再会
長くお付き合いしていただいた当作品も、後数話で完結いたします。それまで頑張ります。
馬から降りて中央都市の外郭門へ走り寄り、手にした通行手形を取り出すのももどかしく進もうとして、自らの姿が未だ森人種のままだと気が付いたが、それも捨て置いて走り出した。
セイムスの呪いがどの程度のものになっているのか、それ以前に彼は無事なのか?それを確かめたくて、地下迷宮入り口傍の待機所へとひたすら走り続ける。
息が切れ、眩暈がするけれど脚を緩めず走るジャニスが待機所の救護室に到着したのは夜闇に辺りが包まれた頃であった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
よろめきながらやっとのことで到着したジャニスを最初に出迎えたのは、受付嬢のシャラザラードだった。
「……あっ!!ジャニスさんッ!!……ですよね?……たぶん?」
シャラザラードはジャニスの姿を確かめる前に、その身に帯びた個人毎に異なる魔力の波動を感じて声を掛け、しかしその姿を見た瞬間、幻術に依る変化で森人種になっていることに気付かず戸惑うが、
「はぁ、はぁ、はぁ……んと、シャラザラードさんッ!!シムは……セイムスはっ!?」
その声を聞いて確信し、こっちよ!と彼女の手を引いて共に救護室へと導いて行く。
「……セイムスが……何かあったって……報せが……あって……っ?」
息を整えながら質問しようとするジャニスの目の前に手を上げ、彼女の言葉を遮るシャラザラード。救護室の手前にある救護員の詰所へとジャニスを導き、救護員に声を掛けてコップに注がれた真水を手渡してから、
「……いいこと?まず、それを飲みなさい」
「はぅ!?……こ、これを?……んぐっ……」
ジャニスは真剣な眼差しのシャラザラードに気圧されて、とりあえず一口飲み、しかしその真水の冷たさに意識を取り戻し、昼に川で水を口にしてから何も喉を通していなかった事実を思い出し、我を忘れて一気に飲み干した。
「ふっ、はああぁ……も、もう一杯頂けますか?」
「あら?……やっぱり!……フフフ♪……ちょっと待ってね?」
シャラザラードはそう言いながら再度真水を満たしたコップを手渡して、ジャニスが今度はゆっくりと味わうように飲み干す姿を眺めながら、彼女が落ち着くまで待っていた。
「……くはあぁ……ずーっと、水も飲まずに走ってたこと、忘れてましたぁ……」
「そう?でしょうね……それじゃ、ついでに貴女、【解除の呪符】を持っているかしら?」
……あ、そうでした!と気付き腰に提げた小物入れの中に仕舞ってあった呪符をシャラザラードに手渡す。受け取った彼女がそれを手に持ちながら何事かを呟くと、呪符は宙に舞い煙も出さずに青白い焔をメラメラと上げながら燃え、ふっ、と消えて無くなってしまう。
その瞬間、ジャニスは全身から何かが抜け落ちて消えるように感じ、そうかと思い出して自らの耳を手で掴むと、今まで有った森人種特有の尖った長耳は消えて無くなり、換わりに馴染み深いモフモフとした手触りの毛に包まれた耳が頭頂部に現れていたのでホッとする。
「……さて、ひとまずこれでよし!改めてジャニスさん……おかえりなさい!」
そう言いながらシャラザラードは小柄な彼女を抱えるように抱き締めて、そっと毛長耳と頭を優しく撫でる。
「……色々あったし、セイムス君のことも気になるでしょうが……貴女!髪の毛はワシャワシャだし砂まみれよっ!?待ってなさい今すぐ櫛梳るから!!」
「えっ!?だってシムが……シムがぁ~っ!!」
「言うこと聞きなさいッ!!セイムス君は逃げたりしないわよッ!!……だから、身嗜みを整えるの!……久々に愛しの彼氏と再会するんでしょ?」
「だって!!……でも、……わ、判りましたよぅ……」
シャラザラードの提案に抗うジャニスだったが、語気強く主張されて仕方なく従うことにした。詰め所の片隅で椅子に座らせて、シャラザラードはジャニスの髪の毛を櫛梳り始める。
「……しなやかで、しっかりしてて……でも、強くて腰もあるし……ウフフ♪まるでジャニスさんそのものよね?」
「えっ?は、はぁ……有り難う御座います……そうですか?癖ッ毛でなかなか言うこと聞いてくれないって、自分では思ってたんですけど……」
最初は何を言っているか判らなかったが、自分の髪質を褒めてくれている、と気付いたジャニスは照れ臭くなってつい俯いてしまう。
「さてと!……折角の再会なんだから、せめて口紅位は引いておかなきゃダメよ?」
そんなジャニスを励ますように、シャラザラードはそう促しながらどこから取り出したのか、小さな手鏡を差し出して彼女の顔を映してやり、
「えっ!?……うぅ……そう言えば最後にお化粧したのは……いつだったっけ!?」
慌てて小物入れを引っ掻き回して愛用の小貝の紅入れを取り出して、小指に載せてから、そっと紅を引く。
(…………何でだろう……離れてたったの数日なのに、何でこんなにドキドキするんだろう?……罪悪感?……それとも、恐怖心?)
次第に高鳴る鼓動を意識しつつ、ジャニスは口紅を馴染ませてからシャラザラードに頷き、セイムスが居る部屋の扉の前へと立つ。
「……ジャニスさん、最後に伝えておくけれど、セイムス君の姿に……驚いちゃ駄目よ?」
「はい!例えどんな姿になってても、私は……セイムスを必ず……取り戻しますッ!!」
シャラザラードに忠告されながら、ジャニスは固く決心しつつ扉のノブに手を掛けて、静かに扉を開いて中へと進んでいった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
……一瞬、あまりの異臭に意識を失いそうになるが、気を取り直してもう一歩進み部屋の奥へと向かうジャニスは、暗闇にだんだんと眼が慣れてくるに従い
香呂から昇る煙が臭いの一つの原因と判り、少しだけ安心する。
そんな彼女が、視線の先の見慣れぬソファーに身を横たわらせている何者かに気付き、そっと近付いてみる。その銀色の毛皮を被せた変わったソファーに寝ていたのは、見間違えようもないカミラだった。
「かっ、カミラさん!?どうしたんですかこんな場所で!!」
肝心のセイムスの姿が見えないことを不審に思いつつ、最後に彼の危機(具体的に何なのか今だに判っていないのだが)を報せたカミラならば、何か知っている筈である。そう信じて彼女の側に近付いてみる。
……と、その姿の妙な点に気付いたが、同時に彼女もゆっくりと瞼を開けて目を覚ましたのだ。
(……なんだろう……ゆっくりと身体が上下動していた筈なんだけど……)
ジャニスは一人そう悩みながらも警戒心だけは手放さずに、兎に角セイムスの姿を見たくて彼女はカミラに飛び着きながら口を開いた。
「カミラさん!!……あ、起きました?」
「ムニャムニャ……もう……まだまだ私は……食べ足りませんからね……♪」
……寝惚けているらしきカミラを揺らしながら目覚めさせようと、ソファーに跨がったジャニスは……驚愕の事実を知ることになる。
「……あれ?これ……ソファーじゃないの?」
……それは誰もが知るクッション付きの長椅子等ではなく、銀色の毛皮に身を包んだ、巨大な一頭の狼であった。
それでは後少しですがゆっくりと物語は進みます。




