表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半身転生  作者: 片山瑛二朗
第2章 冒険者アラタ編
54/1005

第54話 The Black Boxed Girls

タイトルは英語話者の友人から教えていただきました。

日本語独特の表現ですがsheltered princess辺りが妥当らしいです。

まあタイトルの英語でも言いたい事は分かるよ、らしいです。

 屋敷で生活を始めてから初めての朝はとにかく目覚めが良かった。

 リーゼの見繕ってくれたベッドがよほど良いものだったのか、いつもよりすっきりと起き上がることが出来たし、起きた後も宿にいた時特有のガヤガヤした感じもない。

 食堂が隣接されているわけではないから自炊する必要があるけど、それも俺にとっては問題ない。

 こういう時一人暮らしの経験があると便利だ。

 アラタは1階に降りて朝食の準備を使用と台所に向かう。

 向かった、台所に到着した、そのはずだった。

 …………台所がなくなっている。

 ここはどこだ?

 おかしい。

 昨日簡単だけど夜ご飯を作った後朝ごはんの準備もしておいたはずなんだ。

 だけど……無いものは無い。

 おかしい、おかしいけど俺はこの現象を知っている。


「いや、まさかぁ。 そんなベタな」


 台所は爆弾でも爆発したのかのような惨状が広がっている。

 それだけでも気絶ものだが、アラタの目から見て所々に片づけをしようと試みた形跡が見られる。

 明らかにこの惨状は人為的に引き起こされて、その張本人たちが証拠隠滅を図り、そして諦めた様子が見て取れる。

 ここで彼が犯人ではなく、犯人たちと考えたのには理由がある。

 というより誰が考えたとしても同じように考えるだろう。

 アラタが寝る前に異変は無く、彼が起きるとこの状況。

 そしてこの屋敷にいるのは彼と後2人。

 その2人は貴族のお嬢様ズでいつも宿や酒場で食事を取っている姿は見たことあるが、自炊している所を見たことは無い。

 クエストの最中の昼食も購入したものだ。

 そこまで考えが至った時、アラタは背中に視線を感じた、しっかりと2人分。


「俺が準備していた朝ごはんが消し炭になっている件について説明はあるんだろうな?」


 アラタは振り返らず問いかけるが視線の主たちは露骨に焦り始める。


「ま、待ってくれ。別に消し炭にする気があったわけじゃないんだ。リーゼがな……」


「ちょっと! ノエルが自分で出来るって言うから!」


 犯人たちは被害者の前で責任の押し付け合いを開始したが彼にとってどちらにより非があるかは大した差ではない。


「だとしてもこうはならないでしょうがっ! 何!? これは火事だよ! 消防車呼ぶような火事だよ!」


「しょ? お、怒らないでください。とりあえず朝食にしません……か?」


「誰が料理するんだ?」


「ア、アラタさんにお願いしたいな~、なんて……」


「はぁ」


 想定していなかったけど、いざ起きてみれば考えておくべき範囲の出来事だったかなとアラタは多少自分でも責任を被る。

 彼に非は微塵もないがそう考えた方が楽になる場合もあるのだ。


「とりあえず食材を買ってくるから台所をきれいにして待ってて」


 そう言い残すとアラタは屋敷を出て市街地へと向かって言った。

 一方取り残された2人はというと、


「だいぶ怒っていましたよ。それもこれもノエルのせいです!」


「なにぃ!? リーゼだって一緒になって料理していたじゃないか! そもそも私は剣聖だから……とにかく見苦しいぞ!」


 2人はひとしきり言い合うとがっくりと肩を落とす。


「私たち、女性としてどうかと思いますよね」


「別に女が料理をしなければならない道理なんて……いや、まあそれでもこれは少し……」


 2人が反省しながら掃除を始めたころ、アラタは朝の市場に到着していた。

 屋敷の設備もさることながら、立地もかなりいいところにありすぐに街の中心地にアクセス可能だ。

 アラタはもう一度買い物に来なければならないことは分かっていたので、取り敢えず朝食の分と予備を少しだけ買って帰ろうとしたとき声をかけられる。

 俺が何かしようとすると誰かしら話しかけてきて出鼻をくじくの、いい加減何とかならないのか。


「おい、ヒモのアラタ、話がある」


 強面の冒険者たち数人に囲まれた。

 なぜアラタが相手のことを冒険者だと断定したのか?

 答えは簡単、頭の両脇を剃り上げた過激なモヒカン、常軌を逸した髪形を統一しているグループなんて冒険者以外いないからだ。

 最近おとなしくなったと思ったら、まぁた始まったのか。

 しかもそのきっかけは多分……


「お前、リーゼさんとノエルちゃんと同棲を始めたという話は本当か?」


 だよね。


「だったら?」


「ここで死んでもらう」


 こいつらから慰謝料取って、俺の生活費の足しにするか。

 それにいつもいつもこの世界の住人は話が性急で物騒だ。

 付き合うだけ無駄、時間の無駄だ。


「誰だその噂流した奴。俺は2人と同棲なんてしていない」


「……信じてもいいんだろうな?」


「ああ、だいじょぶ。信じろ」


「分かった。疑ってすまなかった」


 男たちは意外と素直に引き下がりどこかへ去っていった。


「ま、こんくらいいいよな」


 普通に噓をついたけど、俺だって忙しいしいつまでもこんな面倒なことに付き合う道理はない。

 その都度適当にあしらっておけば問題ないだろ。

 アラタは荷物を抱えて屋敷に帰宅する。

 そしてそのまま台所に向かった時、ふと異変に気付いた。

 何故か床が濡れているのだ。

 それも台所から水が流れてきているように彼の目には見えている。


「はぁ、またかよ」


 アラタの推測は台所に入り現場を確認することで確定された事象となる。


「俺はここを綺麗にしてって頼んだんだけど?」


 火の次は水か。

 台所さんも火攻め水攻めと可哀想なことこの上ないな。


「そ、そのー。魔術で水を生成したら作りすぎてしまってな。その、ごめんね?」


「なぜ疑問形……まあいいや、後は俺がやるから2人はそこで待ってて」


「はい、じゃあ私たちはこれで……」


「おい、誰が出ていいって言った? 2人にはしっかり勉強してもらうから。そこに立ってなさい」


「え、私たちが料理? アラタ、冗談がうまいな~」


 男は無言でノエルを見つめる。

 両者は目を合わせ、しばらく無言の時間が流れたがやがてノエルがフイッと目を逸らした。


「はい、すみませんでした。立ってます」


 思いが通じたようで何よりと、アラタは2人が台所の隅に立ったところで軽く掃除をして朝食の準備を始める。

 メニューは簡単に目玉焼きとサラダとトーストにしようと思ったが、トースターなんてない。

 フライパンはあるしそれで作る手もあるけど、どうせならフレンチトーストにしようか。

 一応牛乳とか砂糖を買ってきておいてよかった。

 バターは有塩の方がよかったけどちゃんと区別されていてよかった、どんな違いがあるか分からんけど。

 サラダを先に作ってから二つのフライパンで目玉焼きとフレンチトーストを作る。

 特にこだわりはないのだが、目玉焼きには醤油をかけたくて仕方がないアラタは、醤油を入手できなかったことに苛立つ。


「なんか怒っていないか?」


「ノエルが余計なこと言うからですよ、反省してください」


 すぐそこにいるのだ、2人の会話はアラタにもバッチリ聞こえている。


「醤油、味噌、ジャポニカ米、悉く無かった。この世界はおかしい」


「なんだ、私のせいじゃないじゃないか。脅かさないでよリーゼ」


「別にそのことに怒っていないわけじゃないからな?」


「はぃぃ…………」


 そんなやり取りをしているうちに朝食が出来上がった。

 フレンチトーストに蜂蜜を使おうと探したが無かった。

 存在しないわけではなく、貴重だから入荷できていないようで物の価値観が音を立てて崩壊していくが無いものは無い。

 代わりにジャムを買ってきたのでそちらを使って完成だ。


「できたから運んで」


 流石に盛り付けられた皿をひっくり返すようなことは無くてアラタは安心したが、逆にこれくらいしかできないんじゃないかと思うと悲しくなってきた。

 朝から予想外のトラブルに見舞われて、時間は大幅に遅れていたのでさっさと食べ始める。

 2人はテーブルについているが料理に手を付けずアラタの方を見ている。


「食べないの?」


「いえ……アラタって本当に料理できるんですね」


「うん、私も思った。口だけ大きくて出来ないオチかと思っていたのに」


「もう作ってやんねーぞ」


「うそうそ! 作ってくれてありがとう!」


 2人はアラタと同じようにトーストを口に運ぶ。

 普通の味覚を持っている自信はあるけど、自分の料理を食べてもらうってなんか緊張する、とアラタもその様子を見守る。


「……美味しい」


「うん、美味しい」


 良かった。

 あんなに色々言っておいて口に合わなかったらどうしようかと思った。

 作ってもらった二人がそんなことを言うとも思えないけど。

 2人はトーストをガツガツと食べ始めた。

 結構気に入ってくれたようで何よりだけど、それより気になったのはその食べ方だ。

 バクバク食べているけど、食べ方は綺麗なのな、食べ方だけは。

 ノエルはあっという間に朝食をワンセット完食して、もうなくなってしまったと皿を見つめる。

 おいしそうに食べてもらえて嬉しいけど、そんなに名残惜しそうに皿を見てもフレンチトーストは生えてこない。


「……もう一回作ろうか?」


「えへへ、なんか悪いな」


 ちょっとあざとくないか? と思いつつも少し笑いながら皿を受け取ると台所に向かおうとする。


「おいしそうに食べてくれるのは嬉しいけど、リーゼを見習って少しは慎みをね――」


 そう言いながらリーゼの方を見ると、空の皿を持っている彼女とバッチリ目が合ってしまった。

 アラタの視線が下がり切る前に皿をテーブルに置くが、流石に手遅れというものだ。


「……いいよ、お皿頂戴」


「……感謝します」


 アラタは二回目のフレンチトーストを作り終わると自分の食事を再開した。

 彼が食べ終わるよりも早く2人が食べ終わるのを確認すると、アラタは目玉焼きを口に運びながら切り出した。


「今回のことでわかったから当分は俺が料理を作るよ。でもしばらくしたら2人にも作ってもらうから」


 2人の視線があからさまに泳ぎ始める。

 平泳ぎなんてものじゃない、素人のバタフライくらいバシャンバシャン泳いでいる。


「私たち今まで料理したことが無くて……そのー」


「なんとなくわかってたから。ゆっくりでいいから練習しよう。冒険者なんて家政婦さんなんて雇う訳にはいかないだろ?」


 2人は無言で頷くが正直不安でしかない。

 家事関連の話をすると露骨にノエルの口数が減る。

 【気配遮断】を使っているんじゃないかと疑うくらい影が薄くなり、存在感は空気に溶け込む。

 食事の後片付けが終わるとアラタはこれからシャーロットの元で稽古、その後はドレイクに魔術を教わることになっている。

 シャーロットの方は遅刻確定だが、台所の件はともかく引っ越しでごたごたするだろうから、多少時間が前後するかもしれないことは伝えてある。


「……行きましたね」


「ああ、それとリーゼ」


「言わなくても分かっています。アラタの料理」


「うん、期待以上だった」


「食費はかかりますけど、あれが無料で出てくるんですよ? 信じられます?」


「私たちがあそこまで美味なものを作れるようになると思うか?」


 リーゼは答えない。

 いつかのやり取りのようにこの質問にも沈黙こそが回答という訳だ。


「とにかく! 夕食が楽しみですね!」


「ああ! そうだな!」


 能天気なお嬢様たちは今日も楽天的だ。

 料理技能を習得する気なんてサラサラない。

 この世界に来て受難続きのアラタだが、屋敷での共同生活が始まりその度合いはますます加速するのだった。

前座はここまで。


次回から第2章 冒険者アラタ編の結び、言うなれば……全ての始まり、計画始動、新しい夜明け、う〜ん。

思い浮かびません!

ただ物語の進行上すごい大事なことがてんこ盛りですし力も入れてます!

第2章の終わりまで是非お付き合いください!


ブクマ、評価、感想、レビューお待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ