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楽して進める旅路無し

ラスト御盆!って言うのでしょうかね?……さて、ジャニス達はサボルトと遭って何を言うつもりなんでしょうか?



 ジャニスは怒っていた。それはそうだ。こんな格好、恥ずかしくてセイムスに見せられない……胸元はパックリと開いて谷間丸出し(だが体型補正でやや縮み気味)、そして肩にヒラヒラと浮わついた飾りは有る癖に脇の下は肋骨付近まで切れ込みが入ってスースーするし、何よりも彼女を困惑させたのは、一際目立つ前と後ろに腰から垂れ布が有りながら腿の付け根から下に、一切の隠す布地の無い……この意味不明な意匠に尽きる!!おまけにお尻の形がクッキリ判る位のピッチリとした薄手の生地……何故か若草色で統一されたその服は……まぁ、確かに……可愛いと問われれば、まぁ……可愛いのだけど……。


……でも!尻尾を出さないように背中に回しているからどことなくモゾモゾするし!それに背中が蒸れて気持ち悪い!!


それにしても、この衣装の持ち主(何故こんな服を持っていたのか)のカミラ曰く、


「森人種はその身体を巡る高い魔力に因り、常に体温を下げるべく薄手且つ穴空き部分の多い服を好んで身に付けているのよ!」


……と、言っていた。今から思えばアレ……絶対にウソだ。



ついでに言えば、同行している二人の男共は私のこの格好を見ても、何一つ言ってこない!褒めもしなければ笑いもしない!!恥ずかしがっている私だけが馬鹿みたいじゃない!!




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……そ、そうだったの?ふ、ふーん……」


狐鉄から「お前は相変わらずヒトの話を聞かないな」と釘を刺された後に説明を受け、渋々ながらも自らの落ち度を認めつつジャニスは相槌を打っていた。


「まぁ、それはともかく……コイツら『(ドラゴラム)』の工作隊……通称【キツツキ】さ」


「【キツツキ】……?どう見てもそんな細い連中には見えなかったけど……」


アホだなぁ、と呟きながら屍の中に混ざる彼等の身から幾つかの包みや革袋だけを剥ぎ取ると、三人は無駄な接触を避ける為に足早にその場から立ち去りつつ、話を続けていた。


「キツツキって言うのはな、小さな嘴で大木に穴を開けるから、転じて小さな労力で大木すら倒す、って意味に捉えて付けられたって噂さ。まぁ、それはそれとして、例の【牛と牧童亭】ってのは……行けば判るが、あの軍団長らしい選択……って所だ。期待しとけよ?」


それから半日程掛けて小さな町に辿り着きそこで一泊した後、乗り合い馬車に乗り込んで一日半揺られて、次の町へと辿り着いた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



夕方前に辿り着いた三人は、ジャニスの願いで宿から暫く歩いたその先にある、とある目的地へと向かっていた。


「風流だの耽美だのって柄でもないのに珍しいな……ジャニ坊が景色を眺めたいから散歩しよう、なんてよ」


狐鉄の言葉を余所に、ジャニスは無言で町外れの林を抜けて目的地へと向かって歩き続けていく。そして不意に視界が開け、町を見下ろす小高い丘へと差し掛かると。そこには立派な大木が、あの時と同じようにそそり立っていた。


「ふーん、大きな木だな。しかし、お前はいつから木なんて見るようになったんだ?俺には只の木にしか見えんがな」


「狐鉄、私だって別に、木を見たくてここに来た訳じゃないし……うん」


そう言いながら木の下に腰掛けると、左手薬指の銀の指輪を抜き取り、内側に填まった青く耀く宝石を指で撫でながらジャニスは語り始める。


セイムスと二人で、如何にしてこの木の下まで辿り着いたのか、そしてこの木の下で彼から何を伝えられながら指輪を託されたのか……を。


「ねぇ、この指輪に付いてるサファイヤって宝石……どんな意味か、知ってる?」


「……誠実、又は一途な愛(※①)……だったか」


リューマの言葉を聞いて、ジャニスは眼を見張り、狐鉄はひゅう♪と口笛を吹く。


「あは♪リューマさんってば博識~!」


「いや、何と言うか……たまたま知ってただけだ」


若干照れながら、リューマはジャニスに言葉の続きを促す。


「まぁ、それはそれとして……セイムスも、そしてお母様も……そんな言葉は知らなかったと思うの。でも、今は不思議と腑に落ちると言うか……凄い偶然の一致と言うか……だって、考えてみてよ?」


そう言いつつ指輪を填め直し、夕陽に染まる空へと差し上げながら、


「……亡くなる寸前にお母様から受け継いだ指輪を……自分の正直な気持ちを籠めて……私へと贈ってくれたの。それを……【誠実な愛】で答えるって訳でしょ?……って、私ったら何を言ってるんだろうね?……もう……」


と、照れながら披露したジャニスを、リューマは鼻をスン、と鳴らし、そして狐鉄は……ジャニ坊のくせに……と一瞬だけ言葉に詰まりながら、


「……ま、受け取り方ってのは人各々さ…… まったく、ジャニ坊の癖に良く考えて言えたじゃねーか?」


「……セイムスは、幸せ者だな……俺には、それしか言えん」


とだけ言った後、沈黙したままで三者三様に沈む夕陽を眺めていた。



「で、ジャニス。この後はどうするつもりだ?」


リューマの問い掛けに、彼女は珍しく即答するのだった。


「小細工は要らない、正面から堂々と乗り込むつもりよ?」




(※①)→サファイヤ等の比較的新しい宝石には、人々の思いによって様々な意味合いを持たされています。当初は更に新しく発見された宝石を登場させようとしましたが、地名等が名前に有る場合が多い為見送りました。因みに不誠実な女性が持つと、サファイヤの色が濁る、と近代まで信じられていたそうです。彼女なら全く問題無し、だと思いますが。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「もうじき秋風も吹き始めて、麦の穂も黄金色になって垂れる季節になる。なぁ、そうだろう?」


サボルトは正面に座っていた小柄な中年男の問い掛けに、無言のまま手にした杯を干す。長期間の行軍訓練の後であるならば、久々にこうしてゆっくりと飲める酒の味は決して悪くない筈なのだが、今日この時だけは違った。


「……ニサキス、あんたがしくじったせいで、そんな呑気な話が出来る状況じゃ無くなっちまったんだぜ……判ってるのか?」


苦虫を噛み潰したような表情で、サボルトは吐き捨てる。彼等はジャニスが動き出すのと同時に、セイムスの【剣聖の呪い】が新たな領域へと到達したことを探り出していた。つまり、ジャニスの生死に関わらず二人を引き離して彼を手元に取り戻しさえ出来れば、超人的な強さを持つ恐るべき存在を手にすることとなる筈だったのだが、


「……そんなことは百も承知だ。だが……まさかセイムスが【中央都市】の待機所の処置室に幽閉される事になるなんて……誰が想像できると思っている?」


ニサキスも同様の苦渋に満ちた顔で、手にした杯を弄んでいた。処置室とは、地下迷宮で遭遇する様々な魔物からの傷や毒、或いは呪いといった人智を超える様々な症状を抱えた討伐者を看護すると同時に、その症状を分析する役割も担っている、との噂もある。

当然、セイムスが何かの呪いに侵食されている、と判明しているのであれば、放置されはしまい。いや、それどころか肉体を仮死状態にでもして症状に歯止めを利かせよう……等と画策されたなら、こちらの筋書き全てが御破算になってしまうのだ。


ならば、自分達でセイムスを取り返すのはどうか、と言えば……それは不可能だ。【特別討伐者】の待遇は伊達ではないのである。もし、こちらが兵を募って中央都市に乗り込めば、きっともう片方の『武装商工組合』が黙って居まい。またあの切れ者の犬耳女が張り切って割り込んでくるだろう。



……と、二人で内心愚痴り合っていたのだが、不意に店の外が騒がしくなると同時に、即座に静かになる。


「……おい、サボルト……アンタは外に部下を連れて来ているのか?」


「俺は外に部下を立たせて、自分だけ飲む程に性根が腐っちゃいない。……そっちはどうなんだ?」




「……あーあー!全然駄目!!……弱いうえに根性無し……つまらないことこの上無し!」


バン!と勢い良く両開きの扉を蹴り開けて、まず最初に聞こえたのは、威勢の良い女の声だった。


(……この声……聞き覚えがあるぞ……!?)


サボルトが黙り込む中、扉の向こうから派手に宙を舞いながら人間が飛んで来て、店のテーブルや椅子を弾き飛ばしながら床へと転がる。見るとその人物は、ニサキスの部下で、セイムスの女とやらを捕縛しに向かわせた隊の中隊長であった。


「うぉっ!?ど、どうしたルモネラ!!って、生きてるのか……?」


ぐったりとして動かない彼を見て、死んでいるのかと思ったニサキスだったが、どうやら辛うじて息はあるようだ。


「その程度で死にはしないが……アンタら、本当に兵士なのか?歯応えが無さ過ぎるぞ……」


扉を押し開けて最初に入ってきたのは、鬼人種(オーグ)の男、そして二番手は背の低い森人種(エルブ)の女……その女が先程自分達を罵った張本人だろう。


「まぁそう言うなってジャニ坊。【キツツキ】が鷹や鷲より強かったら世の中狂っちまうだろう?」


最後に現れたのは、全身黒色で統一された歩く闇のような線の細い男だった。だが、その男の腰に提げられた朱塗りの短刀は、知る者ぞ知る『血吸いの小刀』。持つ者とは決して一対一で相手してはならない、と畏怖される化物じみた連中が提げる凶刀である。



……サボルトは、目の前に立つ三人が、どんな目的で現れたのか、皆目見当が付かなかったのだが、不思議と恐怖心はなかった。

何故ならば、彼は過去に似たような状況に遭遇していたのだが、生憎とニサキスはそうではなかった。



部下を寄せ集めて狼藉者共を排除しようと立ち上がりかけたその時、真ん中の女が手を差し出して指先を左右に振り、彼を制止しながら、


「……大人しくしてれば、命は取らない……ま、それも気分次第なんだけど、ね」



次回に続きます。物語はゆっくりと進む予定です。

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