第3話 アイドルvs傀儡師
「魔界で超新星アイドルやってるボクと戦えるなんて、キミはラッキーだね~っ!」
「アイドルだァ? 知らねェなァ……」
そのエリアは周囲の石材が輝いていると錯覚するほど明るかった。
見渡す限り何も無い空間に転移させられたリリカとノイマン、そして〈聖教会〉の神官戦士達は、両陣営とも少し距離を開けて相対している。
「――しかし、やってくれたな。オレ達を分断した上に、ナッシュの怒りをああまで煽るとはな。たしか冒険者のハルトといったか? 少し興味が出てきた」
そんな中、ノイマンが撫で上げていた赤い前髪を手櫛で崩す。
「んん? どうして口調を変えたのかな? もしかして、イタい人?」
途端に変化した雰囲気に、リリカは顎に指を当てながらコテンと首を傾げる。
「いいや、これがオレだ。ナッシュとジミーはオレより厄介な性格をしていてな。頭の悪そうなキャラを演じた方が関係をコントロールしやすいのさ」
「ふ~ん、常に自分を殺して他者を活かす人間なんだ。少しボクと似てるね」
言いながら、リリカは自分の武器を口元に掲げ、ノイマンに人差し指を突き付ける。
「でも、キミ達はハルト様の敵だから容赦しない。だからっ、張り切って撃退しちゃうよぉ!」
「あの男を随分慕っているようだが、果たして奴にそこまでの価値あるかな?」
「…………ンだって?」
想い人を貶める発言に、場の空気が一変した。
笑顔を崩さず素の男声を一瞬だけ漏らしたリリカに対し、ノイマンは得意げに両手を掲げる。
「奴は一つミスを犯した。それは――コイツ等をオレと共に移動させたことだ!」
さながら指揮者の如く両手が振るわれる。指先から編まれた十本の魔力の糸が、無数の神官戦士達に殺到する。
「ぐぅっ!?」
糸に当たった者達は一度力なく崩れた。だがノイマンが両手を指揮棒のように振るった直後、神官戦士達は一人の例外なく目を剥き、筋肉を隆起させて立ち上がった。
「「「うぐぅぅ、グォオオオオオッ!!」」」
「働け愚民ども――【傀儡昇華】!」
ノイマンが人差し指をピクリと動かす。
すると途端にリーダー格の神官戦士が凄まじい速度で疾走。武骨な棘付き棍棒がリリカの頭上に振り下ろされる。
「よっと」
「なに!?」
だがあろうことか、リリカはその一撃をいとも容易く受け止めてみせた。
ノイマンが糸で神官戦士を動かそうとするが、その棍棒はリリカの手と接着したと錯覚するほど離れない。
「一つ、キミの間違いを訂正してあげるよ」
「オレの、間違いだと……?」
「ハルト様が判断ミスをした訳じゃないんだ。キミの相手を願い出たのは、他ならぬこのボクなんだからね」
「ぬおっ!?」
リリカは棍棒ごと神官戦士を持ち上げると、その華奢な見た目からは想像できない剛腕でノイマンの方へ投げ飛ばした。
見た目に反した力強さに、ノイマンは驚愕の色を隠せなかった。
「キミの恩恵はハルト様から聴いて、よぉく知ってるんだ。魔力の糸で他者を操り狂化させる力。確かに悪手だったかもね」
「ふ、ふん。よく知っているな」
「でもね。だからこそ、キミの相手はボクがするべきだと思ったんだ!」
リリカはそう言い放つや否や、大きく息を吸い、
「――作業員の皆ァアアア! 戦う時間だよ~ッ!!」
「「「ほわぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
マイクで拡声された愛らしい声がエリア内に響くと同時。
リリカファンお馴染みの掛け声が轟音の如く木霊した。僅かな遅れもみせず、他エリアに繋がる扉から〈カツアゲ隊〉や他の作業員達が目をハートにして次々と現れ出でる。
「これは、オレと同じ力か……!? 一瞬で戦力差が覆されるとはっ」
「言い忘れてたね……ボクはサキュバス。普段から人の心を動かす仕事をしていてね、これくらいは訳ないんだ」
片や傀儡師、片やアイドル。
手段は違えど、どちらも人を動かす存在だ。
一つ違いを挙げるとすれば――それは人を〝道具〟として操るか、〝心〟で突き動かすかであろう。
「キミには少し親近感が湧いてたんだけどね。人を駒として見てる時点で、キミとボクは一生相容れない。人は、愛で動く生き物だからねっ!!」
「訳の分からない理屈だ。しかし、面白い……オマエの手駒とオレの手駒。どちらがより優れているか、勝負いこう!!」
「手駒じゃない、ファンだよ! 行くよ皆っ――〝フォー・ラブドゥ・ワン〟!!」
「「「ほわ、ほわ、ホワァアアアアア!!」」」
リリカの歌を引き金に、リリカ対ノイマンの戦いは殴り合いの乱戦と化した。
本当なら、ここはもっと加筆したかったァァァァ!
次話も翌日、同時刻ぅ。




