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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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魔術師との別れと魔術学校

 あの魔術師はどこまで予測していたのだろう。

 人と合わせる事は苦手な人間なのだと思っていた。


 ナタリアは魔術師の通う学校に入学させられることになった。

 魔術の知識があるナタリアがあの魔術師の事をその辺でベラベラと話さないための措置だという事は容易に理解できた。

 自陣営に組み込むことで監視をして行動を制約する。有事の際には魔術師と都合の良い駒として使うためにナタリアは魔術学園に行く。


 彼女に魔術の適正があると気が付いたときから、魔術師は熱心に彼女に魔術や魔法を教えていたが、それでも自分以外が教師であることを望んでいた様に見えた。

 それを叶える方法が無かったかのように思えたけれど、ここにきて魔術師は当初の願いを叶えた格好だ。


 拾った子供を学べる場に送り出して、やる気の無かった魔王討伐から降りる。


 魔術師は当初の目的を果たした。


 後は彼が軟禁される場所が劣悪な環境でなければ彼の望んだ決着だ。


 あれはそういう笑顔だったのだろうか。


 最初からその方向を考えてたとして――


「なあ、なんでお前がここにいる?」


 精霊に聞く。


「ユナって呼んで下さらない?」


 精霊に質問の返事以外の言葉を返されて思わず舌打ちをする。


「ユナ。お前はアレの命令でここにいるのか?」

「勿論」

「アレは俺に何を望んだ?」

「さあ? でも、ナタリアって子がちゃんと子供として成長して欲しいとは思ってるみたいよ」


 足を失った後かなりぎくしゃくしていてもそれでもあの子供を守ることを選ぶのかと思った。


「あなたはこれからどうするつもり?」

「……悪い魔術師に振り回された所為で休息が必要だな」


 しばらくはそれで押し通すつもりだ。

 どうせ勇者の力で直接交渉役は騙されてくれる。


 あいつが少し休むというのなら、俺が何かするつもりは無い。


* * *


「あのっ!!」


 目の前で少女は大きな手荷物を持って俺に声をかける。


「今までお世話になりました!」

「……あの女勇者には?」

「連絡を入れました。喜んでいましたよ」


 ナタリアは俺の顔をじいっと見てから、少し唇をかみしめた。

 それから「あの人とは……」と言った。


「拘束されてるんだ。面会も許可されてない」


 彼女が言ったのが、魔術師の事だと直ぐにわかった。

 魔術師とは連絡はとり合っていないし公にそれは許可されていない。

 ユナは俺と行動するつもりらしいが今はどこかに隠れてしまっている。

 精霊が召喚し続けられているという事はどう考えても連絡の取りようはあるのだろうけど、それを口にだしてやるほどお人よしではない。


「頑張って、今度こそ足を引っ張らない魔法使いになります」


 彼女の瞳には決意がこもっていた。

 それでも俺には頑張れとも頑張るなとも言ってやることはできなかった。


 そもそも、この先ナタリアがあの魔術師に会うのかも怪しい。

 あの魔術師はこの後のことをどう考えているのだろう。


「魔法が使えないっていうのは無力だな……」

「あら、そうかしら」


 精霊は答えた。

 魔法の塊の様な存在にそう言われても別に慰めにはならない。


「だって、あなた魔法耐性があるわ」


 それを高めればほとんどの魔法や魔術が効かなくなるでしょ?


 そんな話は初耳だ。


「それを鍛えることは?」

「勿論できるわ」

「副作用は」

「ふふ、ちゃんとそういうのも聞くのね。

回復魔法が効きずらくなるわ」


 でも、多分あなた病気の類にはならないでしょう?

 歌う様に言われる。


「魔王は現れると思うか?」

「さあ。でも魔王はこの世界に必要な仕組みよ」


 仕組みという言葉が引っかかったけれど何も聞けなかった。


 やることは決まった。

 そして、精霊のやるべきことはおそらくあの少女の定期的な監視だろう。


 魔術学校の場所を調べると、思ったよりもバカでかい学校で驚いた。


「主に上流階級のお子さんが通うんですよ」


 そう言って地図を広げた役所の女は俺に媚びを売る様に笑った。

 上流階級。そんなところであの彼女が上手くやっていけるのだろうか。


 何となくあの魔術師はそういう部分については何も考えていない気がして俺は思わず大きくため息をついた。

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