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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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番外編:ナタリア

 魔術学園は思ったよりも豪華な建物が沢山並ぶ、学園都市の様な場所だった。

 私が今まで行ったどんな場所よりも都会で、どんな場所よりも人が多い。


 そして、みんな豪華な恰好をしている。



 あの人の先生が守衛室のところで出迎えてくれた。


「あー、大体の話は不肖の教え子から聞いている。

何か困ることがあれば力になるから」


 そう言って先生は私にこの学園で着る制服を手渡した。


 それは見るからに作りがしっかりとしていて、まるで私が今まで生きてきた世界とは別世界の着るもののようだった。

 実際魔術学園は私が今まで生きてきた世界とは別物だった。


「あら、猿がまたいますわね」


 魔術師という生き物はとても選民意識が強いのだと学園に入ってから知った。

 そして選ばれし自分たち以外に対して恐ろしく冷酷なことも。


 今まで名前も知られていない、出身地すら誰も知らない私はこの学校では人ではないと陰口をたたかれている。

 けれど別にそれはどうでもよかった。


 少し前までならば、間違いなくめそめそしていたかもしれない。


 編入した際に魔術師のローブを私だけ持っていなかったことも、周りの嘲りを加速させてしまったようだ。

 普通は魔術師の家系である両親が用意してくれて、そうでなくても師が準備してくれるものらしい。


 常識知らずと認識された私への視線は冷たい。



 ただ、魔術師のローブは編入してからしばらくして、私の元に届いた。

 最初は私を盗人扱いさせるために誰かが自分のローブを送ったのではないかと思い、先生に相談した。


 先生はよくよくローブを確認してから、一瞬感嘆のため息をついた。


 それから「これは君のものだろう着てみると良い」と言った。

 誰からだとあえて口にしないことでこれが誰からの贈り物であるのか、ようやく私にも察しが付いた。


 魔術を封じられた場所にあの人は幽閉されていると聞いている。

 けれど、これを手配できる程度には魔術を使えるのだろう。

 それにローブを見た瞬間の先生の感嘆はおそらくこの魔術師のためのローブにあの人の尋常ならざる魔術が組み込まれている。


 あの人は今どうしているのだろうと思う。

 連絡手段は無い。けれどあの人の様に魔術が使えれば連絡位できるのかもしれない。


 あの人と同じ技量がすぐに習得できるとは思えない。

 彼の様な人を天才と呼ぶのかは私にはよくわからないけれど、技術に対する突き詰め方が異様なのは見ていたので知っている。

 あの突き詰め方が私にできるとは思えない。それが才能の差なのかもしれないと思うけれど、それでも次に会う時には少しはあの人に言葉が届く位の実力を得ていたいと思う。


 もう蚊帳の外は嫌だ。


 私が間違っていたとも思えないけれど、他に選べる道が無かった時せめて明かりを灯せるようになりたい。


 そのためにならなんでもしようと思う。

 行く道が明るければ今まで気が付かなかった道があることに気が付けるかもしれない。


 足を失って、幽閉されて、それが一番正しい道なんだ。

 なんて言われてもあんまりだ。


 あんまりじゃないか。それが正しいとは思えない。


 だから、どんなに馬鹿にされても私はここで歯を食いしばって頑張るのだ。



 魔術の勉強は思ったより楽しかった。

 体系だって教えられる理論はどれも美しいと思ったし、それに、講義以外にも大きな図書室があるのが良かった。


 私のレベルで発想できる分からないはここにある本に大体答えが書いてあった。

 防御のための術式、強化のための術式、それから攻撃のための術式。

 それから生活魔法と呼ばれる類の術式。


 覚えたいものは山ほどあった。


 その中でも私が一番に研究しなくてはならないのは、治癒のための術式だった。

 あの時、彼の黒い足が宗教律に反していることは分かった。

 けれど、それ以上のほかに方法が無かったのかは私には分からなかった。

 何も知らないという意味での分からないだ。


 だから、分かる様にならねばならない。

 できれば、彼の足を取り戻すための方法を。


 けれど、治癒魔法は調べれば調べるほど、不可解な魔術だった。

 理路整然とした技術を好むあの人が苦手だと言った意味がわかった。

 最初は、あの人は他人の体をいじることに苦手感があるのだと思っていたけれどこれは違うのかもしれない。


「熱心だねえ」


 私にこんな風に話しかける人は一人しかいない。

 あの人の先生は私の担任ではないのに、時々こうやって話しかけてくれる。


 入学の際にいくつかの使える魔法や知識を隠すように私に言ったのでそのことを気にしているのかもしれない。

 彼に教わった魔法の一部がこの場所で見せるべきではないことはすぐにわかった。

 だから感謝こそすれあのことについては何も思ってない。


「彼を救う方法を知りたいので」


 私がそう言うと先生は苦笑交じりのため息をこぼした。

 それから「妖精召喚の実習は明日だよ。学生はみーんなその予習で必死だ」と言った。

 こんなところでそれと関係ない勉強をしてるのは私だけだと言いたいのだろう。


 私は何を召喚候補にするかは決めていた。

 召喚は運の要素もあるけれど、今の私の技量で喚べるものの中で最初に契約したいのは、と考えたときに思い浮かんだのは彼が沢山使役していたあの鳥だった。


「最初に召喚したものが何だったか覚えてますか?」


 別に先生の初めての話を聞いてもいいと思った。

 だけど、本当に期待していたのはあの人の初めての召喚だ。


「君も見ただろ? あの影を」


 先生は私の意図を完璧にくんでくれたみたいで、あの人の初めてがあのあの人を守る様に寄り添っていた存在なのだと教えてくれた。


「じゃあ、なんで――」


 あの人はあの影の存在を知らないのだろう。

 私がそれを口にしようとした瞬間、先生は先生自身の唇に指をあてて「しー」っと言った。


 その話はここではできない話なのだろう。


 また一つ、調べなければならないことが増えた。

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