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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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審判の時

 魔術師が連行されたと聞いたのは戦場に魔術師たちの状態が映されなくなってしばらくした後だった。


 地位のありそうな魔法使い達が慌てふためく様は見ていて少し面白かった。

 あの土くれの人形が全くいなくなったことからも、観測手をしていた魔術師が「魔族の反応はありません!!」と叫んでいたことからもあの魔術師が勝ったのだろう。

 どういう思考回路でこの状況で一人で勝ってしまおうと思うに至ったのかは分からないが、そんな事は俺にとってはどうでもよかった。


 それよりも、彼が拘束連行された。という話の方が衝撃だった。


 魔族と戦うために国王から王命を下されていて、魔族と戦って勝った。

 その男を捕まえる理由が笑えない。


 というか、あの慌てふためく様子を見る限り、何か理由があっての事ではない。

 イレギュラーがおきたから理由は後付けで、拘束された。


 そして、魔術師はそれに従ったという事だ。


 あれの事だ。逃げたければ逃げる方法はあったのだろうと思う。

 ちらりとナタリアを見る。


 ナタリアの顔が青白い。


 あの問答について俺が別に口をはさむことは何も無い。

 けれど魔法だの宗教だのがどうでもいい俺にも分かる。二人が袂を分かつような話だったこと位。


 袂をわける程親しくなっていたのかは知らない。

 魔術師がナタリアに執着の様な気持ちを見せていたことだけは確かだが、それが本当に恋愛感情に由来するものなのかも知らない。


 そもそも、俺は恋愛感情なるものが分からないのだから仕方がない。


 けれど、この少女は魔術師に捨てられたらどうするのだろう。

 どうにもできないか。と結論づけたところで、声がかかる。


「勇者様。魔術師が重罪を犯した可能性が高いため王都に連行いたします」


 魔術師協会からの言付けだという言葉には、それに付き添う様にという意図が含まれている。

 情状証人に、俺は向いていない。


 正直魔術師がどうこうなるとは思えないのだ。


 一応裁判は行われた。

 あれを裁判と呼べるのであれば。

 異端審問と言うものがどういうものなのかは詳しくは知らないが、恐らく魔術師のそれも似たようなものなのだろう。


 罪状はいくつかあった。

 その中でも問題視されたものは、彼の足の治療方法だった。


 ナタリアの言っていた言葉が脳裏をよぎる。

 魔術師は知っていてその方法で足を直していた。


「これが神の意思に背く方法?

そんなはずはありません。

是非解析をして、どこが世界の理に背くものなのかご説明ください」


 魔術師は無表情のままそう言った。

 その真意がわかるのは、高名だとされる魔術師が数人がかりで、あいつの足を確認した後だった。


「分かりません」


 苦虫をかみつぶした様な顔で、彼の足を確認した魔術師たちはそう告げた。


「当たり前です。

これは、神の意思に反するものではありませんから。

その証拠が出てくるはずもありません」


 魔術師はその分からないという言葉に少しばかり落胆している様だった。


 けれど、そんな確認も申し開きも何もかもが無駄だという様子で、魔術師の処遇が決まった。 


 処刑されるという前提で話が進むのだろうと思ったがそれは違っていた。

 それで、ああ、これから魔王との戦いが始まる可能性があるからかと思い至る。


 自分たちにとって理解不能な魔術を使うあの魔術師は恐ろしいけれど、殺してしまっては戦力として使えなくなる。


 魔術師は辺境にある地下牢に幽閉されるらしい。

 そこは過去何人もの悪しき魔術師を幽閉していたらしい。


 誰とも面会が出来ず、食料の支給も途切れがちになる。

 結局なんの罪に問われたのかもよく分からず、そもそも刑期も不明なまま幽閉されるらしい。


 決定を聞いたときの魔術師の顔は忘れられない。


 普通もっと怒るとか恨むとかそういう表情を浮かべるだろうと思った。

 自分が勇者じゃないと言われたときはそんな顔をしたと思う。

 悔しいなら悔しいという顔をするものだろう。


 それよりも一歩感情が進んでしまうのであれば、無表情。

 再び勇者としての力が戻ったあたりからの自分の顔はそれなのだと思っている。


 けれど、魔術師はそのどれとも違う表情をしていた。

 目元までぼさぼさの髪が伸びているので表情は完全には分からなかったが、ふうん、という表情をした後、確かに魔術師は微笑んだのだ。


 まるで喜んでいるような態度に驚く。


 自分の正しさも、自由も何もかもを奪われる男がする表情だとは思えなかった。


 両手を縛られてそのまま連れていかれる魔術師を見ていると、不意に目が合った。

 魔術師の唇が動く。


 『だいじょうぶ』という形を作った気がしたけれど、それを確認する方法は無かった。

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