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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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領土4

 多分、という注釈が付くけれど、魔術師にとってこういうことは多かったのだろう。


 魔法使いは、三列に並んで!! という怒声が聞こえる。

 それから、彼らは手を前に掲げると何かを呟く。その後、合図とともに光の玉を放つ。


 少し間をおいてまた合図があって、それからもう一発。


 演武を見ている様だ。という感想が一番近いかもしれない。


 けれど、空を飛ぶ魔物たちにはほとんど当たっている様子がない。



 近づいてくる大きな影を見上げる。



「逃げるな!逃げることは許されない!」


 はあ、と魔術師がため息をついた音を聞いた。


 それから、てを振り払うように動かす。

 それは、刃のの様なものに見えた。


「風、の刃か?」


 透明な刃が空にきらめいたかと思うと、バラバラになった竜が地上に崩れ落ちていく。

 それも何匹も何匹も。


 バラバラになったからだが血しぶきをあげながら、ぼたぼたと落ちていく姿は正直あまり気持ちがいいものではない。


「子供の成長への悪影響ってやつはいいのか?」

「あ……。ああっ!?」



 言って。先にそれ言って。と呟きながら魔術師とはうなだれる。


 魔術師の心得とやらを伝えようとしていた男が、声をかけようとしているのが雰囲気で分かる。

 その時だった。


 黒い無数の影が魔族の陣営から大量に向かってくるのが見えた。


 人形だ。と誰かが言った。


 大量の人形がこちらに向かってきている。


 最初に思い浮かんだのは、少し前にあった魔術人形だった。

 実際、魔術師の目が爛々と輝いているように見える。


「これだけ大量にいるって事は、製作者が近くにいるかもしれないな」


 魔術師が気持ちの悪い笑顔を浮かべている。

 だが、とてもとても楽しそうだ。


「人形!? あの王都を襲撃したっていう!?」


 驚愕に染まる声が聞こえる。


「多分改良型だ。

術師はこの前の件をちゃんとフィードバックしてるよ」


 俺のために言った訳ではないのだろう。多分魔術師の独り言だ。

 この男は特に興奮すると、こうやって延々と独り言をしゃべり続ける癖がある。


「うーん。だけど量産型には限界があるだろうに」


 そう言うと、魔術師はもう一度手を振るようなしぐさを見せた。


 また、風の刃だ。

 けれど人形の数が多い上に速い。


 どんどんとこちらに向かってくる人形はおびただしく、どうしても取りこぼしが出てしまう。


 ふう、と息を吐く。


「改良型、と言っても、壊さなければならない箇所は一緒か?」


 魔術師に聞くと「あー、うん。今のところは動力の場所は一緒だ」と答える。


 人形が子供に襲い掛かる。

 鈍色に光る魔方陣が子供の前に出現した。


 それが魔術師によるものだと直ぐに分かった。


「自動発動型の防御魔方陣ですか?」


 発動条件が分からないとナタリアが呟く。


「治癒系統は苦手だからね」


 ナタリアの方を見ずに魔術師が言った。


「実際に発動するところを見ても、術の発動条件が分からないんですが」


 あれはどうやってるんですか? ナタリアが魔術師に聞く。


「ああ、あれは――」


 魔術師が答えかけたところで、氷の塊が降り注ぐ。

 それと同時に人形の中の数体が、一気に本陣に向かって突っ込んでいくのが見えた。


「やっぱり、オーダーメイドがいるな」


 あっけらかんと言う魔術師は、その後一言「製作者もきてるかなこれは」と呟いた。


 そんなにあれらを作った魔物を見てみたいのか。酔狂な考えに、馬鹿らしくなる。


 それよりもここになだれ込んでくる、人形をどうにかする方が先だろうに。


 人形の一体に切りつけながら周りを見る。

 片っ端から壊していけばいいのだ。


「さすが勇者様だ」


 感嘆の声が聞こえた気がしたが無視をする。


 誰も、魔術師のかけた魔方陣については言葉にしていない。

 馬鹿らしいを通り越して、いっそ面白いものを見ている気分になる。


 いや違う。魔術師に魔方陣の質問をしていたナタリアがいた。


 彼女は目を凝らして人形の一団が来た方角を眺めている。


「一人、……あの、一体かもしれませんが魔力が異常なものが見えます」


 ナタリアが妙な言い方をした。


「ああ、大きな塊があるね。

目がそれほど良くない俺にも大きさだけは分かる」


 あれが術者本人ならと言いながら、魔術師が笑う。


「そうなら、そいつを叩けばこれも止まるんじゃないのか?」



 防御のための魔方陣がどう機能しているかよりも、この人形が動かなくなる方法を考える方がよほど意味がある。


「向こう側全部、燃やし尽くせないのか?」


 遺跡で俺にやったように、とは言わなかった。

 けれど、魔術師がギクリと固まる。


「ぎ、技術的には可能だけど」


 もにょもにょと、でも、機械人形の設計に関わる、云々と言っている。


 俺を燃やせても、目の前の脅威を燃やせない理由でもあると言うのか。

 まあ、あるのだろう。


 それがどうした。


「やれよ。別にできるだろ?」


 ひっ、とナタリアが小さな悲鳴を上げた。


 別に彼女は俺が火に包まれるところは見ていないのだから関係ない。


 魔術師はおどおどとした後、大きくため息をついた。


「これは戦争なのか?」


 魔術師が静かに言った。

 何が聞きたいのか分からなかった。


「ここ数百年、魔族と人間は領土争いをしているだろ」


 だから、俺たちは集められて、そして今ここにいる。

 今更の話を何故ここで突然したのかが分からなかった。


 いつもこいつはそうだ。どんな意図があって言葉を発しているのかよく分からない瞬間がある。


 次の瞬間、俺が見たのは魔術師の困ったような笑みと、その奥で上がる爆炎だった。

 炎が爆ぜている。俺に向けて放たれた魔術と規模が違う気がする。


 火柱なんてものじゃない。

 どんな範囲で魔術を使ったのかさえ分からない位視界一面の爆炎とそれを当たり前の様にやった魔術師。


 何故、困っている様に見えるかはまるで分からなかった。


 充分すぎる戦績だろうに。殺すのが心苦しいってタイプにも見えない。


「駄目です!!相手術師と思われる魔力反応がまだあります!!」


 ナタリアが叫んだ。

 ようやく、魔術師がとても嬉しそうに笑った。

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