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たまには息抜きくらい。

セイムスに違った形で恩返しをしたいようです。



 セイムスと囲む食卓。彼が話す地下迷宮での出来事は、まるで変わった色の羽根を持った小鳥を散歩途中で見つけたように、肩肘張らない気楽な口調で説明してくれるので、ジャニスには楽しくて仕方がない。


慣れて来たそんな朝の風景は毎回、玄関先での人目を憚りながらの【……おまじない!】で一区切り(毎回どこかから……うーん、今朝も長いわぁ♪とか呟かれる)。



……だからこそ、ジャニスは幸せをぶち壊すような奴が現れた時は、絶対に許さないし、そんなことは全力で阻止するつもりである。


喩え手元に包丁一本のみしか無かったとしても、そうするのだ。



……等と構えてみても、オリハルコン合金の包丁なんて果たして世界に何本あるのだろうか?生半可な武器より信頼出来るし、若干刃渡りが足りないのはお愛嬌……かもしれない。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



ジャニスはこの一週間程で幾つかのことを学んだ。その一つが、なぜ世間にオリハルコン合金の包丁が出回らないのか、だった。


「……あ、やっぱり安いまな板で正解だったみたい……傷が目立ってきたし、たぶんあんまり持たないかぁ」


小気味良くリズミカルにトントンと野菜を刻みながら呟くジャニスは指先で、包丁が確実に《野菜とまな板を切り刻む》感触を味わっていた。まな板は木製だし細かい破片だとすれば気にする程の変化にはならないだろう。


しかし……食材を刻む回数が多ければ多い程、食材にまな板の破片が混入する量も増えていくし、それ以前にまな板がデコボコになって刻み難くなるかもしれない。ジャニスとセイムス位の家族構成ならば心配ないが、これから育ち盛りの子供達が増えていったとしたら……、



「……子供達かぁ……まぁ、そのうちだろうけど……こ、子作りだよね……うん、う……危な!」


一瞬だけ上の空になったジャニスの指先で、包丁が雑に動き肝を冷やす。ほんの少しだけ爪を掠め取った包丁は昨日と全く同じ切れ味……それだけは確かに凄いことなんだろうけど、軽く振るうだけで骨付き肉も容易く切断出来る鋭利さは、我が身で体感したくは絶対に……無い。



そして、更に一つ。それは学んだこと、と言うよりも……、


「おはよーございます!」「おはよージャニシュさん!」「おはよーじゃにゅちゅちゃん!!」


主婦業とは、お互いに大体同じ時間帯になると暇になるようで、相変わらず愛くるしいもふもふ二人を引き連れてグラスがやって来る時間は、ジャニスが夕食の下準備を終えた頃だったりする。



玄関で出迎えるとナノが一番目、そしてカーボンと何故かグラスさんまでジャニスに飛び付き御約束の「御挨拶」になる。それは種族としての習慣、つまり……、


「じゃにゅちゅちゃん、きょうもいーにおい!」「セイムスのにおいするー!」【……まだみたいですね……ウフフ……♪】


……《匂い分析》である。ナノとカーボンは単純にクンクンうふふ~と微笑ましいけれど、グラスのは何らかの意図を持って探る分析のようで……正直怖い。


「あ、あの!……今日は行ってみたい所があるので……お付き合い願えませんか?」


「……行きたい所?どうしたの急に」

「いきたいところ~?」

「じゃにちゃんいきたいとこ?」


ジャニスに聞き返すグラスと子供達。そんな三人に彼女は予想もしなかった場所に赴くことを提案する。



「中央都市の【観光名所】って感じの場所に……行ってみたいんです」


所謂【デートコース】の下調べのようでした。


「ち、違うから!セイムスとまだ一度も買い物以外で出掛けたことないし……もっとその……」


「ふ~ん、ジャニスさんもすっかり変わったわねぇ。最初に会った頃はもう少し距離感があったって言うか……人を寄せ付けないみたいな雰囲気出てたし」


そう言われると反論のしようもなかった。あの頃は誰に対しても警戒心があったし、不馴れな場所で二人きりの生活を始めなければならないプレッシャーも確かにあったのだ。


そんな訳で地の理に長けたグラス親子に頼んでデートの下調べを始めるようです。


「だから……違うんだって言ってるのに……」



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



中央都市の外縁部に位置し、一際賑わう一画へとジャニスとグラス親子はやって来た。


「あ、グラスさんアレは何ですか?……水晶?」


ジャニスが指差す店先には、大きな半切りの樽に冷たい井戸水が張られていて、そこに円錐形の透き通った筒が浮かべられていた。水滴が付いたそれは売り物らしく時折客がやって来ると、売り子の娘が手渡ししお金を受け取っている。


「ん?あー、ジャニスさん見たこと無い?あれは……」




……数日後。セイムスを伴ってその場所を再訪したジャニスは、同様に不思議がる彼と自分に一つづつ購入し、売り子から栓のような風変わりな物を手渡され、一度体験したジャニスは得意気な顔でそれを手にし、


「シム……いい?こうやって、ここに宛がってそれからこうやって……えいっ!!」


筒の上部のへこみ部分に栓を宛がい勢いよく叩きつける。すると……、


「うひゃっ!?ひええぇ~っ!?」


前とは違い、勢いよく透明な液体が噴出し、ジャニスはそれを顔面で受け止めてしまった。暑い盛りの時間帯であり、着ている物も比較的薄着であったので被害はそれほどでもないが……、


「ジャム、大丈夫?……って、何だか甘い匂いがするね」


「……あ~ん、びしょ濡れぇ……まぁ、暑いからいいけど……」


イヌ耳から雫を滴らせたジャニスは白いブラウスだったので、周囲の視線を集めること集めること……その【ラムネ】屋台の売り上げが急激に伸びたのは、決して暑かっただけじゃないですよね?……そこの旦那さん。





リア充?そうかもしれませんが、もしあなたが同じ境遇なら、きっと同じようにするでしょう。そんな訳でゆっくりとお話は続きます。デートも続きます?

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