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半身転生  作者: 片山瑛二朗
第2章 冒険者アラタ編
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第16話 初報酬と評価

半身転生の前日譚として執筆した「最後の夏、始める為の終わり」を公開しました!

合わせてお読みいただければ幸いです。

 ガラガラと何かを運ぶ音と背中に伝わる振動で目が覚めた。

 そういえば気を失っていたんだっけ。

 この世界に来てから短期間で何回も意識を失っている、あまり健康上よろしくないと思うのだが体に影響はないのだろうか。

 アラタは意識喪失をそこまで重く捉えていない。

 何故なら元の世界でも何回か意識不明になったことがあるからである。

 アラタは野菜の攻撃をもろに食らってからその後の記憶がないことから気絶もとい寝ていたのだと気づいた。


「あ。ノエル、アラタが目を覚ましましたよ」


 リーゼが隣に座っている。

 俺は気を失っていたから野菜と一緒に輸送されている最中だったのか。


「それは良かった。良かったんだが、その、そろそろ代わってはくれないか?」


 彼女は今アラタとリーゼが大量の野菜と共に乗っている荷台を引っ張っている。

 軽トラックの荷台に乗っているようなものだと言えば特に気にならないかもしれないが荷車の速度、それを街中で乗り回されていると周囲の人と目が合ってなんとなく恥ずかしい。

 荷車自体は別に珍しくもなんともないが少女が大量の荷物と共に人を乗せている絵はどうしても目立ってしまう。


「ダメですよ。アラタに難しいレベルのクエストを勝手に受けた罰です。このままギルドまで向かってください」


「そんなぁ~」


「俺が代わろうか?」


「本当?」


 ノエルのポニーテールがピンと反応した気がするがあれは独立した生物なのだろうか。

 それはそれとしてアラタは荷台に乗り続けることがつらかった。


「荷台に乗ってギルドに行く方が罰ゲームな気がしてきた。ただでさえ2人は目立つのにこれ以上はムリ」


「うーん、なんか釈然としないがまあいいか! 交代してくれるのなら文句はない」


 ギルドまで残り1kmといったところで選手交代である。

 ノエルと交代し彼女が荷台に乗り込むのを待ってアラタは荷台を引こうとするが、


「うっ、くっ、くぅう。おぉぉ動けっ!」


 これがアラタが想像していたよりずっと重かった。

 レイテ村からこの街に来た時利用した馬車もそうだったが純粋な積載物の重量に加えて車のスペック不足を人の力で補うにはアラタは非力過ぎたのだ。

 健康で今年19歳になろうかという男性が四苦八苦する重量はどれほどなのか、恐らくはブレーキを解除した普通乗用車と同程度なのだろう、それくらい荷車の動きは遅々として進まなかった。


「大丈夫か? やっぱりギルドまで私が」


「大丈夫、動き始めたら楽になった」


 容姿に関してあれこれ過度に考えるのはいかがなものかという一般的な倫理観はアラタも当然持ち合わせている。

 だが明らかに自分より非力そうに見える少女が軽々と引いていたものを自分は苦しみ汗をかきながら精一杯引いている。

 それほど剣聖のクラスというものは優れた能力でアラタにはその下位互換すら与えられなかったのだ。

 クエストの前、アラタはヒモと呼ばれ憤慨していたがそれ自体は間違いではない、純然たる事実なのだ。

 すでに宿泊費、生活費、帯刀するためのベルトや動きやすい服などの購入費をリーゼから借りておりこうしてクエストに行かなければ返済のめどすら立たない。

 自分よりも高ランクの女の子2人のパーティーに入り足を引っ張っている、先のクエストで脱落したのもアラタだけ、ヒモのアラタと言う不名誉な呼び名を払拭するためには彼自身の功績で周囲に認めさせるしかない。

 だから彼は荷車を引く、少なくとも自分よりはるか高みにいる仲間の引く車で呑気に寝ている場合ではない。


「なんだかアラタには深い考えがあるみたいだな」


「私にはそうは見えませんけど」


 こうしてアラタが残りの道中荷台を引きギルドまで到着した。

 建物裏手からギルド職員に野菜を満載した荷台を引き渡しクエストは完了となる。

 一行はそのまま裏手から建物に入りクエスト完了手続きに移る。

 相変わらず2人は注目の的のようで視線が集まるがさっきみたいに突っかかってくることもない。

 結局何か理由をつけてバカ騒ぎしたかっただけなのだろうか、そうだったら一過性のブームみたいなものだから気が楽になるのだけれど。

 アラタはまた絡まれないか少し気を張っていたがそんなことにはならないままリーゼが一枚の紙を提出する。


「いいですか。クエストはこうして依頼主からクエスト完了時に渡される書類をギルドに提出して終了となります。これで報酬を受け取りクエスト完了です!」


 リーゼが一通り説明を終えたところで受付の人から追加説明が入る。


「リーゼ様の説明に付け加えさせていただきますと、今回の報酬はパーティーに金貨2枚となります。そして冒険者の評価として今回の結果が加算されます。アラタさんは現在FランクなのでCランクのクエストで得られる評価はとても大きいですよ」


「へえー、そうなんですか。具体的にはやっぱりすぐにランクが変わるとかですか?」


「さすがにそこまで急には……でも進捗としてはランクアップまで2割進んだという感じですよ。どうです? かなり大きいですよね」


 受付の人は随分懇切丁寧に教えてくれるものなんだなと感心していた。

 彼女からすればそれが仕事なので特別なことをしたという意識はないのだがアラタにとって彼女のように分かりやすく丁寧に知りたいことをきちんと教えてくれる人は貴重だった。


「いやー分かりやすい説明ありがとうございます。この2人に任せていると情報が全く入ってこなくって……結構困っていたんです」


「あら、そうなんですか? ふふっ、それは大変ですね。あっ……では報酬もお渡ししたことですし私は業務に戻りますので」


 そそくさと退散する係の人の背中を見送りながら急によそよそしくなったなと?マークがアラタの頭の上に浮かぶ。


「どうしたんだろう」


「どうしたんだろう、じゃないよな? アラタ、私に任せるとなんだって?」


 アラタの肩を掴むノエルの手は華奢そうに見えるが先ほどまでこの手で荷車を引いていたのだ、アラタの肩にかかる負荷は見た目よりずっと大きい。


「いや、それは本当の事だろ! 今回だってレイテ村の時だってパーティーに入る時だって。いつも説明がなさすぎるんだよ!」


「そ、それは済まないと思っているがでもアラタだってクエストを聞いたとき喜んでいたじゃないか!」


 苦し紛れに反論するノエルにアラタの攻勢はなおも続く。


「あんなの野菜が襲ってくると知っていたらその場で説教していたところだ! お前からも言ってやれよ。……リーゼ?」


 ノエルへの責任追及となればノリノリで便乗してくるかなと思っていたが会話に参加しないリーゼに何か間違えたかと不安になるアラタ、結果は正解だった。


「アラタの言い分は至極当然ですが今私は怒っています。なんで任せると何も説明しないのがノエル一人ではなく私も含まれているんですか。私は問題ないでしょう!」


「いーや問題あるね。大体、一緒に行動して分かったけどリーゼはノエルに甘すぎる! だからいつまでたってもノエルが勝手にクエスト取ってくるんだよ。リーゼも同罪だ!」


「むっ、さっきから人を馬鹿みたいに言うのはやめてもらおうか! 私だって日々成長しているのだ! ねえリーゼ?」


 リーゼは答えない。

 この場合は沈黙こそが回答という訳である。


「ねえリーゼ、なぜ黙っているんだ? なんで目を合わせようとしない? ねえ、ねぇってば!」


 3人の言い合いは続いた。

 ギルド内の冒険者たちはそんな様子を遠くから見守るだけだ。


※※※※※※※※※※※※※※※


「いや、それじゃ2人はなんの為にクエストを受けたのって話になるじゃん」


 宿に戻り報酬の分配について話し合っているのだが2人が報酬は俺にくれると言うのだ、明らかにおかしい。

 金貨2枚と言えば多分ざっくりと20万円くらいの価値はある。

 そんな話をした矢先のこれである、アラタがしり込みするのも納得だ。

 そもそも野菜の収穫をして20万円の利益が出るのはおかしいのだがそこは流石異世界、野菜を栽培してもああして暴れられてしまうため国から補助が出る。

 つまり市場で流通する価格は農家の収益、それらをサポートする各種サービスは国持ちという何とも不思議なシステムが構築されているのだ。

 まあ質の高い農作物ほど強く暴れるため冒険者や専門の業者などに収穫依頼が飛ぶわけだが実際に市民が購入する価格は元の世界と大差ないのだった。

 期せずして日給20万円の仕事をしたことになったアラタだがそれをありがとうと言いながら全額懐に入れるほどがめつくないし考えなしではない。

 だがリーゼにはリーゼの言い分があるようで、


「私たちはお金必要ありませんし。私たちへの返済も含めてアラタはお金が必要なのでは?」


「おかしい、それはおかしいでしょ。色々変だよ」


「私もいらないぞ。いいからもらってしまえ」


「そもそも俺は途中で脱落していたんだ。……均等、均等に分けよう。役に立たなかった分と2人の言い分の中間だ、これでどう?」


「私はそれでもいいが、リーゼは?」


「私もそれでいいですよ。さっきのは少し言ってみただけです」


 絶対嘘。

 何か考えがあるに違いない。

 一緒に行動して分かってきたけどこいつが何の考えもなしに他人に施しをするはずがない。

 どうせこれからこうやって貸しを作っておいていざという時にとんでもないお願いが飛び出してくるのだ、俺には分かる。

 多分ノエルの方は何も考えていないけど。

 リーゼの話だと貨幣は3種類、銅、銀、金貨の3種類で多分銅貨が100円とか200円とかその辺。

 おつりは屑鉄みたいな貨幣かもよく分からないもので代用されるみたいだ。

 通貨として有効なのはそれに加えて証紙、紙幣と言うより小切手みたいなものか、使ったことないけど。

 俺の手元には両替された銀貨が14枚、多分5000円くらいの価値なのかな。


「じゃあ借りていた分のお金をリーゼに返して……あと4枚か」


「だから全部もらっておけば良かったんですよ。今からでも渡しますよ?」


「いいって。それよりも家を借りるのにどれくらいかかる?」


 アラタはセレブの出身ではないのでホテルもとい宿暮らしは何となく性に合わなかった。

 できればアパートみたいな場所、最悪寮でもいいから違う場所に住みたかった。


「そうですねぇ、賃貸方式なら入居に金貨2……3枚あれば確実ですね。そこから月に大体銀貨10枚程度でしょうか。購入するなら金貨100枚と言うのが1つの壁ですね。みんなで住むなら……」


「いや、それはいい。聞いても買わないから」


「なんでですか! 住みましょうよ! パーティーの拠点は憧れです!」


「そうだな。それにアラタだけ自宅があって私たちは宿と言うのも納得いかない」


「あのさあ、2人とも帰る家あるから家なんていらないだろ。後もう少し警戒心を持て」


「活動拠点はパーティーの憧れです! 叔父様もパーティーの拠点があって憧れなんです!」


 叔父様、叔父様は貴族なのに冒険者なのかな?

 そう思ったアラタだがまだ見ぬ先輩冒険者への興味は先に取っておいて先に一つ宣言をしておくことにした。


「リーゼの憧れは置いておくとして、俺はずっと冒険者を続けるつもりはないから」


「何か当てがあるんですか?」


 2人とも俺のことを他の手段で生きていけるわけがないという目で見てくる。

 そんな目で見られても全然嬉しくないけどだんだん2人の考えていることが理解できるようになってきた。

 俺だって冒険者をやめた後のビジョンがあるわけじゃないけどここまで言って引き下がることもできない。


「そ、そりゃあ何か商売を始めて大儲けするんだ。そうすれば危険な冒険者をやらずに済む」


「何かって何ですか? それに失礼ですけどアラタに商才があるようには見えませんよ」


「そうだな。どちらかと言うと騙されて身ぐるみ剝がされる側の人間に見える」


 アラタが2人への理解を少しずつ深めているように2人もアラタのことを把握し始めている。

 そんな2人から見てアラタには商売はムリだった。


「お前らなあ、まあいいや。俺が商売で成功しても後悔するなよ?」


「言うのはタダですから。存分に夢を語ってください」


「本当に自立したら冒険者やめるからな! それまでの付き合いだ!」


 どっからどう見てもアラタに商売は無理がある、本人は気付いていないかもしれないがまず商売をするにしても地盤がない。

 他の商人とのコネクションもない、そして何より金勘定に疎くさらにアラタのようなお人好しに商売が向いていないことを2人は分かっていた。

 アラタが商売で成功したら出ていく?

 リーゼとノエルは恐らくそうはならないことを確信してクスっと笑ったのであった。


なんかPV伸びはじめた。

嬉し怖いですね。

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