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ひねくれ魔術師とひねくれ勇者の冒険譚  作者: 渡辺 佐倉


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鋼のツバサ

 翌朝、早朝引き留める街の人を振り切って四人で街を出た。

 見送る人が見えなくなったあたりで、ナタリアがローブを引っ張る。

 指は白くなる位握られていて、俺を見上げる表情は昨日碌に寝ていないのであろう顔色が悪い。


 頭を撫でたら嫌がられるだろうか。普通大して仲の良くない人間にやられたら嫌だろうし、俺みたいな人間は同じ空間にいるだけで露骨に嫌な顔をされることも多い。


 伸ばそうとした手を上に向け魔法陣を展開する。

 昨日のうちに準備をしていたものだ。ほぼ出来上がっているので瞬く間に魔法陣は広がって身の丈程の広さが魔法陣で埋まる。


 ズボンのポケットに入っている魔石を一つ利き腕とは反対側の左手で握りしめる。

 こうなればもう言葉はいらない。

 鈍色に光る魔法陣から現われたのは、鋼鉄の羽を持つ妖精だ。


「契約により参上いたしました」


 俺以外の人間を一瞥して、妖精、トモエが言う。


「ここから北西にある街に行って、敵がいれば排除して欲しい。

で勇者と魔術師がいる筈だからこれを渡してきて」


そう言って魔石を投げるとトモエは器用に受け取る。


「その勇者とやらの特徴は?」


「金髪の女性。魔術師も女性だ。俺の魔石は、多分壊れているだろうけど残渣は探知できるだろう。

敵はその二人と闘っているであろう魔術人形。撃破済みなら魔石を渡してこちらとの通信を確認。」

「報酬は?」

「既に相当俺の魔力を吸い取ってるだろ」


 淡々と話すがいつもこんな感じだ。

 美しい姿で淡々と話す様はずっと見ていたいのだが今はそういう訳にもいかない。


 首元を探ってペンダントトップを確認すると鎖ごとネックレスを引きちぎる。

 以前ネックレスとして生成している魔石だ。普段使ってるものと純度が違いエメラルドグリーンに光っている。


「成功報酬だが、途中で放棄したら消える」


 言葉にのせることで呪をかける。

 こちらも放り投げるとトモエは受け取って、ふわりとその場から浮き上がる。

「その女の身の回り物とかある?

匂いを覚えたい」


 それを聞いたナタリアは慌てて、自分の付けていた紐でできた腕輪を外す。

「これを!」


 トモエは一度匂いを嗅ぐとそのまま空高く舞い上がり一気に北西に向かって飛んだ。

 一瞬で彼女は見えなくなる。


「大丈夫、彼女は俺と契約している妖精の中で最も早いし、少なくとも俺達の前に現われた魔術人形よりは強いよ」


 それに多分魔術人形はもう倒されてると思うし、俺がそう言うとナタリアはそれでも北西の、彼女にとっての勇者のいるであろう方向を見つめていた。


「アレ、かなり高位の妖精よね」

「ユナさんほどじゃないですよ」


 設備が違ったから、理由は様々あるが、俺が今まで契約出来た妖精の中でユナは群をぬいていた。

 それはユナ自身も気が付いているのだろう。亡国の魔術師が命と引き換えに、そんな状況で現われるかどうかというのがユナ位になると実際のところだろう。

 勇者がいるからと言っていたがそれが嘘か本当の事かは知らないが、気が向かなくなったという理由でユナはいつでも契約を一方的に解除して元居た世界に帰ってしまえる。


 妖精たちは反対側の世界でこちらの世界と干渉しあいながら国を作っているという。ユナは恐らくどこかの領位なら優に任されているであろう高位の精霊だ。

 しかも戦闘に向いている炎の属性。人間の世界のどの国も喉から手が出る位欲しい存在だろう。


「そういう話じゃなくて、対価を払うとしてもよくあんなの手懐けてるなって思ったのよ」

「ああ、まあ色々あって」


 最初に出会ったとき食われそうになったことは内緒にしておきたかった。


「ユナは何かあったらすぐに契約を切るんだぞ」

「何よ藪から棒に突然。主導権がそっちにあると思ってるんだったら間違いよ」


「分かってる。今は比較的人が少ない場所を移動しているけど、人間やけになると何をするか分からないから」

「まあ、アンタの言いたいことはなんとなく分かったわ。

駄目そうになったらあっちに帰るから安心しなさい」


 そんな話をしていると懐にしまっておいた魔石が、ジジッジジッと反応した。慌てて取り出すとひったくる様にしてナタリアが魔石を持つ。


「――ナタリア?ギイ?」

「アスナ!無事なの!!」

「ええ、……ギイ、あの魔石にどれだけの魔力をとどめていたのよ、こっちが制御失敗していたら一面焼け野原だったわよっ!」


 魔術師、アスナに言われ何も言い返せない。


「……でもありがとう。おかげで死なずにすんだわ」

「それは良かった」

「この魔石ももらっても」

「勿論」


 それだけ言うともう他に話したいことは無かった。ナタリアはそれからも二人と話していた。

 右手の中指あたりから伸びていたトモエとの繋がりが消える。

 一旦契約が完了したためトモエが向こうの世界へ戻ったためだ。

 魔力の糸とは少し違うが他人に感知できない繋がりが契約をしたすべての妖精と俺の間にある。

 勿論怪我をしたとか感情とか伝わらないことも沢山あるが、少なくともこちらの世界にいるか、生きているか位なら常に伝わる。


「おい」

「んー」


 アルクに話しかけられて生返事をしてしまった。


「顔色悪いぞ」

「普段の不摂生がたたってるな」


 山の中でいいから少し休ませてもらえればそれで充分と答えると、ユナとアルクがそろって長い長い溜息をついた。

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