第三章 11
「場所は? 白い騎士服を着た連中が、この街に来たはずだ」
「き、騎士かは分かんねえけど、なんかやばそうな奴らはいたよ……王都に行くって言ってたけど……」
(王都に?)
ラウルではないのか? とリヴィアはわずかに思い悩む。
だがこの広い街中を捜索するにはあまりにも時間がない。とりあえずその怪しい男たちの居場所に向かいつつ、周囲を探すべきだろう、とリヴィアは結論付けた。
「そいつらはどこに?」
「ここから二本奥の通りにある、――っていう宿で……」
怯えて委縮する男を残し、リヴィアは奥の通りへと向かった。
街の喧噪はわずかに鳴りを潜め、代わりに危うげな雰囲気に様変わりする。男の言っていた宿を捜し当てたリヴィアは、中の様子を確認するべくそろりと外壁に張り付いた。
一階は酒場らしく、薄暗い灯りの中何人かの男の姿が見えた。それぞれ手には煙草を持っており、騎士団の連中でないことは明らかだ。
(やはり違うか……ラウルは一体……)
他を探そうと、リヴィアはその場から離れようとする。
だがその瞬間、窓の隙間から男たちの低い声が聞こえて来た。
「決行は二日後だ、しくじるなよ」
「ああ。やっとあの王様を玉座から引きずりおろしてやれる」
(何?)
突如発された不穏な単語に、リヴィアは足を止めた。すると続く聞き覚えのある声に、リヴィアは思わず耳を疑った。
「クソが、なんであいつの言う通りに動かなきゃならねえんだよ……」
「仕方ないですよ、レガロの兄貴。あいつの援助がなかったら、俺たちここまで来れてないですから」
(レガロ……!)
かつての誘拐事件を思い出し、リヴィアはぶるりと肩を震わせた。どうしてあの男が、と考えるよりも先に、クラウディオの言葉を思い出す。
(あいつらは『革命軍』だと言っていた。首謀者を処罰した陛下に対して、強い敵意を持っていると……)
そんな彼らが王都に向かうという。
決行は二日後。その言葉が意味するものと言えば――
(もしかして、暴動を起こすつもりなのか⁉)
リヴィアは改めて息を呑み込んだ。体中の血が一気に冷え切り、積み重ねていた思考が白紙に戻されそうになる。慌ててはだめだ、とリヴィアは急いで首を振った。
(落ち着け。まだ時間はある。私がこのまま王都に戻り、事前にクラウディオに伝えて警備を強化してもらえば、最悪の事態は防げるはず……)
その一方で、コサ・リカの存在を確かめなくていいのか、という惑いも生じていた。
彼らの会話を聞く限り、どうやら革命軍には『支援者』がいるようだ。仮にコサ・リカがその支援者であった場合――かつての内通者のような事態になりかねない。
(……どうすればいい。警戒の準備をするならば、出来るだけ早く戻った方が良い。だが今ここでコサ・リカを押さえておかなければ、また同じことをくり返すのではないか……?)
それに第一騎士団の半数がいないという状況も、王都からすれば致命的だ。やはりここはラウルを探して、コサ・リカ共々王都に戻るよう要請すべきなのでは。
ようやく考えをまとめたリヴィアは、物音を立てないよう静かに建物から離れた。空にはわずかに雲が出ており、随分と時間が経ったのを感じさせる。
(急がなくては……こうなれば大きめの宿を一つずつ当たるか……)
この場でいますぐ革命軍たちを取り押さえたい気持ちを抑えつつ、リヴィアは踵を返した。元来た裏路地を戻りながら、残された時間の猶予について考える。
馬は夜目が利くので、深夜にここを発つのは可能だ。
しかし灯りのない街路では上手く指示出来ないため、大変危険なことは覚悟しておかねばなるまい。
(恐れている暇はない。早くラウルを見つけて、クラウディオに……)
だがその瞬間、リヴィアは背後から首筋を叩かれた。
あまりの衝撃に視界には星が散り、リヴィアは思わずたたらを踏む。身を起こし犯人の顔を見ようと振り返ったが、同時に口元を布で覆われた。
「――ッ!」
途端に充満する甘い匂い。
以前も嗅いだ覚えのあるそれに、リヴィアは苦悶の表情を滲ませる。
(まさか、レガロに見つかったのか⁉)
あの時レガロは間違いなく室内にいた。
宿の外にも人影はないと、十分に確認していたはずだったのに。
(こんな、時に……!)
リヴィアは意識を繋ぎとめようと、必死になって息を止めた。
だが羽交い絞める手の力は強く、このまま意識ごと落とされそうだ。何とか逃げ出そうと、リヴィアは半ばがむしゃらに頭を振る。
すると犯人の手から布が落ち、リヴィアはチャンスとばかりにその手に全力で噛みついた。しかし鍛えあげられた男の手は固く、大したダメージは与えられない。
「……ッ」
だが多少は効いたのだろう。息を呑み込む男の声がし、リヴィアは好機に乗じて必死に体を捩った。しかし犯人の拘束を解くよりも先に、再び強い薬品の匂いが漂い始める。
すると今度は布越しではなく、直接リヴィアの口に注がれた。
(――なん、だ、……これは……)
ごく少量の液体であったが、喉を焼くような苦みがする。
そう気づいた次の瞬間、リヴィアはがくりと意識を手放した。







