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半身転生  作者: 片山瑛二朗
第2章 冒険者アラタ編
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第60話 カウントスタート

 スライムが魔術を使用した。

 その事実は一同に衝撃をもたらしたが、異常なまでに巨大化した変異種のスライムである、それくらいのことはあり得ると考えを改める。

 問題は使用する魔術の種類だ。

 火属性をダンジョン内部で使えば当然冒険者たちの命が危ない。

 体育館で焚火をしながらバスケットボールに興じるようなもので、換気をして空気を循環させなければスライムに殺される前に活動限界がやってくる。

 トマスが火消し役に走るが、彼の魔力も無尽蔵ではない、出来る限り早急に敵を討たなければ不利になるのは冒険者たちだ。


「もう一度だ。狙われた者は回避に専念、行くぞ!」


 後衛組か中衛組がいれば違ったのだろうが、4人以外にスライムの注意を引くことを出来るだけの能力を持つ者はいない。

 アラタが命を賭ければあるいは、と言った様子だがそんな作戦は認められるはずもない。

 火属性の強力な攻撃、炎槍は効果半径こそ狭いものの当たれば一撃で命に達することもある危険な攻撃である。

 今回はルークが標的にされ核を破壊しきることが出来ないまま一呼吸置く。

 その間にスライムは核の修復と炎槍の準備をする。


「悪ぃハルツ、俺限界だわ」


 この土壇場でルークが限界宣言、もう少し頑張れと言いたくなる気持ちもわかるが今日の彼の働きからすればとっくに限界を迎えているはずだった。

 その彼が今更ながらギブアップ、これ以上は命に関わるという苦渋の決断だった。


「いや、よくやってくれた。トマス、代わりに入れ」


「はい」


「トマスは外れた攻撃を捌け、ノエルは私の援護だ。カイワレとルークは交代、アラタはルークのサポートに入れ」


「はい!」


 下がってきたルークとアラタは限界の仲間たちを挟むようにポジションを取り、変幻自在のスライムと対峙する。


「半分任せる。行けるな?」


「やります」


 アラタはあまり嘘が得意ではない。

 行けるかというルークの問いに対してアラタの答えは『やる』というもの。

 行けるとは言わない。

 ただやると、決意を伝えると刀を構える。

 そんなアラタを見てルークは少し微笑むと武器を槍から短剣に握り替えた。


「6:4だ。俺が6でお前が4。捌くぞ」


「はい!」


 スライム本体はハルツ達が相手をしている分、2人のところに流れてくる攻撃は特段厳しいものではない。

 だがここまでの長期戦、息つく暇もなく戦い続けた一行のコンディションは万全ではない。

 特にルークの魔力は底を尽きかけている、崩れるのも時間の問題だ。

 一方で15の核を有する変異スライムと、それを正面から相手する4人の攻防は激しさを増していた。

 アラタが習得している技術、魔力による身体強化や武器に魔力を流し攻撃力を上げる戦闘法は4人とも余さず所持している。

 そうして強化された人体はポテンシャルを限界まで引き出し人外の脅威に立ち向かう。


「隊長、【赫ノ豺狼(アレウセロン)】の使用許可をください」


「ダメだ。この魔物は我々で対処できる。トマス、どうだ?」


「魔力耐性があるだけで剣は誰でも通ります。なら核を減らした状態で魔術をノエルさんが、残りをハルツさんがやるのがベストかと」


「よし、まずは5個まで減らす。行くぞ!」


4名は横一線に敵に突っ込んでいく。

 スライムは半透明な体を伸ばして冒険者を絡めとろうとするがそれではこの4人は止まらない。

 再生した核を再度3つ破壊した所で炎槍が飛ぶ。

 ハルツはこれを回避、トマスが消火に回る。

 土属性の魔術でトマスが消火を終えるころ、スライムの核の数はさらに減り残り8個まで来た。

 スライムに感情と言うものがあるのかは分からないが、苦しそうに見えないこともないスライムの様子は冒険者たちに確かな手ごたえを感じさせると同時に、身体をくねらせて暴れまわる粘性物体はそれだけで脅威となる。

 攻撃を食らっても即死することは無いだろうが、スライムの粘液は次のアクションを阻害する。

 そうなればスライムに取り込まれ、そのまま絶命しかねない。

 残りの核は6つ、次の工程に移るまで残り1つ、


「ハルツさん! 今です!」


トマスの剣が核を両断したのを合図に畳みかける。

 ノエルを先頭に、ハルツが続きそれに少し遅れてカイワレが付き従う。

 トマスは一度離脱し再度突撃する、これで決める気だ。

 5つの核の付近から赤く煌めく炎の槍が生成され、その鋒は冒険者たちに向いている。


「ノエル!」


 戦闘を走るノエルは片手に剣を、もう片手にオークション掃討戦で使用した杭を持つ。

 あの時はただ魔術回路を阻害する為に物理的に邪魔しただけだったが、今回の杭は彼女の魔力を帯びて淡い水色に光っていた。


「っむんっ!」


 炎の槍が射出される前に杭で潰した攻撃が4つ、残る1つは間に合わず炎槍が撃ちだされた。

 その軌道はノエルに向かって一直線、その後方にいるハルツ、少しずれているがカイワレにも当たるかもしれない軌道、まずは先頭のノエルが避け――


 このまま斬り飛ばすっ!


 両手で握りしめた剣聖の剣は魔力強化で切れ味と耐久力が増している。

 そして剣聖のクラス補正、2年前に結んだ契約に基づき取り出された力は魔術すら……


「よくやった!」


 渾身の一振りで炎槍を真っ二つにしたノエルを追い抜きハルツは剣を振りかぶった。

 こちらも聖騎士のクラス補正をふんだんに使用して、5つの核をほぼ同時に攻撃する。

 確かに5つ、スライムの核は破壊され合計15個の核全てを失った変異スライムは悶え、苦しみ、そして…………


「まだどこかに核が……アラタ、後ろーっ!」


「へぇ?」


 4人のおかげで攻撃が止んだのか、アラタは棒立ちになりルークは座り込んでいる。

 こちらを見ている彼の背後に、濃い青色の球体が1つ、スライムの体にあった。

 そのすぐ近くには火の槍が一本、アラタでは回避が間に合わない。


 ……ここで失う訳にはいかない!


「勝負だっ」


 ノエルは剣を投擲した。

 投げ槍のように真っすぐではない。

 ブンブンと回転しながら飛んでいく剣は技術などあったものではないが、それでも狙った位置に飛んでいく。


「ひ、ひぁぁ」


 剣は炎の槍を捉え、その背後にある核を破壊して壁に突き刺さった。

 ノエルの投げた剣がすぐ横を掠めていったアラタもまた、ルークと同じようにヘナヘナと座り込んだが、そんな彼の元に笑顔のノエルが走り寄ってくる。


「間一髪だった! ケガはないか?」


「危うく死にかけたぞ! 先に避けろ! とか言えよ!」


「それは無理だ、そんな余裕ない」


「あのなぁ……まあ、助けてくれてありがとう」


「ふふん、どういたしまして!」


 スライムが活動を停止したことで、全員の状態確認と休憩を兼ねている時、一時に比べれば元気になったノエルがアラタから食べ物を受け取ろうと手を伸ばして……やめた。


「どうしたの?」


「鎧の音だ」


 前衛組も武装しているわけで、ほとんどの者が鎧を装備している。

 だがノエルの言いたいことはそれではなく、鎧を着た何者かが近くにいると言いたかったのだ。

 アトラダンジョンに武装する魔物は存在しない。

 その事実と組み合わせると彼女からもたらされた情報は一同に希望を与えた。

 ハルツは口では警戒を解くなと言いながら、彼自身喜びを隠しきれなかった。

 そしてその期待は現実のものとなる。


「リーゼッ!」


「わっ、ノエル!? 無事でしたか?」


「うん! リーゼは後衛組にいたのか?」


「ええ、ノエルがいるということはアラタも……」


「……良かった」


 刀を鞘に納めたアラタは小さくつぶやいた。

 良かった、そう言わずにはいられなかったが大声で喜びを叫び走り寄らなかったのは彼なりの最大限の気遣いだ。

 この討伐隊の中には中衛組にパーティーメンバーがいた者が大勢いる。

 リーゼはたまたま後衛組と共に転移して無事だったのだ。

 無事ではなかった仲間が隣にいる状況で、全身で喜びを表現する気に彼はなれなかった。

 後衛組はこれで全員、こちらもリーゼの治癒魔術のおかげもあり脱落者ゼロ、人数確認が終了した時、行方不明者18名、生存確認が取れたものが27名だった。

 中衛に属していた者たちは残念だったものの、魔物の討伐はほぼ完了、増加・活性化原因は不明なもののこれ以上の被害を出さぬためにも撤退が決まった。


「魔物の駆除はあらかた完了しましたが、このまま出口を目指しますか?」


「いや、アラタがドレイク殿より転移魔道具を預かっている。それで帰還するとしよう」


 クエスト途中に2人が交わした会話とは転移魔道具の使用タイミングに関することだった。

 初めアラタは魔道具をハルツに任せようとしたが、タイミングはこちらで指示するからお前が持っているようにと言われ魔道具は今もアラタの腰にあるポーチにしまわれている。


「最後にもう一度人数確認だ。肩を叩かれた者は一度しゃがんでくれ」


 リーダーはメンバーの肩を叩きながら人数確認を進めていく。

 これが完了次第、討伐隊はクエストを終了し帰還する。


「25、26、27、俺を数えていないから――」


 その瞬間、しゃがみながらハルツの方を見ていたアラタの視界に一筋の銀光が流れた。

 さらにその次の瞬間、彼の体は宙を舞いその下方ではノエルが抜剣して何者かに斬りかかる。

 ノエルが自分を投げ飛ばしたのだと、眼下に広がる光景を見て、手に残る温もりを感じてアラタは判断した。

 消耗しているとは言えリーゼの治療を受けて、ある程度体力の回復した剣聖の一撃は非常に鋭い。

 何者かはその一閃をこともなげに躱すとノエルに向けて一太刀入れようと両刃の剣で斬りつける。

 ノエルは反応していて躱しきれる、逆さまの視界でアラタはそう判断したが再びアラタの視界が瞬きにより一度遮られると、次の瞬間には攻撃をキャンセルしノエルに接近した体から蹴りが繰り出された。

 その攻撃を受けながらもカウンターで斬り返したノエルの鋒がかすりかけたのか敵は大きく飛びのき一人集団から孤立する。


「起動しろアラタ!」


 言葉に意思を乗せて他者の行動を突発的に支援することのできる、【聖騎士】の能力。

 リーゼのそれより強力なクラスの効果はアラタの左手を迷わず腰のポーチに運ばせる。


 30:00

 29:59


 討伐隊の生き残りをかけた30秒のカウントが、今スタートした。

絶望の足音がすぐそこに…………


次回は今までの作中屈指のアクションです!

この作品を押し上げてくださ〜い!

ブクマ、評価、感想、レビューお待ちしています!

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