第5話 クロエの過去-残虐の魔王誕生-
『――ハルクリス殿下は死んだよ』
ずっと続くと思われた時間は、その無情な一言で砕け散った。
彼等が、終わらせた。
『……貴方たちは?』
長期休暇で皆が出払っていた時期に、突然迷宮へ現れた異色の四人。
私は胡乱な眼差しで彼等を順に見つめていった。
『い、いきなりラスボスかよぉっ! お、俺は佐々木鉄也っ! 勇者だ!』
『ゆうなはぁ~、河合友菜って言うのぉ。あなた美人さんね~』
『柿崎弘人。なんか、今流行りの異世界召喚らしいですね』
萎縮した地味な男と可愛い娘ぶった派手な見た目の少女、それに妙に澄ました顔の優男。
その顔立ちと服装はこの辺りではまるで見かけない、明らかな異質を感じる。世界に混入してしまった異物、と言ってもいいかもしれない。
だが、そんな三人の隣――
『僕は〈聖教会〉教皇のエリファス。魔王――君を倒す為に彼等を召喚した復讐者といったところかな。王国の裏切り者は始末させてもらったよ』
つらつらと話す、老いた神官。この男だけは違う。
どことなく、王国の民と同じ雰囲気を感じる。曖昧な表現を取ったのは、その男の瞳に激しい憎悪と狂気を感じたからだ。
『そう……』
真実を確かめる為、私は迷わず【記憶投影】を使う。
対象は首謀者らしき神官の男。
目の前に黒い画面が現れると、彼以外の三人が身構えていた。構わずに、記憶を流し読みしていく。
「っ」
そして――理解した。
彼――エリファスの動機と、ハルが殺された状況を。
彼は前魔王である父が焼き殺した教会孤児の神父だった。
子供達の仇を討つ為に復讐を誓ったものの、先に私が殺したため計画は頓挫。やり切れない気持ちを抱えていた矢先に、魔王に娘が居ると知り、代償行為として私へ矛先を向けたようだった。
『……何故、ハルを殺したの?』
動機を理解しても尚、私はハルを殺した理由を訊かずにはいられなかった。
『邪魔だったのさ。ほぼ毎日、君と一緒にいたから特にね』
『たった、それだけの理由で……』
『純真な殿下を殺すのは実に簡単だったよ。人を疑う事を知らない、まさに子供そのものだった』
そう、ハルは卑怯にも騙し討ちされたのだ。
異郷の者の手で。
王子のハルが魔王の侵略に加担していると、エリファスに説明されて。
『そう。…………そう、ハルは……逝ったのね』
この胸を、今すぐ引き裂きたいほどに――痛かった。
悲しみで心が凍えて、上手く息ができそうになかった。
なんとか呑み込もうと深く息を吸った。冷たい感情を身体に馴染ませるように。それなのに、頬に伝う生温かい感触が、ハルの死を強く実感させてくる。
『一五年だ。この時を……ずっっっっと待っていたッ! 後は魔王、君を倒せば王国は救われるッ!』
ハルの死をまだ悼んでいたいのに、エリファスが自分に酔いしれるように身体を震わせる。
『さあ、異世界の勇者達! 神より授かった【恩恵】で、共に魔王を討ち倒そうッ!!』
『へっ、魔王が人間の心配をするのかよ? テンプレじゃないな!』
『王子を誑かしたぁ、王国の侵略者さん、ごめんなさぁい』
『まぁ王国で一、二を争う強さの王子を倒せたんだし、魔王も楽勝でしょ』
王国では今、「ハルクリスは王国の侵略を企む魔王に立ち向かって殺された」ことになっていた。
オネスティ王は私への不信感を最後まで拭えなかったらしい。自傷した彼等と回収したハルの死体を見て、私の討伐を命じたようだ。
彼等の虚偽の報告を信じて。
『何が王族アイよ……何も見抜けてないじゃない』
異郷人達の本質は善の筈だ。ならば、そんな彼等が抱く異郷での不安を煽り唆したエリファスこそが悪なのか?
否、断じて違う。
エリファスを変えたのは、父が原因――なら彼の怒りは、娘の私が全て請け合おう。
『私もハルも……人間と魔族が仲良く手を取り合っていける世界を創りたい……本当に、ただそれだけだったのにね』
でも、父の因縁とハルを殺した事はまた別だ。
人間は殺したくない、だから限界まで抗ってやる。ハルと同じ苦しみを与えて死んでやる――そう思っていた時だ。
『……え?』
不意に、肩を叩かれた気がした。
この場に居る筈のないハルに、「らしくないぜ」と言われた気がして。
冷え込んでいた胸が途端に温かくなる。
――そういえば、次は私が魔王の番だったっけ。
今更ながらに思い出した私は涙と悲しみを振り切り、不敵に笑ってみせた。
『さあ、かかってきなさい。私の名はクロエ。迷宮の主にして魔王の名を継ぐ者よッ――!』
こうして、私は強力な勇者の力に押し負け封印された。
私の予想外の抵抗に、エリファス達は止む無く封印する道を選んだようだった。魔力が抜けていく感覚と共に私の意識は薄れていった。
そして次に呼び起こされた時、私の黒髪は封印の影響で白く染まっていて。
私の知る事実とは異なる世界が、私の関わった出来事全てが歪曲された世界が広がっていた――
「親の因果が子に報い」
クロエの父がおこなった侵略行為が、なんの罪もない孤児たちに死をもたらした。しかし彼の魔王は自身の娘によって殺され、エリファスは憎悪の矛先をクロエに向けるしかなかった……
クロエの回想終了です。
翌日、20時以降に次話投げます。




