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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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領土5

 敵が生きているらしいと聞いて喜ぶ馬鹿を初めて見た。


 こいつが馬鹿だということは随分前に知ったが、相変わらず馬鹿なのだと思った。


「ちょっと、見てきていいか?」


 相手の強さも、それが誰だかもわからないにも関わらず、魔術師はちょっとそこまで買い物に行くようなノリで聞いてくる。


「は?」


 死にたいのか、それとも、なんだ。よほど自分の実力に自信があるのか。

 実際炎が燻っている様がまだ眼前に広がっているのだから、実力はあるのだろう。


 それがどれだけ目の前の敵に通用するのかはまた別の話だろうに。

 また、足を失う事になったらこいつはどうするつもりだろう。


 そこで、この馬鹿が足を失った事実をそれほど気にしたようなそぶりを見せていない事に頭を抱えたくなった。


「どうせ、敵対してるんだ。相手がどんな奴なのか、知るべきだし、倒せるものならそうするのが最善だろ?」


 魔術師の言葉に対して、とっさに言い返せなかった。


 ここに魔王がいる訳でもない。

 なんとかなるのではと思ってしまったのかもしれない。


 そもそも、俺がこのメンバーの中のリーダーじゃない。

 俺がそこまで考えるべきことじゃ無い。


「勝手にしろ」


 突き放す言葉だろうか。

 実際、信頼から出た言葉ではない。


 それなのに魔術師は、嬉しそうに笑ってそれから、ユラリと体がぶれる様に歪んだ。


 そのまま崩れる様に魔術師は姿を消す。


「高度な転移術式です」


 ナタリアが静かに言う。


「習っているのか、あれを」

「まさか」


 私の技術はあの人のそれには到底追いつけないですよ。

 ナタリアが静かに言いつつ、こちらに向かってくる魔術人形に向かって手のひらを掲げる。


「祝福を……」


 ナタリアが神に祈りを捧げるように何かを言う。


 周りにいた魔術人形数体が氷漬けの状態になる。

 教師が異常なのか、それとも彼女に天賦の才があるのかは知らない。


 あちこちから入ってきた情報はほとんどが相当苦戦したが討伐に成功した。というものだったはずの魔術人形を一撃で凍らせてしまっている。


 確実に破壊するために氷漬けになった人形に剣を突き刺し切断していく。


 それを見届けてようやく周りの人々は我に返ったようになる。

 魔術師については誰も口に出さない。


 ナタリアと俺に称賛の言葉を贈りながら、それでも視線は魔術師が放った火柱の方向をじっと見ているのが印象的だ。


「……あそこにいる術者の反応が少しおかしいんですよ」


 ナタリアが言う。


「それは魔術師に言うべきことじゃないのか?」

「あの人は、多分そういうことを気にしないですよ」

「何がおかしいんだ」

「人間っぽい反応なんですよね」


 でも一般的な人間の魔力の反応と少しだけ違うんですよ。



 魔王に協力する人間が時々いるという話は聞いたことがある。

 今回もそういう人間が関わっているということだろうか。

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