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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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番外編:アスナ

 邪竜を祭る祠があるという話を聞いた。


 悪しき者たちは往々にしてこういう場所を拠点に勢力を伸ばすから、各地で手分けをして討伐にあたっている。

 危険も多いけれどやりがいはある。


 勇者の背を守るのが私の仕事なのだという誇りもある。


 けれど、切り離してしまった絆についてわだかまりの様なものが私の中でできてしまった。



 きっかけはそう、彼女を託したパーティの魔術師が大怪我をしたという連絡を受け取った後だった。


 私たちといるよりも、危険が少ないだろうからという選択だった。


 パーティから捨てられて一人で生きていく方が私たちと一緒にいるよりも安全だと信じていた。

 忠義も信心も無く、ただ無為に旅をしている魔術師たちと一緒にいる方が彼女が安全なのではと安心していた。


 特に魔術人形を屠った、あの魔術師の力であればとどこか勝手に過信していた。


「あのこ達、これからどうなるの?」


 魔王の軍勢が平原に陣を張ったという急報は私たちの元にも届いている。


 勇者が心配そうにこちらを見た。


 私は何と言って返事をしたらいいのか分からなかった。


 私たちの元にも召集令は届いている。


 ナタリアが最前線に近い場所に呼び出されたことは知っている。

 彼女といつでも連絡がができるからこそ知ってしまっている。



 彼女たちが何故。と思う。

 罪人でも無ければ、精鋭部隊という訳でもない。


 何故、実績も上げていない彼らがそんな場所に召集されるのだろうか。


 私の勇者様が静かに涙を流す。


「今からでも、彼女を呼び戻す方法を考えねばなりません」


 小手先の強さを得たところで、私たちとの旅ではすぐにナタリアは命を落としてしまうだろう。

 ただ、このままあの魔術師たちと旅を続けても彼女は危険すぎる。


 どうしたらいいのか。


 方法が分からない。


 私の勇者様の頬に流れる涙をぬぐう。

 この人は、やっぱりとても優しい。


 子供のころから何度も読み聞かせられた神様の国の人の様に、神々しく優しい私の勇者様を見て、何とかしなくてはと誓う。


 そのためにも成果が必要だった。


「アスナ、準備はいい?」


 尋ねられて頷く。

 祠の奥は邪の気配に満ち溢れていた。


 世界に平和を取り戻すのだ。

 人々が幸せに暮らせる世界を取り戻したい。


 杖を握る手に力がこもる。


「大丈夫よ」


 私が守るから。

 そう私の勇者様は言った。

 私が守りたいのに。


 そんな気持ちは伝えられないけれど、私は代わりに呪文を唱え始めた。

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