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半身転生  作者: 片山瑛二朗
第2章 冒険者アラタ編
25/1005

第25話 予期せぬ始まり

いつもこの超絶面白い全世界話題沸騰中の「半身転生」をお待ちの皆様、投稿時間がずれて申し訳ありません。

言い訳させていただくと、当方学生の身でして研究活動と部活とバイトに明け暮れております。

書きダメはあるので毎日更新できるのですが投稿時間が前後することがあります。

今後予約投稿も視野に入れていきますのでどうか見捨てないで下さい。

長くなりましたが本編の方も結構ハードな展開になりつつあります。

どうぞお楽しみ下さい。

 今日も一日姐さんのところで稽古が始まる。

 この1週間全くスキルは発現しなかったけど、戦い方はだいぶ掴めてきた。

 実戦の中での攻撃の当て方、間合いの取り方、刀の正しい使い方。

 ここ最近ひたすら戦闘訓練を積んできただけあって、以前の自分とは比べ物にならないくらい戦闘と言う行為に慣れた。

 ただ、スキルがないとこの稽古をクリアすることが出来ないことを頭では理解している、でも一向にスキルが発現する気配がない。

 【気配遮断】を一日目で獲得できたことから考えると、スキルの獲得条件に時間はあまり関係ないのかもしれない。

 だとすると今こうして足踏みをしている時間は全くの無駄なんじゃないか?

 そう考えると不安になる。

 漠然とした稽古を続けて、何の成果も得られずに終わってしまう不安、ここまでしてくれた姐さんやみんな、俺抜きでクエストに行っている2人、みんな俺に良くしてくれるけど俺は何も返せるものを持っていない。

 せめて早くスキルをゲットしなきゃ、そう考えて俺は孤児院へ向かった。


「そう言えば姐さんは昨日何を言おうとしたんだろう?」


 昨日の稽古が終わった時姐さんは何か言おうとしていた。

 結局何も言わなかったけど……見込みがないから諦めるように勧めようとしたのかもしれない。

 うわー、稽古の前から嫌なこと考えちゃったな。


「あれ、今日は2人ともこっちに来たのか」


 アラタが孤児院に到着すると既にノエルとリーゼがそこにいた。

 そろそろ稽古も長くなってきたし、一度成果を見ようと思ったのかもしれない、とアラタの中で今日の稽古の重要性がまた一段階上がる。


「三人ともいらっしゃい、さあアラタ、今日こそスキルを発現してもらうよ」


「おはようございます。いやー、発現できますかね、スキル」


「今日こそスキルに目覚めてもらうよ。でなければこの2人のパーティーを、冒険者をやめて村に帰ってもらう」


「…………は!?」


「さあ、剣を抜きな。冒険者ならこれで語るもんだよ」


 急転直下。

 話に脈絡がなさすぎる。

 そうか、これが昨日姐さんが言おうとしたことの正体か。

 今日に限って2人がここにきていることも多分関係ある。

 ……でも、だとしても、


「いや、意味が……なんで姐さんにそんなこと言われなきゃならないんですか」


「前に聞いたね。あんたはこの2人に命を救われて、その2人に誘われて冒険者になったと」


「そうですけど」


「昨日2人と少し話をしたわ。2人はアラタの事を仲間だと言ったわ」


「それはそうでしょう、本当の事ですし」


「それがダメなんだよ。今のあんたにこの意味はまだ分からないかもしれない、でもそれは健全じゃないわ」


 着地点の見えない、外連味たっぷりの言い回しに徐々にアラタもイライラしてくる。

 言いたいことがあるならはっきりと言ってほしい、俺はあまり賢くないんだ。

 アラタは着々とストレスを蓄積させていくが、シャーロットはそれを意にも介さず話を続ける。


「いいかい? あんたはその2人に依存している。巷でヒモだとか言われているようだけどね、私からすればそんな関係よりもよっぽど質が悪い。その関係を継続するようならあんたは遠くない未来で二人を庇って命を落とすことになるわ」


「分かんない。姐さんの言っていることは全然分かんないです」


「だから言ったでしょ、今のあんたにこの意味は理解できない。強くなることへの異常な執着、昨日、いや、私との稽古が始まってからずっと夜まで剣を振っていたの? 元々訓練することに慣れているようだけどどこでそんな癖がついたのか今は聞かないわ。とにかくあんたは一種の強迫観念によって今生きている。そうさせるものは何? 何があんたをそこまで追い込むの? 一体あんたは何と戦っているの?」


 俺には姐さんの質問の意味が分からない。

 居場所を守るために努力することは当たり前だ。

 俺のために何かしてくれる人に報いたいと思うのは普通だ。

 今あるものに満足して積み上げることを怠れば、積み上げた物すら崩れてしまうことを俺は知っている。

 だから姐さんの言っていることに何一つ納得できない。


「私の言っていることが理解できないようね。まあおかしくなっている奴に普通を説いても伝わらないわよね」


 バカに説明するだけ無駄だと言わんばかりに、失望したようなため息をつくシャーロットを目の当たりにしてアラタのイライラは限界が近づいていた。


「すんません、姐さんが言っていることは何一つ理解できない。自分が生き残るために、死なない為に全力で努力することの何がおかしいんですか! そんなことは大なり小なり皆やっていることでしょう!」


「……平行線だね。やっぱり今の状態は問題があるよ。私が勝ったらもう稽古はつけない、あんたが生き残ることが出来たらこの先も剣を教えてあげる。かかってきな」


「シャーロットさん、そんな無茶苦茶な――」


 リーゼが止めに入ろうとするがその手をリリーが掴み静止させる。


「もうだめです。こうなった姐さんは聞きません」


「そんな…………」


 外野の介入の可能性が絶たれたころ、既にシャーロットの両手には巨大な武器が握られている。

 ここで始める気らしい。


「上等だ、やってやるよ」


「その勢いは若さゆえの物だと思う所だけどね。今のあんたのそれは勇ましいだけで中身空っぽの蛮勇だよ」


「うるせぇ!」


 アラタは刀を抜き放ち斬りかかった。

 激情のままに斬りつける、それでも正確に刀を通すことが出来るのはシャーロット達との訓練の賜物である。

 シャーロットは盾でアラタの攻撃を防ぐだけで攻撃してこない。


「このまま削り倒してやるよ!」


 いくら不意打ちに耐性がある姐さんと言え、視認できていない状態からの【気配遮断】を捉えられるはずがない。

 アラタはポケットからテニスボールくらいの大きさの玉を取り出し地面にたたきつけた。

 玉は爆ぜると辺りを煙に包む。


「アラタ!? 一体何を?」


「煙玉です! ノエル、あまり吸い込まないように!」


 辺り一帯が完全に煙に包まれた時アラタはスキルを起動する。

 【気配遮断】を使うようになってから他人の気配にも敏感になった気がするのは流石に気のせいだろうか。

 だがそんなもの無くとも存在感抜群のシャーロットの位置を捉えたアラタは静かにかつ迅速に駆けた。


(最悪大けがしてもリリー様に治してもらえばいいだろ!)


 アラタは渾身の一撃をシャーロットの背後から浴びせた。

 日本なら殺人未遂で御用確実である。

 とった!

 確かな手ごたえを感じてもう一撃浴びせようとしたとき、アラタは異常な殺気を感じて攻撃をキャンセルしその場から飛びのく。

 次の瞬間先ほどまでアラタが立っていた場所が隕石でも落下してきたかのような轟音を立てて炸裂した。

 地面が割れ小さな土くれが異常な速さでアラタを打ち据えた。

 さほど痛くないがその衝撃で煙が晴れる。

 そこには今まで感じたことの無い殺気を振りまく鬼神の姿があった。

 シャーロットの左肩からは血が流れている。

 先ほどアラタが食らわせた攻撃は肉まで達していたのだ。

 だがこれは…………


「完全にキレてんな」


 もう何が何やら。

 急に村に帰れって言ってみたりかかって来いって言ってやったらやったでキレるし。

 もうわけわからん。

 けどこの人の逆鱗に触れてしまったことは確実だ。

 と言うかさっきまでと本当に同一人物か?

 この人のクラス重戦士じゃないだろ、絶対クラスは狂戦士とかだろ。

 完全に我を忘れている姐さんから距離を取ろうとして一歩下がった時、姐さんを捉えていたはずの俺の視界から姐さんが消えた。


「気配遮断!?」


 そう叫んだ時にはもう既に遅い。

 アラタの目の前まで迫ったシャーロットは、彼の視認することのできない速度でアラタの身の丈ほどもある大剣を振りぬいた。

 真っ二つ、そうなる未来が見えたがアラタの体はまだつながっている。

 間一髪飛びあがることで横なぎの攻撃を躱した。

 ……っは躱した!

 助かった!

 アラタがそう思ったのも束の間、まだアラタが空中にいる間に音速を超えるかと思うほどに強烈な左ストレートが体を捉えた。


「ぐっ、ぐぁああ!!! うっぐっ」


 轟音を立てて吹き飛んだアラタは孤児院の壁に叩きつけられる。

 正門側の柵だったらもっと遠くまで吹き飛ばされていた。

 流石に壁が粉々になるようなことはないが、アラタの体の骨は何本か分からないが完全に折れている。

 呼吸をするだけで激痛が走るのだ、恐らく肋骨も何本か折れている。

 【痛覚軽減】ありでここまで痛いのは初めてかもしれない、立ち上がる力なんて今の一撃で全部持って行かれた。


「カヒュー、ヒュー、ヒュー」


 呼吸すらまともにできない、吸っても吸っても酸素が足りない。

 変な音を立てて息が出たり入ったりするだけ、姐さんが近づいてくる。

 ああ、完全に怒らせてしまった、なんで、流石にやり過ぎじゃ……このまま俺は死ぬのかな。

 稽古で死ぬなんて情けないな、俺。

 視界がぼやけ混濁する意識の中唐突に視界が動き、それが誰かに担がれたからだということをアラタが理解することにはしばらく時間を要した。


「リーゼ! アラタを頼んだぞ!」


「ノエル、限定解除です! だから絶対死なないでください! 絶対戻ってきますから!」


「ま、カヒュッ、ノエル」


 声がうまく出ない。

 ノエルは俺よりはるかに強いけど姐さんの前では五十歩百歩だ。

 俺はその場から遠のく視界の端でノエルが吹き飛ばされるのを見た。


「リ……ヒュ、ヒュー。と……まって」


「安心してください! ここで一度治癒を施します!」


 リーゼは俺を降ろし横にさせると治癒魔術を俺に対して使用した。

 応急処置に過ぎないけど【痛覚軽減】を合わせればずいぶん楽になった、おかげで少ししゃべれる。


「戻ろう、このままじゃノエルが持たない」


 アラタはそう言い立ち上がる。

 まだ体中痛いけど動けない程じゃない、何とかなる。


「ダメです。今リリーが皆さんを呼びに行っています。待つ、待つんです」


「それじゃノエルが手遅れになる、俺たちだけでやるんだ」


「無茶です! このまま戻ったら今度こそ殺されます!」


「それでもだ。それでもノエルを助けに戻らなきゃ、ここでノエルが再起不能になればパーティーはここで終わる。それに……痛っ、リーゼ! お前はノエルの仲間なんだろ! じゃあどんな手を使ってもノエルを守れよ! 俺の命くらい使って見せろよ!」


 リーゼはなぜシャーロットがアラタに対してあんなことを言ったのかなんとなく理解した。

 なるほど、これは危険ですね、ですが……

 リーゼはガシガシと頭をかく。


「ああーっ! もうっ! シャーロットさんの言う通りアラタは少しおかしいです! でももういいです、戻りましょう!」


「そう言うと思ってた。早く行こう!」


 2人は踵を返し走り出す。

 走り出したが体中が痛い、足の骨もヒビくらいは入っているかもしれない。

 多分手首、左の橈骨も折れているかも。

 刀もさっきの場所に落としてきたままだ、だけど行くしかない、さっきノエルが吹っ飛ばされたのが見えた、間に合え!


「助けに来ました!」


「ばっ、なんで! なんで来たんだ! これじゃ私が残った意味が!」


 アラタは落ちている刀を拾う。

 土がついているが傷一つないこの武器は少し気味が悪い。

 アラタは痛む肋骨に顔をゆがめながら息を吸い込む。


「俺たち仲間だろ! だから戻ってきた!」


「アラタ! 何のために私が! ……お前はバカだ! 私よりバカだ!」


 ノエルが喚いている、あれだけ喚く元気があれば大丈夫か。

 それより、


「二人で隙を作ってくれ、ちょっと時間がかかる。もしかしたらそのまま上手くいかないかも」


「どうやってシャーロットさんを正気に戻すんですか? 私とノエルでも長くは持たない相手ですよ」


「信じてくれ、今はそれしか言えない」


「はぁ、ノエルもですけどアラタも大概考えなしですよね。しっかりしてくれないとノエルに加えてアラタの世話もしなければなりませんし、そうなればいよいよ転職を考えないと」


「大丈夫だ、今ならいける。俺が何とかする、信じてくれ」


 リーゼは不思議だった。

 アラタの信じてくれと言う言葉には妙な力があった。


「隙って、簡単に言ってくれますね。まあやりますけど」


「頼む」


 アラタは一か八かの賭けに出ることにした。


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