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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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遺跡2

「さて、これからどうする?」


 やる気のなさそうな声でアルクが言う。もしかして俺以外には、仲間を思いやる様に聞こえているのかもしれない。

 そもそも、仲間として思い遣られたことも無ければ、細かい声色で判断できるほど対人スキルがある訳でもない。だから言葉を額面通りに受け取って、それから少しだけ分かる様になったアルクのやる気の無い声から判断しているだけだ。


 表情とか、人間の機微なんてやつは何もわからないので端から参考に等してはいない。


「とりあえず、妨害系の魔術なり魔法は感知できないから入ってみるか」


 というか、俺が中を探索してみたくてたまらないのだ。


 はあ、という溜息の後、アルクはナタリアにここに残るか確認をしていた。

 ナタリアは、しばらく悩んだ後、できれば魔法の練習をしたいと申し出ていた。


 チラリとユナを見ると「私は、勇者様が一緒に行ってほしいのなら行くし、そうでないのなら残るわ」と言っている。

 あまり遺跡の内部には興味がなさそうだった。


 勇者はこちらを見て、それから「なら、ナタリアの魔法の練習相手になってくれないか?」と聞いていた。

 そもそも、ユナと契約をしているのは俺だと思わなくもないのだが、俺がユナでも俺とアルクならアルクを選ぶ。仕方が無いことだし、アルクが頼んでいることはかなり効率的な内容に思えた。


「勇者様がそれを望むのなら」


 ユナは俺には絶対に見せないであろう、ふんわりとした笑顔を浮かべてアルクに言った。


「俺一人でも別にいいんだけど……」


 俺がそう言うと、アルクはもう一度溜息をついてそれから


「お前間違いなく中で調べもの始めていつまでたっても出てこないパターンだろ」


と呆れた声でアルクが言った。


 それにしても、雲一つない青空だ。

 遺跡に足を踏み込む前に空を見上げて思う。まるで作りもの様にも見える。


 ふと、違和感を感じてアルクに「空、見えてるか?」と聞く。

 怪訝そうな顔で俺を見た後、アルクは俺と同じ様に空を見上げる。


「おかしいな。太陽が無い」


 アルクに言われてようやくその事実に気が付く。


 そうだ。雲一つない青空だというのに太陽がどこにもない。

 一旦引き返すべきかとあたりを見回すが、既に今来たけもの道さえも無い。


「完全に誰かの術中だな。これは」


 俺がひとりごちた。するとアルクが、「妨害魔法は感知できないと言ってたはずだが?」と尋ねる。

 その時既に術中だったかその後遺跡に近づいて効力範囲に入ったかのどちらかだろう。

 恐らく後者だろうと判断はしていた。


「多分、その後まんまと術中にはまったんだろうな」


 どうにもならないだろうから、とりあえず中入ってみるか?と俺が聞くとアルクは「あいつらは大丈夫なのか?」と聞く。


「ユナとのコンタクトは切れていないから大丈夫だろう」


 恐らく、遺跡の効力範囲に入ったから術が発動したのだろうという予測の裏付けの一つだ。

 今でもきちんとユナとの契約は続いているし、魔力供給も正常だ。恐らく二人に問題はないだろう。


 それだけ聞くとアルクは、無言のまま遺跡の中へと歩を進める。

 慌てて追いかける俺は、神殿に入ったとたん、嫌な違和感をさらに感じてしまった。


 遺跡内部は暗い。

 慌てて、灯りを魔術でともすと石造りの廊下が奥へと続いている。


 壁にはずっとレリーフが彫られていて、それが物語になっていることに気が付く。

 この形式の話はどこかで読んだことがある。


「なあ――」


 アルクに話しかけようとして言葉を飲み込む。あまりにもアルクの顔色が悪いのだ。


「おい、どうした!?」 


 声をかけるが反応が無い。

 それどころか顔面蒼白のまま、アルクはずるずると座り込んでしまっている。


 一旦引き返すかと後ろを振り返ったところで入口が消えて見えないことに気が付く。

 きちんとマーカーは置いて帰れるようにはしている。

 外にいるユナとの間の糸を太くして万が一にも備えていた。


 ユナとの繋がりは切れてはいない。

 まだ、外との繋がりはあるのだ。


「おい、大丈夫か?」


 もう一度アルクに話しかける。

 肩に触れようとした。指先がアルクの肩に触れた瞬間手を振り払われる。


 真っ白な顔色でハアハアと浅い息を繰り返しながら、震える手で俺の手を叩き落としたアルクは呆然と俺を見上げる。

 単なる体調不良ではなさそうだ。


 恐らく、遺跡に仕掛けられていたなんらかの魔術が発動したのだろう。


 種類は……。先程見たレリーフを思い出す。


 正確な内容は分からないが、これに似た挿絵の本は今までいくつも見てきたことがある。

 よくあるおとぎ話だ。


 真実を映し出す鏡の話。


 今、使われている身だしなみを整えるそれとは違う、青銅で作られた鏡だ。

 覗きこむのではなく、光を反射させて映し出す。


 技術の話をすれば、鏡を作るときに鏡自身に魔法陣を彫り込んでから鏡を作るのだ。


 その鏡にまつわる話が彫られているのだ。


 であれば、これを作った人間の設計思想はおのずと分かる。


 アルクは何かを見せられているのだろう。この遺跡に強制的に。

 これを作った誰かの思う真実を見せられている。


 であれば、その誰かなのか何かなのかの介入を切断してしまえばいい。

 俺は右手を掲げて魔力を込めた。


 術が発動する前に、魔力が歪に拡散してしまう。

 妨害に対する対策もそれなりになされているらしい。


 失敗した。最初に太陽が無いと気が付いた時点で一旦体制を整え直すべきだったのだ。

 そんな初歩的なこともできず同行者を巻き込むあたり自分は救いようの無い馬鹿だ。


「おい、アルク!!」


 俺の言葉にアルクはうろんな目つきでこちらを見る。

 相変わらず顔色は洒落にならない位悪いが、ゼイゼイとしていた息は通常と変わらない様に見える。

 ただ、反応は著しくおかしい。

 ぼんやりとこちらを眺めるアルクを何とかこっちに引き戻そうと声をかける。


「しっかりしてくれよ勇者様」


 恐らくその言葉が引き金だったのだろう。ただし、悪い方に向かってだが。


 アルクは俺の胸倉をつかんで押し倒す。

 見上げたアルクの表情に浮かぶのは憎悪であろうか。


 ここまでの敵意を向けられたことはいくら俺でも滅多に無い。


 しっかりしろが彼が今見せられている物へのキーワードなのか、それとも勇者なのだろうか。

 人がここまで憎しみをあらわにする様子を見たことが無い。


「今更勇者か」


 振り絞る様にしてアルクの口から出た言葉はそれだった。


 アルクは俺が勇者と言ったことが気にくわなかったらしい。

 掴まれた服の所為で息がしづらい。けれど鬼気迫るアルクの態度に振り払っていいのだろうかと悩む。


 どう人に物を聞いていいのかもよく分からないのだ。

 その位俺に何かを話してくれる人は今までいなかった。


 だけど、アルクの話なら聞きたいと思う。出会って大して時間があった訳じゃないのにそう思うのだ。

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