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半身転生  作者: 片山瑛二朗
第2.5章 過去編 case Noel and Liese:
77/1005

第77話 開拓最前線

第83話で過去編が完結します。

どうかそこまでお付き合いください。

 長い長~い説教の後、ようやくリーゼから解放されたハルツは休憩する間もなく村のまとめ役であるカーターと今後の予定について話し合いをしていた。


「では村の防御に2人割きます。新人ですが腕は確かです」


「それは分かりましたが……5人で足りないようでしたら人手を貸しますよ?」


「…………そうですね。では1人、体力のある方をお願いしたい」


「では息子をつけましょう。村の中ではそれなりに出来るほうです」


 カーターが合図をすると扉の外からノエルやリーゼと大差ないくらいの若さの少年が入ってきた。

 彼の息子と言うだけあって顔のパーツがそっくりだ。

 ハルツは一目見て彼を気に入った。

 仕事柄人を見る目は鍛えられている。

 役に立つ奴、立たない奴、すぐ死ぬ奴、しぶとく生き残る奴、彼の目から見てカーターの息子、エイダンは見どころのある少年だった。

 今度はノエルに自由行動は慎むように念を押し、更にリーゼに対してノエルから決して目を離さないように固く言いつけると、エイダンを加えた6人組はレイテ村を出て森に入った。

 エイダンの役割は重装備のパーティーメンバーに代わり荷物を運搬することだが、これだけでも常人には務まるものではなく、彼はスキル【身体強化】を発動している。

 こうしてここまで何の問題もなく荷物持ちを務めることが出来る彼は、決して親バカで指名されたわけではないことを一同に感じさせハルツは彼に興味が湧いた。


「エイダンのクラスはなんだ?」


「僕はただの【村人】です。何か不手際がありましたか?」


「いや、逆だ。良く鍛えられている、冒険者として成功するんじゃないのか?」


 ハルツの言葉は決してお世辞ではない。

 現にパーティーメンバーであるルークのクラスは【村人】であり、ジーンのクラスは【絵師】だ。

 【聖騎士】のクラスを持つハルツやリーゼ、【剣聖】に選ばれたノエルは例外として、ほとんどの人にとってクラスとはその程度のものなのだ。

 出来ることが増えることに変わりはないが、それで人生が変わるほど人の一生は薄っぺらくはない。


「あはは、確かに冒険者はいいな~って思いますけど。でもそれは中堅までの話で……なんかすみません」


「ルーク、息してるか?」


「お、おう。俺は中堅か……Bランクでも中堅、はは……」


 同じクラスを持ち少しだけ親近感を覚えていたルークは何気ない一言で大ダメージを受けた。

 カナンの現役冒険者にAランクはいない。

 それ即ち、Bランク冒険者こそがカナン公国で最も優れた冒険者であることと同義なわけだが、中堅と言われたルークの心の傷は大きい。

 少しオーバーなリアクションをハルツは無視しながら会話を続行する。


「中堅か。それも否定はしないが素質があることも事実だ。機会があったら挑戦してみるのもありだと思うぞ」


「ありがとうございます。けど今は……皆さん」


「ああ。エイダンは荷物をおけ。ジーン、ルークは索敵。レインはタリアに付け。いるぞ」


 1人……10人以上か。

 敵感知を持たず、索敵は不得意なハルツでさえ何者かの存在を認知できる。

 敵が大したことないのか、それとも誘われているのか判断に困るところであるが、手掛かりが向こうからやってきたともいえる。


「12人!」


「ここでやる! 援護しろ!」


 このパーティーは昨今の冒険者にしては珍しく、はっきりとした役割分担がなされている。

 冒険者は合同作戦や仲間が脱落した際の活動継続可能性を引き上げるために、得意な型をいくつか使いつつ役割はあまり偏らせないというのが常識である。

 しかしこのパーティーはハルツが敵を引き付け、ジーンとレインが中衛、タリアがサポート役という編成だ。

 ルークは比較的なんでもこなす印象だが、彼のような立ち回りが普通の冒険者の姿だ。

 リーダーであるハルツが元貴族、軍部出身であることが主な要因だが一度廃れた戦い方でBランクまで来た実力は伊達ではない。


 瞬く間に2人斬り伏せたところで敵は撤退、こちらも追うことはしなかった。

 ティンダロスの猟犬、その正体を掴めると意気込んで臨んだ一戦だったがそんな期待は泡と消えた。


「なんだ、ただの盗賊じゃない」


 ジーンは倒された敵の所持品を物色しつつ吐き捨てた。

 特に何かを取るわけでもなく、ただ身元を確認した死体を道の端に寄せて再度警戒する。


「ハルツ、猟犬が出るって話は?」


「ガセか……いや、まだ結論は早い。この辺りの盗賊は討伐許可が下りていたな?」


「はい、ばっちりです」


 レインは右手の親指と人差し指でオーケーマークを作る。

 彼の齢は18、リーゼの一つ上だ。


「猟犬に行きつくまで盗賊を狩る。道中魔物も狩る。これでいこう」


 眼前であまりにも雑なBランクパーティーの会議が行われ、何の異議もなく話し合いが終了したことにちょっと待ってくれとばかりにエイダンが割って入る。


「そ、そんな簡単に決めてしまうんですか!? 危ないですよ」


「簡単にって言ってもなぁ。お前ら他に案あるか?」


「ないですね」


「なーし」


「ありません。エイダン君、細かく作戦を立ててもうまくなんか行かないわ。これくらいざっくり、後は臨機応変に対応するのが冒険者流よ」


「そう、なんですかね?」


「君も冒険者になれば分かるさ」


 ルークに締められ、まだいまいち納得できない様子のエイダンを見て、普通の人が見たらそんな感想を抱くものなのかなと、どこか他人ごとなハルツは一度村に戻る為に元来た道を引き返した。


※※※※※※※※※※※※※※※


「どうなっている!? こんなこと聞いてないぞ!」


「いいから手を動かす! 死にますよ!」


 ちょうどハルツ達が村へ向う帰り道についたころ、レイテ村では大騒ぎになっていた。

 魔物の襲撃である。

 襲撃と言っても所詮魔物、人間のように徒党を組んで襲ってくるわけではない分対処のしようもあるが、こんな積極的に人間を襲う魔物の群れをノエルは見たことが無かった。

 首都アトラ付近ではわざわざこちらから捜索し、襲撃しなければ近づいてすら来ない魔物たちが、どういう訳かここでは村に殺到してくるのだ。

 そんな状況下で2人が混乱しつつ魔物と戦っているのは言うまでもないが、2人の脳内をさらに滅茶苦茶にかき乱しているのは魔物ではなく人間、村人の方である。


「そこ! きちんととどめを刺せ!」


「こんなんじゃ腹の足しにもならないわね」


「殺せ! 1匹も逃がさずぶんどれぇ!」


 これではどちらが襲っているのか分からない。

 言えることはただ一つ、『ここの村人は逞しい』だ。

 1匹のゴブリンが出たら大騒ぎになる首都と違い、ゴブリンなんて村のすぐ近くまでダース単位でやってくるし、なんならそれを村人一人で迎撃してしまう。

 子供で、まだクラスが発現していなかろうとバッタバッタと魔物をなぎ倒していくのだ。


「ノエル、これが未開拓領域と接する人間界の最前線、なんですかね」


「というかこれ、私たち必要か?」


 本質を捉えかけたノエルの疑問に一瞬あれ? ……と思ったリーゼであったが剣でゴブリンの頭を唐竹割にするとはじけ飛ぶ脳みそと一緒に違和感も吹き飛んでいった。

 村の様子からして、この数の魔物の群れに引けを取らない戦闘力を有しているのなら、なぜギルドに依頼が飛んだのか、Bランクであるハルツ達が受注するレベルのクエストであると判断されたのか。

 答えはシンプル、故にロジックも同程度に簡単なものだったが、誰もそれに気づかないまま戦闘は村人の勝利で終結した。

 ハルツ達が帰ってきた後、双方の事の顛末を共有した後ふと突然ノエルが切り出した。


「今回の依頼はカーター殿が出したのか?」


「ええ、そうですが」


「今回の依頼、なんでBランク相当だったのだ?」


 魔物の発生量が多く、村人だけでは対処できないので冒険者を寄越してほしい。

 それがギルドに持ち込まれた依頼書の内容だったが、今日の村人の戦いぶりを側で感じていたノエルは首をかしげながら純粋な疑問をぶつけた。

 ここでハルツ達、裏の事情を知る人間は違和感から今回の前提条件を振り返る。


 ティンダロスの猟犬の調査は、ギルドから派遣されたクエスト難易度決定係が下した判断であり、この話は村人には話していないし知らない。

 つまり村人は本気で魔物から身を守ってほしいと依頼をしたわけだが、ノエル様が言うように村人だけで問題なく対処できているようだった。

 ではなぜギルドに依頼を?


 食い違う矛盾点がハルツの中で纏わりつくような不安感を生み出していく。


「カーター殿、魔物に対処しきれないというのは誰の意見ですか?」


「それは…………誰だっけ?」


「ほら、あの、アルマよ」


「ああそうそう、アルマという賢い子がですな、このままではいずれ対処できなくなるから冒険者の力を借りるべきだと」


「少しお話を伺っても?」


「ええもちろん。アルマを呼んできてくれないか?」


アルマという子が来るまでの間、ハルツは自分が猟犬ならどうするかを考えていた。


 盗賊をけしかけるか?

 魔物を活性化させる、一体何のために?

 活性化、ある種の改造と言っても人間に対する脅威度としては自然繁殖した魔物と大差ない、ということは魔物を使って何かしようとしているわけではない?

 今ある情報で考えられるのは魔物の量を増やしてこちらの対応力をパンクさせようとか、人工の魔物の研究であるとかそんなところであるがどれもいまいちしっくりこない、やはり猟犬は関係ないのか?


「ハルツ殿、アルマが来ました」


アルマという子は一言で言うと聡明そう、であった。

 なんとなくそういう印象を受けたというだけなのだが、とにかくこの子がギルドに依頼するようにカーターに進言したというのはなんか分かるな、と言った感じである。


「アルマさん、あなたがギルドに依頼を出すようにカーター殿に話をしたと聞いたのだが、本当かな?」


「はい、そうですけど」


「そうするべきだと思った理由は?」


 話はやや専門的な方向へシフトしていき、やれ魔物の分布がどうだの統計的に考えてこの森に生息する魔物の数が増えているだの、とにかくリーゼには理解できてもノエルの頭から煙が上がってしまう程度には難しい話をしている。

 そのためかノエルは話の最中ずっとしかめっ面をしてアルマの方を見ていたがついにその視線に耐え切れずアルマが話しを中断する。


「あ、あの、私の顔に何かついていますか?」


「ノエル、ずっと人の顔睨んだりして失礼ですよ」


「いや……」


 ノエルは席を立つとアルマのもとへと近づき、至近距離でじっと見つめる。


「あの…………少し恥ずかし――」


「お前誰だ? アルマじゃないだろ」


 彼女に向けてそう言い放った。

 アルマに向けてお前はアルマではないと、今日初対面のノエルがそういったのである。

 その場にノエルの言ったことを理解できるものは誰一人としていない。

そもそもノエルは今さっき初めてアルマと出会ったのだ、彼女の言動がいったい何を根拠に何を言わんとしているのか理解できない。


「ノエル、流石に——」


 これ以上失礼をかまさないうちにアルマからノエルを引き剝がそうとリーゼは肩を掴み引っ張って気付いた。

 ノエルのスキルが起動している。

 【身体強化】、【見切り】、【剣聖の間合い】がすでに発動していてノエルが臨戦態勢にあると分かると、今かなりの確信をもってアルマに詰め寄っていることを理解し彼女もスキルを励起れいきした。

 いくらノエルとは言えこんな冗談を言う子ではないし、初対面の相手にここまでするのは異常、ハルツ達も同じ結論に行きつき席から立ち上がる。

この場にはカーター、ハルツ、ノエル、リーゼ、そしてアルマがいたわけだが次の瞬間鈍色(にびいろ)の光が軌跡を描いてノエルに迫った。


「ノエル様!」


ハルツが間に割って入ろうとするが間に合わない、しかしそれより速く腰に差したノエルの剣が抜かれその勢いのまま金属同士がぶつかる音が部屋に響く。

 ハルツは自分が間に合わず、なおかつノエルが自力で対処したことを目の端でとらえるとその勢いのままノエルに危害を加えようとした人物にタックルし壁を吹き飛ばしながら外まで弾き出した。

 部屋の外に待機していたパーティーも緊急事態を察知して外に出ると一人対複数人という構図で対峙している。


「ハルツさん、これは⁉」


「どうもこうもあるか、この場にいた者すべてノエル様に助けられたんだ」


「どういうことだ、だって…………アルマ!」


先ほどの話の流れからして、ノエルに危害を加えるとすればアルマしかいないのだがそれにしてもカーターには衝撃だった。


 この村の生まれのアルマがなぜノエル様に危害を加えようとするのか?

いや、ノエル様の言うようにあれは本当にアルマなのか?


 Bランク冒険者として首都でも指折りの実力を持つハルツの体当たりを食らい、木製の壁が抜けるほどの衝撃をその身に受けてなおアルマを名乗る存在は平気な顔をしている。


「あーあ、まさかここでバレてしまうとはなぁ」


薄暗くなり始めた辺りの景色も相まって、アルマの姿はまるで夕闇に溶けるようにその輪郭を失いつつある。

 それがスキル【気配遮断】であると気づいたとき、既にその場にアルマはいなかった。

 去り際にアルマは一言、たった一言だけ呟いていった。


「まだ第一段階か、先が思いやられる」

短編を考えたりするんですが、時代考証や当時の様子を表現するのは時間がかかりますね。

その点異世界は決められたルールに従えばある程度の無茶は効くので、現代を舞台にした作品を描く作家さんには尊敬しかないです。


(作者が)やりたい放題ファンタジー、ここからどんどん面白くなります!

ぜひブクマ、評価、感想、レビューよろしくお願いします!

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