「ただいま帰りました!!」
多忙にて更新予定がずれましたが、読者数に寄っては最終話まで一気に更新するかもしれません。
二人が一番最初にしたことは……後始末である。
勿論、セイムスが戻って来た、そのことは凄く嬉しいことだったけれど、一人の人間が多数の手を借りて生き延びた、その事に対する様々な手続きを処理しなければならなかった。
まず、救護室の連続使用及び備品の準備(ベッド以外のシーツや香炉及び薬効の高い薬草多種)、それに臨時で彼の治療(?)に当たったカミラへの身体拘束と治療行為(幻術は治療施術として認められない)への対価賠償(これはカミラが頑として受け取らなかったが)等……である。
次に……お金である。シャラザラードが手渡してくれた宝玉等を換金すれば確かにそうした代価を支払うことは容易に処理出来たかもしれなかったが、セイムスから「後で返そうとした時にお金が足りなかったら、返せるものも返せなくなる」の一言で手を付けずに返済に臨む事となり、その金額を見たジャニスは膝から崩れ落ちた。
しかしながら請求書の総額を確認したセイムスが、一ヶ月半程で発生していた未換金分の討伐余剰分を窓口で受け取りそのまま返済に充てた結果、あっさりと返済完了になり、【あー、やっぱり私、このヒトと一緒でよかった!】と改めて実感したようである。セイムス本人は複雑な表情で僅かなお釣りを受け取ったのだが。
そして昼過ぎに漸く諸事諸々の雑多な後始末を終えた二人は、それでも軽い足取りで久々の我が家へと向かうことが出来たのだった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
二人の住む集合住宅は、中央都市の居住地区の中でも静かな緑の多い場所に在り、その代わりに商業地区から若干離れていて《買い出しに多少の時間と体力を要する》事以外は住み易い人気の高い地区である。
今から思えば慌ただしく決めた転居先にも関わらず、結構なアタリを引き当てた……と、思えば確かにそうなのだが、隣のカミラは後から聞けばジャニスの属していた相助組織と縁のある人物だったし、もしかすると最初から仕組まれていた、と思えばそうかもしれない。……違うかもしれないが……。
ジャニスとセイムスの二人は、暫しの間留守にしていた集合住宅に向かって昼下がりの街を並んで歩いていた。
その道すがら、セイムスは地下迷宮に降りて自分を見失い、曖昧な記憶の中……運ばれながら何回もジャニスの名前を呼びながら意識を保とうとしたこと、その最中に【剣聖の呪い】が形を変えて【銀狼の呪い】となって自分を取り込もうとしたことを話した。
ジャニスはセイムスが地下迷宮での単独討伐中に自失茫然となり、辛うじて意識を繋ぎ留めてくれたのが、自分を求めて助けを乞う為と知り、激しく憤り元凶を絶つべく彼の故国に赴き直談判しようとしたこと。
その為に中央都市を脱する手段としてシャラザラードとカミラの助力により、あろうことか森人種の姿に化けて抜け出したこと、そしてお節介の延長で遠隔操作の体で無意識のまま旅をし、【龍】の国のとある街で然るべき面々と会う筈だったのだが、ニケに先手を打たれて自分は蚊帳の外のまま、姉に丸め込まれながらセイムスの危急存亡を知らされて大慌てで取って返し、セイムスの元に駆け付けたことを……手を繋ぎながら話した。
「……珍しいんじゃない?自分から手を繋ぎたいなんて言うのは」
「……だって、幾日も離れ離れだったんだよ?その位、別にいいじゃない!?」
擦れ違う人々に見せつけるように指を絡めて密着するでもなく、無邪気な子供同士が友情の証しとして繋ぐ風でもなく、ただジャニスは今まで離れてしまっていたお互いの距離を埋めたくて、掌を合わせて手を繋いだ。
そしてセイムスがジャニスに何か言葉を掛けようと口を開いた瞬間、ジャニスの背後を一人の犬人種の男が通り過ぎようとしていた。彼は《先祖還り》特有の銀色の毛並みを靡かせ、頭の登頂部にある耳の毛先だけは濃い茶色で、その組み合わせに漠然と記憶の欠片を呼び起こされるような気がして、彼は相手の顔を確かめようと思ったのだが、俯き顔を伏せたまま擦れ違う瞬間にただ一言、
「……セイムス君、うちのジャニスの事を宜しく頼む……」
それだけ口にすると、現れた時と同じように人混みの中へと消えていった。
その声を無意識で聞いていたジャニスは、声の響きと姿、そして二人の名前を知っていた事により意識が覚醒し、我知らずその後ろ姿を探そうと振り向いたのだが、やがて諦め、暫くその場で立ち止まり、セイムスを見つめながら、
「シム……あの人はたぶん、私の父さん……だと思うよ……」
それだけ伝えると、父親らしき男性が姿を消した方向をジッ、と見詰めるジャニスを凝視していたのだけど、突然彼は大きく息を吸い込んだかと思ったその直後……、
「……お義父さんッ!!ジャニスの事は必ず幸せにッ、しますッ!!!」
と、叫んだので、ジャニスは思わず飛び上がり慌てて彼の口を塞ぎ、
「きゃあ~ッ!!何て声出してんのよっ!?……もう……」
狼狽えながらその場を立ち去ろうとしたが、折り悪く周囲の店や通行人から口々に「おっ!?あんたら新婚さんか!!」「妬けるねぇ~♪」「奥さん美人だね!!」等と言われて囲まれかけ、ジャニスは真っ赤になりながら顔を伏せ、兎に角その場を後にした。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
「も~ッ!!本当にあーゆーのは止めて頂戴よねっ!?恥ずかしいから……ホントにお買い物行けなくなっちゃうじゃないの……」
市場の雑踏が途切れる緩やかな坂道を登りながら、ジャニスはセイムスの手を強く握り締めて、視線を外しながらブツブツと呟いた。
「イタタタタタっ!!判ったから判ったからっ!!……もう、ジャニスが嫌がることは控えるよ……でも、伝えたかったことをハッキリと言えたから俺は……あああああぁ~ッ!?」
セイムスの掌に掌を合わせながら、五本の指を握り込み内側に力を掛けて、ジャニスは渾身の力を奮い彼の左手を締め上げる。
「……あのねぇ?……場所柄を(ビキッ)、考えてぇ(ビキビキッ)……しましょう(ピキビキッ)……ねぇ(グギッ)?」
「……判ったから、もう言いませんから……」
「もう……そうじゃなくて、場所柄を考えて……だからね?……別に言ってたことは嬉しかったんだから……」
痛さの余りに繋いでいた手を離し、痛みを散らすように手を振るセイムスに(やり過ぎたかな……?)と思いつつ、それでもジャニスはまた同じように掌を重ねて手を繋ぐと、セイムスは苦笑いしながらもやっぱり、掌を合わせて優しく握り返してくれたので、つい嬉しくて自然と笑みが零れてしまう。
やっと坂を登りきると、麗しの我が家……二人の住む集合住宅が見えてきた。それぞれの玄関先にある小さな植え込みの前で、アラミド家のグラスと二人の子供達、ナノとカーボンが一輪草や夜露花の苗を植えていた。
「……あっ!?ジャニスちゃん!!それにセイムス君も……よく無事で……っ!!」
「おねーちゃん!おにーちゃんおかえりなさ~い!!」
「おかえりなぁーい!!」
グラスは大方の事情は知っていたのか、二人の無事を嬉しそうにしながらもやや涙ぐみながら、そして子供達は無邪気に挨拶をしてくれた。
「……あら!随分と早いお帰りね!……ともかく、二人共お疲れ様ねぇ♪」
各々の声を耳にしたからか、扉を開けて大柄な鬼人種のエランが娘を抱きながら姿を現して、二人の帰宅を出迎えた。
こうして少々騒がしく、少々お節介なご近所方に無事の帰宅を告げながら、二人は一緒に玄関の扉を開けて……、
「「……ただいま帰りましたっ!!」」
と、元気よく帰り着いた。
長かったこのお話もとうとう残り一話となりました。




