ!? どうして手紙を飲み込んでしまいますの!」

「もごもご……別にいらないからな」

「あなたはすぐにそうやってなんでも口に入れて食べちゃうんですから……赤ちゃんですわ、まるで」

「もごもご……いいから鍛錬を続けろ」


 そのまま俺たちは、セバッチュに夕食に呼ばれるまでたわいない話をしながら、魔法の鍛錬に励んだ。


 ――18代目、ね……。

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