期間限定……?
すみません。夏なんで。
様々な人々が集まり交差する中央都市。そこは種族の坩堝であり、境遇や立場の異なる者同士が肩を並べて生活している。
ちなみにやや離れた山脈の先には【神々の住まう塔】があるらしいが、人跡未到の山々を抜けなければ到達出来ないらしく、そこに行って帰った者は無い。
さて、そんな中央都市には【人喰い】と渾名された地下迷宮が在り、討伐者達を日々待ち受けていた……表向きは。
実際は、その迷宮から溢れ出す魔物を採掘し、その魔物自体を資源として活用。極稀少金属のオリハルコンやティターン等、この地下迷宮でしか産出されない物質も有り、中央都市は過去のどんな都市にもない栄華を迎えつつあった。
だが、そんな単坑型複数並在地下迷宮の【人喰い】には、一部の者しか知らない秘密が多数存在していた。
……その一つが……謎の地下迷宮【ト・コ・ナツ】である。
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「……シャラザラードさん、本気で言ってます?それ……」
「何言ってるのよ!私はこう見えても中央都市地下迷宮地区管理役補佐及び……まぁ、偉いしそれなりに権限もあるの!その権限の中に《新規地下迷宮探索統括役》の肩書きもあるのよ!……その、偉いから!!」
全く偉そうに見えない威張り方をしつつ、長い髪の毛を袋状の網で纏めてピンで留めた(貴族に流行っている髪型らしい)彼女はそう言うと、ムッとしながらも気品溢れる優雅な物腰で、【がっつり生姜焼き肉ともっさりチーズバーグのダブルバーガー】と言う強者のみが口にすることを許された、強烈極まりない肉と肉のぶつかり合い……ええっと、つまり……そんな物体にかぶりついていた。
「まぁ、それはともかく……なぜ、その【地下迷宮探索】を、俺やジャニスに任せるんですか?……知識と経験に溢れた適役が幾らでも居るでしょうに……」
セイムスは目の前で繰り広げられている、優雅な昼食のひとときに圧倒されつつ、比較的まともな【お得なダブルドッグ・しかし付け合わせはきっちり野菜満点】を摂取しながら話を聞いていた。
かいつまんで説明すると、ジャニスと話し合い、たまには長い休みを取ってみよう、そう考えたセイムスは【討伐者保護及び保養条項】に明記された《十日に一度は休みを取ること》を拡大解釈し、それなりに長い休暇を申請することに決めて窓口を訪ねたのである。
すると名物受付嬢(こう呼べ!と彼女は常に言っている)のシャラザラードが彼を見るなり一言、「……ここで話すのも何だから、ランチがてらお話したいことがあるの」と言いながら休暇申請を二分で処理し、窓口に【休憩中・隣の窓口へ!】と札を掛けてから彼の腕を引いて、その店に向かったのだ。
店に入るなり比較的目立ち難い奥の角に席を取り、運ばれてきたメニューを一旦お互いの前に……置く振りをしてから、何故か周囲をチラッと盗み見した後、素早く取り替えてから、肉類の摂取を開始し始めたシャラザラードに、
(……種族的なイメージとか色々気にしてるみたいだけど、あなたの肉食偏愛家っぷりはみんな知っているし……)
と、素で思いながら食事に付き合うことになったのである。
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「……その地下迷宮が出現したのは一ヶ月前……分岐の間の一角に突然現れたの」
シャラザラードは手にした書類から【ト・コ・ナツの地下迷宮】と記された一枚を取り出すと、俺に説明してくれる。
「そのダンジョンの入り口には一枚の扉が有って、そこに古王国(※①)文字でダンジョンの名前と、《ダンジョン五人小人二人のみ》と刻まれていて……そこから先には足を踏み入れることも出来ないのよ……」
「……《ダンジョン五人小人二人のみ》ねぇ……扉には鍵とかはなかったのか?」
そう訊ねると、首を振りながらシャラザラードは困りきった顔で、
「残念ながら扉には鍵も何もないのよ……ただ、何らかの魔導印が施されているみたいで、近付く者に感応して何かが発動する気配はあるそうよ。ただ、専門的知識を持った探索者達が挙って踏み込んでみても何も変化なし……わざわざ鉱人種も小人かなって混ぜたりしてみても……ダメだったわ……」
そう言う彼女の力の無さを見て、セイムスはもしやと思い、
「……もしかして、シャラザラードさんもそこに行ったの?」
「行ったわよ行かされたわよ!!魔導技術の心得有る者全員に召集かかったんだもん!!お陰様で今食べてるのが丸一日振りのご飯よ!!全くブラック業務だったわ!きぃ~ッ!!」
相当頭に来ていたらしく、色気も何もない状態で肉まみれなハンバーガーにかぶり付き噛み千切り、もしゃもしゃと咀嚼するシャラザラード。
そんな彼女の年輪の欠片も見えない素振りに子供っぽさを感じ、違和感を持ったセイムスだったが……、
……あれ?……それってもしかして、
セイムスは自らの解答をシャラザラードに告げた。
「……嘘でしょ?」
呆れながら彼女はそう一言だけ言うと、やけくそな勢いでハンバーガーを食べ尽くしてしまった。
(※①)→古王国。名称はないが、この世界ではいにしえの昔に大陸全土のみならず様々な土地をも平らげた超大国が存在していた。魔導技術が発達し、奇跡の技を用いて水中都市すら作り上げた……とも言われている。現在、この世界に流通している通貨の大半がこの古王国が全土にばら蒔いた物で、そのことだけでも規格外の影響力を保持していたことが窺える。
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「……と、言う訳で、皆さんに集まってもらいました」
迷宮探索の装備のセイムスの前には、ジャニスとアラミド一家、そして本人も何故そこに居るのか全く理解していないカミラが居た。
「あの~、私は何でここに居るのでしょ~か?ねぇ、教えて貰えない?」
カミラの質問に……セイムスは沈黙したまま、言葉を続ける。
「……未知のダンジョンであり、その詳細は未だ謎に包まれたままです。その為、特別に専門家としてアラミドさんとグラスさんの二人にも同行して貰うことにしました」
「いきなり家に来て、《どうしても皆さん全員の協力が必要なんです》と言われれば……お隣のよしみで力は貸すとして……何故、うちの家内とこの子達も必要なんだい?」
セイムス同様の装備を身に付けたアラミドとグラスは、やはり慣れた様子で各々の着装位置を正したりしているが、ナノとカーボンは手ぶらだった。まぁ、それは当然であるが。
「ですからぁ!!私は何で!ここに!居るんで!しょーか!?」
両手を振り振り尻尾もブンブンと振りながら、必死になってアピールを続けるカミラに、セイムスはにこやかな笑顔で一言、
「……人数合わせです」
「マジでっ!?」
それだけ言ったカミラは、諦めたのかしぶしぶ手渡された軽装防具を身に付ける。と、言っても彼女は幻術使い。身の動きを阻害するような装備は付けられない為、薄手の革当てを羽織り(しかも前ははだけたまま)、何時もより少しだけ丈の長いパレオを巻いただけだったが。
「……で、シム、私も聞きたいんだけど……これ、何?」
ジャニスは手渡された装備を手にし、セイムスに真顔で尋ねる。彼女が持っていたのは、部分鎧の一種と思われるが……いかんせん面積が少な過ぎるのだ。
「……それ?あぁ、《びきにあーまー》とか言う魔導呪印を施した軽騎士用の特殊な鎧らしい。シャラザラードさんが今回特別に貸してくれた武装とかで、身に付けた者を物理的且つ魔導的に何となく守護してくれるそうだ」
セイムスの言葉にやはり諦めたのか、しぶしぶその物体を持って指定された更衣室(そんなものも待機所にはある)へと消えたジャニスだったが……、
……それから、十分後。
「いやぁ~ッ!!こんなん着ちゃダメに決まってるでしょ~ッ!!」
黄色い声で絶叫するジャニスの姿は……、そう!!
この物語唯一のキャラ絵そのままでした!!
(第五部分・「ジャニスが【邪剣】になった時」挿絵参照)
うん、書きたかったのは最後のシーンだ。ま、それでも毎度ながらゆっくりと進みますです、ハイ。




