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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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過去との遭遇

魔術師視点です

* * *


閉じ込められた場所は、いわゆる思想犯向けの施設だった。

それも魔術師向けの。


昔から魔術師や魔法使い、呼び方はどうでもいいがそういった能力は希少価値があった。

だから放置して勝手に死んでしまったということの無いようになっている。


そして普通の牢であれば勝手に脱獄できてしまうのでそうならないための措置が施された場所に収監された。


魔術師のために作られた場所。


粗末な場所だったが入った瞬間違和感があった。

素養のあるものが入ってもほぼ気が付かない様な違和感。


魔術師が脱獄しないように作られた結界の様な魔法は古すぎてあまり意味をなさない。

魔術師本人が出るというのはやや難儀するが設置当時考慮されていない抜け穴の様なものがとても多い。


その上、それを完璧と見なして作られている監視の仕組みはザルもいいところだった。


監視の目にはふて寝している自分の幻影を映し出す。

この中では一応魔法や魔術召喚術、そういったものは使えない"こと”になっているので確認もされない。


違和感はそこに無いはずの入り口だった。

あの塔の国のことを思い出す。

あの場所もある程度の知識などが必要な場所だった。


中に入り込むとそこは大きな書庫となっていた。


いくつか読み始めると、それは魔術に関する研究で、ここに閉じ込められた何人もの魔術師によって書かれたものだった。

同じ魔術師にしか読ませるつもりのないもの。

時代が時代なら禁書と呼ばれるようなものもあった。


俺はそれらを読むことに没頭した。

そして一つの事実に気が付く。


これは一見、魔術の研究所だ。

それは間違っていない。

その一つ一つは世の中に確信を与えるだろうものばかりだ。


けれど、それすらも目くらましだという事に。


巨大な書庫は何人もが受け継いできた一つの研究を隠すためのものだと。


もしもあの違和感に外のものが気が付いた時、各々の研究のためにこの場所を作ったのだと。

そしてその研究に目を奪われる。そしてここがそのための場所だと勘違いさせるためにあるのだと。


研究書にある走り書き、棚の傷、それから、少しだけ滲んでいる文字。

そこに残るわずかな魔力残渣。


自分でさえ気が付くのに少々時間がかかった。

それだけここにある本の研究内容は魅力的でそれで頭がいっぱいだった。


けれど、ある時この場所のもう一つの意味に気が付いた。


ここに捕らえられた魔術師たちは、異端だと言われた者たちはある一つの研究をずっとずっと行っていた。

胸がドキドキした。


まずは目くらましのための研究書を書いた。

この本の丁度あいたページが、余白が、次の同じ志を持った人間のためにスペースになることを祈りながら。


そして、恐ろしく長い期間をかけて行われてきた、研究を引き継ぐことにした。


ひきついだ理由は研究が途中で完成していなかったからというのも勿論あるが、研究内容が自分も知りたいものだったからだ。


タイトルはどこにもない。


ただ、しいてこの研究にタイトルをつけるとすると


『魔族について。特に魔王と呼ばれる存在の代替わりと世界にとっての魔王の必要性について』


というものになる。


俺が人だと思い、そして殺してしまった彼を人々は魔族だといった。

魔族とは何か。

竜などと同じ狂暴な獣の一種として魔族は存在していない。


明確な目的があって魔王討伐を命じられる。

実際自分も捨て駒とはいえ一度はそう命を受けた。


魔王とは何か。

世界の脅威とは何か。


知能があり、計略があるのであれば、お互いに軍を用いて戦争をすればいい。

少なくとも子供を差し出す必要は無い。


何故少数精鋭で魔王の討伐のみを目的として人員を集めるのか。

そうせねばならない理由があるのか。


あの戦いからずっと気になっていた事だった。


同じように考えていたものが過去いた。

それだけで救われた様な気持ちになった。


まずは過去どのような考察や研究が行われ、それが今の現実と齟齬が無いかを調べ、訂正する部分を高度な魔術師にのみ分かる形で書き記すところから始めた。


そして、まだ一度も見たことすらない魔王について考えた。


一目見ることくらいなら可能だろうかと思った。

あの俺が殺してしまった魔術師の作った魔術人形に似たものを魔王の元へ飛ばす。そして記録をとる。

逆にこの場所が知られてしまうとまずい。そう考えたところでここは隔離されているから逆に安全なのかと考えた。

不浄は魔道具で処理されており、食事も干し肉の様なそのまま食べられ且つ日持ちのするものが月数回届けられるだけだ。


ここには人はいない。


失敗しても巻き込む人間がいないのはいい事だ。そう思った。


そして、ここまでの旅で分かった、魔族についてというよりも、この世界の成り立ちについてを書き記し始めた。

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