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第八話


「「「シャルニーア様、お帰りなさい!!」」」


 酒瓶を抱いたまま寝た翌朝、俺はアイシャとシレイユを伴って、王都から村の入り口へと転移してきたのだが、すぐそばにたくさんの人が待ち構えていたのだった。


「これは……?」

「驚いたかい、シャルニーア様」


 シレイユがしてやったりの顔で、俺を見てきた。


「はい、驚きました。でも一体何が起こったのですか?」

「実は昨日、ようやくシャルニーア様の屋敷が完成したんだよ」

「本当ですか?」


 シレイユは俺が王都に行った初日、一緒に飛んで、その日のうちに村へと戻っていた。

 しかし今朝方、なぜかアイシャと一緒に俺を起こしに来たのだ。

 最終日にアイシャは午後から用事がある、と言っていたけど、その用事とやらにシレイユも関係していたらしい。

 アイシャのやつ、今度は何を企んでいるのやら……。


 まあそれは置いとくとして、つまりシレイユは初日と最終日以外、村に居たことになる。

 その間に、きっと屋敷工事の監督をしていたのだろう。


「それで今日は竣工式ということで、村人一同総出で参加となったわけだ」

「では、昨日アイシャが言っていた用事とやらは、これに関係した事なのですか?」

「それも含まれております」


 それも? やはりこれ以外に何か企んでいるのか、この腹黒メイドは。

 俺がアイシャの目を睨み付けると、アイシャは微笑み返してきた。

 しかし彼女の黄金色の目は、ものすごく挑戦的に光っている。

 俺の漆黒の目と視線がぶつかり、火花を散らす。


「アイシャ、これ以外の用事とは何でしょうか?」

「シャルニーア様にお伝えするようなものではありません」

「ぜひとも、聞きたいところです」

「高貴なシャルニーア様のお耳に入れるには、少々下世話なことですので」


 俺の身体中から魔力があふれ出し、渦を巻く。

 風が巻き起こり、俺の長い髪が揺らめく。

 対するアイシャは、普段と変わらぬ態度である。

 しかしこいつは、この状態で既に戦闘モードなのだ。

 腕を振るだけで、即座に十以上の魔術が飛んでくるのである。

 しかし……そろそろこの腹黒メイドとは雌雄を決さなければいけないと思っていたのだ。


「では少々無理をしてでも、聞かなければいけませんね」

「シャルニーア様にそれができますか?」


 互いに引く気はない模様。

 よろしい、ならば戦争だ。


「はい、ストーップ!!」

「うひゃぁぁぁ?!」


 魔力を開放しようとした瞬間、側に居たシレイユが俺を抱きかかえてきやがった。

 なんてことするんだ! 思わず変な声出たじゃないか!

 ってか、そこ胸!


「お? シャルニーア様にも小さいけど、ちゃんとあるんだ」


 シレイユの手が俺の胸を遠慮なく揉んできやがった。


 やめてぇぇぇぇぇ!

 俺だって徐々に身体が丸くなってきている自覚はあるんだ!

 でも、敢えて見てみぬ振りをしていたのに、言わないでくれ!


「今のうちから揉んでおけば、将来大きくなるよ?」

「そんなの迷信です! それ以前に大きくする必要性は皆無ですっ!!」


 自分のを見ても嬉しくない。というか戸惑うだろ?

 あくまで他人のを見るからこそ、満足度が高まるのだ。顧客満足度って大事なんだぞ?

 じたばた暴れるけど、意外と力強いシレイユの腕からは離れられない。

 あ、でも俺の頭上にちょうどシレイユの胸が乗っかっている。

 これはこれでいいな。


「シャルニーア様、落ち着いたか? せっかく屋敷が完成したんだ。村人達が苦労して建てた屋敷を見てくれ」

「あ、はい」


 そうだった、今日は竣工式だったっけ。

 仕方ない、アイシャとの雌雄を決する戦いはいずれやらせてもらおう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「うわっ、大きい……」


 村人一同と一緒に歩いて屋敷の前に着いたとき、思わず声が漏れた。

 村の東側が拡張されていて、しかも広げた分を全部屋敷の庭に充てていたのだ。

 でっけぇ。

 田舎だから土地が余っているのもそうだけど、こんなでかい家いるのか?

 あ、でもここに住むのって、俺とアイシャとシレイユとレイラ、あとはシレイユの部下十人ほどか。

 そして、まだまだあと二十人くらい時期を見て追加で来るらしい。


 全部で四十人近くが住む、と思ってもやはり大きい。

 正直大きさだけなら、実家の倍くらい広いんじゃないか?

 実家でも確か七十人くらい住んでいたからな。


「この辺りは良い土壌じゃなかったしな。畑に使えないから、余ってても仕方ない、ということになったんだ。どうせこの先何十年も使う予定の家だし、村が大きくなればその分貴族の客も来るだろうし、今のうちに大きいの建てておいた方が結果的に良いんだよ」


 しかも屋敷の側にはレストランがあるよ。

 マジで建てたのか。


「そういえばアイシャ、レイラは今後あのレストランで働くのですか?」

「はい、彼女にはレストランを任せる予定です。しかし最初は誰も来ませんでしょうし、貸切ですよ?」


 となると、飯は屋敷じゃなくあのレストランで食うことになるのか。

 いや、今後レストランに客が増えればレイラはそれに専念するだろうし、もう数人料理人は必要になるだろう。


「ここ一ヶ月で近隣の開墾も終わったし、食材についてはこれからどんどん収穫できると思うよ」

「一月で開墾が終わったのですか? 何だかすごく早いですね」

「そりゃ、あたしらが魔術でぱぱーっと大まかに開墾したからな」


 そうか、シレイユの下につけてる部下も、元はアイシャやシレイユと同じ魔術学園の卒業生だ。

 全員魔術は使えるはずである。


 ……何だか、うちって人材の宝庫じゃね?


 少なくとも、こんな小さな村に十人以上もの魔術士を抱えている領主って他にはいないと思う。


「種まきした後に促進の魔術をかけるから、あっという間に収穫も可能だ。まあこれはやりすぎると、土地がすぐ枯れてしまうから程ほどに止めておく必要はあるけどな」


 至れり尽くせりだな。

 しかし僅か一月で屋敷を作り上げて、尚且つ近隣の開墾も終わらせるなんて、シレイユは確かに有能だ。

 というか、有能すぎるんじゃねーのか?


「ほら、シャルニーア様」


 と、シレイユに頭を撫でられた。

 あ、礼を言わなきゃ。

 俺は後ろにいる村人達へと振り返った。

 村人たち百五十人くらいの視線が俺に集まる。


 ……あ、なんか緊張してきた。

 言いたい事を頭の中で考えながら、ちょっと深呼吸しよう。

 すーはー。


 …………よし、腹くくった!


「みなさん、僅か一月で村の近隣の開墾を終わらせ、更にこのような立派な屋敷まで作っていただき、ありがとうございました」

「「「シャルニーア様! ばんざーい!!」」」


 俺が一礼すると、村人たちからどっと歓声が沸き起こった。

 そしてそれが静まりきらないとき、大きく息を吸って腹から叫んだ。


「しかし!」


 その一言で、いきなり静かになる。

 アイシャやシレイユも、驚いたように俺を見てきた。


「私は最初に、無理をしないように、と言ったはずです」


 そして一月前、シレイユに連れられて広場で紹介された時にいた男たちを指差す。


「あなたたち、聞いていましたよね?」

「は、はい。しかし我々はシャルニーア様に喜んで貰おうと……」

「良いですか? 何事も身体が資本です。ここで無理をして身体を壊してしまっては、元も子もありません」


 男たちが言い訳をしようとした瞬間、遮ってやった。

 そして畳み込むように追撃する。


「あなたたちが万が一倒れたりしたら、今後どうしますか?」

「…………」


 ここで指した指を自分へと向けて、笑顔で可愛く言ってやった。


「それに私も心配してしまいますよ?」

「可愛い……」「マジ天使」「やべぇ、惚れた」


 男たちがぼそぼそと呟いているが、デビルイ○ーの俺には丸聞こえ。

 男の心理は、同じ男の俺なら余裕で読めてしまう。

 これでこいつら、一生俺の下僕だな。ふはははは。


 ……アイシャからの視線は、冷たいけど。


 こいつには全て読まれているだろう。

 でも、今後この男たちにはやってもらわなきゃいけないことがある。

 ここで下僕を作っておくことで、俺の作戦パート二に繋がるのだ。


「今後このような無茶な事は禁止とさせていただきます。もちろん、シレイユやアイシャ、そしてシレイユを手伝っていただいた十名の方々も同じですからね」

「あたしもなんだ」

「はい、わかりました」


 みながしーんとなったところで、最後に締めの言葉だ。


「でも……みなさん、頑張っていただき心から感謝いたします。これから私を含め全員で村を発展させていきましょう!」


 一気に言い終わってから一呼吸、最高の歓声が沸きあがった。


「おおー!」「シャルニーア様最高!」「一生ついていきます!」「最高の村にしてやるぞ!!」


 その後、アイシャとシレイユが王都で買ってきた大量の食糧を、みなで分けて食べのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「それにしてもシャルニーア様、先ほどの演説はご立派でした」


 引越しも終わり(と言っても俺の私物は全部魔術ポーチの中に入っているので、身一つあればいいのだが)、俺は執務室の椅子に座ってくるくる回っていたら、アイシャが珍しく褒めてきた。


「そうですか、良かったです」

「少々あざとすぎましたが……」

「そ、そうでしたか?」

「……それに私も心配してしまいますよ?」


 指を自分のほうに向けながら、笑顔で俺の真似をするアイシャ。

 不覚にもこいつ可愛い、と思ってしまったよ。

 いや、アイシャは確かに外見は可愛いんだけどさ。


「といった件で、村の女性たちが数人ほど、少し顔をしかめるものもおりましたね」


 そうか、女から見れば、これはあざとすぎて読めるということか。

 うーむ、これから少し控えなきゃ。


「可愛いは正義ですが、やりすぎは同性から受けません。その微妙なラインは今後シャルニーア様の課題ですね」

「つまりラインが分からない場合は、人を選んでやれ、ということですね」

「それ以上の事は申し上げられません」

「お主も悪よのぉ」

「……はい?」


 っと、つい時代劇になってしまった。

 しかしアイシャも可愛いし、きっと昔は大勢たぶらかしたのだろう。

 父ちゃんに会ってる時のアイシャは、猫五匹くらい被っているしな。


「そういえば一つ聞きたいことがあるのですが」

「何でしょうか?」

「この屋敷を建てるのに、どのくらい費用がかかりましたか?」


 これだけ立派な屋敷だ。木材については、近くの戦乱の闇の森から大量に切って持ってこれるだろうけど、調度品や、俺が今くるくる回って遊んでいる椅子は、どこかで買ってくる必要がある。


「金貨二千枚ほどですね」

「えっ?!」


 金貨一枚で百万円。二千枚ということは……二十億?

 それはいくらなんでも高すぎだろ?!

 赴任した時に国王から支度金を貰っているけど、金貨二百枚だぜ?

 その十倍もの金、どっから調達してきたんだ?


「どこからそんなお金が?」

「それは少々下世話な事ですので、シャルニーア様はお考え頂かなくて問題ありません」


 何こいつ、もしかして昨日の用事ってこの金の事だったのか?


「いけません、いくらなんでもお金をかけすぎです。その半分以下の費用でも十分屋敷など建てられますよね? 残りを村の開発に注いだほうが、良いのではないでしょうか?」

「そちらも心配ございません。既に村の資金も金貨二千枚以上確保しております」

「……アイシャ、悪いことしてないよね?」

「はい、決して」

「ならばいいのですけど……」


 本当かよ。

 しかし、こいつはどこかから、金貨四千枚以上も金をせしめてきたんだよな。

 うちの父ちゃんだって、そんな金はそうそう捻出できないだろ。


「それよりシャルニーア様、昨夜は水やジュースはおいしかったでしょうか?」


 突然話題を変えてきたアイシャ。

 しかもそれって……。もしかしてばればれ?


「……な、なんのことでしょうか?」

「いくら水とはいえ、五本も飲んでしまわれてはお腹が冷えてしまいますよ」

「何で知ってるんだよ?!」


 朝まで酒瓶を抱いて寝てたけど、ちゃんとアイシャが来る前に全て瓶は魔術で粉々にして処分したはずだ。

 何でこいつは本数すら把握しているんだ?


「そのネックレスは明日には外れますが、少々仕掛けがございまして……」


 そういって何やら地図っぽい羊皮紙を差し出してきた。

 それを受け取って見ると、この辺りの地図が描かれていた。

 しかも村のちょうど屋敷のある位置、つまり俺のいる場所が赤く点滅している。


 ……まさか、このネックレス、GPS機能ついてるのか?


「すみませーん、このお酒五つください」


 更に昨日、俺が酒屋せいちで言った言葉、一言一句間違えることなく真似してきた。

 まさか音声マイクすらついてんのこれ?!


「ぎくぅ?!」

「いけませんね、銀貨十枚もするものを五本もお買いになるとは。そのお金も村の発展費用に充てたほうがよろしいかと、このアイシャは愚考いたします」

「す、すまん!!」

「しかも、父ちゃんが魔術騎士団ですか。どこからそのような知識を得たのか、このアイシャ、非常に興味がございます」

「は、はうぅぅ?!」

「お酒を飲むのは十三歳になってからです。それに先ほど、村の男たちに色目を使っていたのも、おそらく彼らを使ってお酒を造る計画でも立てようとしていたのではないでしょうか?」


 な、なぜこいつそこまで俺の計画を知っている?!


「そのお顔、やはりそうでしたか。罰としてそのネックレス、あと三年ほど外れないように調整いたします」

「そ、それだけはカンベンしてくれぇぇぇぇぇ」


 そう叫びながら、椅子から飛び降りてアイシャから逃げようとするも、あっさり捕まってしまった。

 そして抵抗する俺の腕を絡めとり、胸元にぶら下げているネックレスに軽く触れる。


「はい、調整終わりました」

「はやっ?!」


 というか、これで俺はあと三年間、酒を飲んでもアルコールは全て分解されることになったのか。

 そ、そんなぁ。


「さて、それでは引き続き、シャルニーア様には是非実験台になっていただきたく」

「こ、これ以上何するんだよ!!」

「シレイユさんが、シャルニーア様の胸を揉まれていた時、確か揉めば大きくなるのは迷信、とおっしゃっておりましたよね」

「え? そうだけど」

「それが迷信か否か、少々私は興味がございまして」

「な、何を……?」

「これから毎日三十分ほど、シャルニーア様の胸を揉んで、計測したいと思います」

「自分の胸でやれよ!!」

「自分で揉んでも楽しくないではありませんか」


 いやそれは確かにそうだ。

 って違う!


「それにシャルニーア様の胸を揉んだシレイユさんが、羨ましかったわけではありませんよ?」

「そうなのかよっ!!」

「ではシャルニーア様、お覚悟を」


 アイシャの黄金色の目が、俺という獲物を捕らえる。

 思わず目から涙を流しながら後ずさりをしてしまった。

 そんな俺の姿を、まるでいたぶる様にゆっくり近づいてくるアイシャ。


「ひっ、やめやめ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




 これは十四歳の小娘に翻弄される元三十五歳のおっさんの物語である。




 ……もうお婿にいけない。






5万文字、なろうコンの締め切りまでにいきませんでした・・・



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