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出迎えるってどうするの?

セイムスが生死を分けた戦いを繰り広げていたその時、ジャニスは何をしていたのか?そんな訳でお待ちかねジャニスのターンです(笑)



 髪を漉き、耳の毛の手入れも忘れずに……。


何だかんだ言いながら、セイムスは時々私の耳を撫でては「手触りがいい」とか「心が安らぐ」等と言う。

……言ったことはないけれど、撫でられるとたまに背筋がザワザワとして尻尾までムズムズすることがある。


じゃ、止めてほしいかって?



……そんなことない、出来れば……ずーっとして欲しい位なんだけど……、




……なんでなんだろう?……どうしてだろう?



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



ジャニスは日々目減りする貯えと睨み合いをしながら、今日の予定を考える。


他人の情けだけに頼ってしまえば、一日や二日は食い繋いでいくのは簡単だろう。しかし、それではセイムスが飢えてしまう。そう……自分だけではない、セイムスも一緒に暮らしているのだ。


……今までは全てをニケに任せきりだった。頼りになる、有能優秀な姉……自分にそっくりで、自分とは全く違った彼女はジャニスにとって師匠であり、ライバルであり……たった一人しかいない家族であり、保護者であった。


しかし、だからこそ……彼女には教えて貰えなかったことがあった。それこそが色恋沙汰であり、今のジャニスに関わる様々な生活の雑多な事に必要な知識だった。

ニケと自分は主従の関係でもあった為、無駄な時間を生活維持に充てるよりも効率的に訓練等に費やす必要を重んじた父親が「掃除洗濯炊事は専従の家政婦に頼む」と決めた時は即座に従った。まだジャニスが四歳の時であり、ニケもそれに反論することはなかった。


それから十四年が過ぎた或る日、ジャニスはニケに尋ねる。


「……姉さんは、ヒトを好きになったことはあるの?」


「あるわ。でも弱かったから捨てた」


その返事を聞いてジャニスは安心したのだ。……姉さんでもそうなら、私も自分より強い相手が現れるまでは考えなくていいんだ、と。




……バカバカバカバカバカ!!私と姉さんのバカァ~!!そりゃ暗殺者(アサシン)には目玉焼きの焼き方も窓拭きの上手なやり方も必要ないわよ!!でも……、いつかは引退するのっ!!その時に「……弱い卵は必要ないわよ、割れない黄身だけあれば……それでいいの」なんて言ったって意味無いから!!


……新しい生活を過ごすうちに、少しづつ覚えては来たけれど……それでもジャニスに足りていない【生活全般に必要なスキル】は圧倒的に多い訳で、市場に行けば根っこと芽の伸びたタマネギを買ってきてはセイムスに「……苗?」と言われ、開ききったレタスを買ってきてはセイムスに「……鉢植え?」と言われ……、


しかし、彼女には頼りになる先輩諸志が居てくれる!……聞けばグラスさんも以前はステーキを作ってはアラミドさんに「……ビーフジャーキー?」と尋ねられたらしいし、スープを作ってはアラミドさんに「……消毒液?」と困惑されたらしい……信じられないけど。


よし、頑張ろう!!……と思いつつ、ジャニスは先輩に指導を仰ぎに伺うことにした。だってその方が安心だし……。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「ジャ~ニスさぁ~ん!!わたしが……いつぅ~消毒液を作ったんでしょーねーぇ!?」


「いただたたたたた判ってます判ってますぅ~違います違いますぅ~っ!!消毒液じゃなくて消火液の間違いでしたぁ~っ!!」


ジャニスのこめかみをグリグリと締め上げながら、グラスはその内容を訂正させていた。……端的に見れば、どちらも食用には適しないとは思うけど。


「まったく……そもそも私がそうしたのは、脂っこい料理が好きじゃないって聞いたから少しだけ長めに焼いただけだし……まぁ、先にオーブンで三十分加熱したから……その、少しだけ固くなったと思うし……スープは塩と砂糖と油と酢を間違えただけだし……良くある失敗談よ!?……時間が経てばこうやって笑い話にって……カミラさん笑い過ぎですよっ!!」


「キャハハハハハハハハァ~♪無理無理ぃガマンしろとかマジ無理ですからぁ~!!」


ジタバタと尻尾を振り回しながら転がり廻って、もがき苦しむカミラ。その後うつ伏せになりながらお尻を突き上げてヒクヒクと痙攣する様は、ある意味殿方に好評なんでしょうが……今はそんな話ではない。


「ハァ……ハァ……あぁ……苦しかったぁ。……ジャニスちゃん……頑張ってスープはスープらしく……キチンと……作ってねぇ……くぅ」


それだけ口走ると、カミラは力尽き、何故かやりきった……そんな満足げな笑顔を一瞬だけ浮かべた後……ゆっくりと倒れた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「いやぁ~久し振りに笑ったわぁ~!!爽快爽快~♪」


カミラは上気した頬を扇ぎながら朗らかにそう言うと、非番の特権だとばかりに赤い液体を注いではグラスを煽り、満足げに身を震わせつつ感嘆の息を吐き、


「……んくぅう~ん!!これぞ……自由民の特権だわぁ~♪うんうん!」


と頷く。ジャニスは流石に昼間から酒を飲む習慣は身に付けていなかったので、返答に困っていたのだけれど……今はカミラに聞いておくべきことがあった。


「あの……カミラさん、聞きたいことがあるんですが……」


「ん?にゃに?ジャニスちゃん……もしかして寝所楼絡の秘技秘法に精通したいとか?だったらこれかなぁ~ホレホレ~♪」


すっかり酔いの回ったカミラが部屋の片隅に山積みされている魔導関連の禁書と言っていた類いの山の中から【房中密戯・殿方と交わす様々な奥義大全】と題された()()()()()()()()()()を引っ張り出してジャニスへと開いて見せつける。



「……ふぐわぁっ!?な、何なんですか一体何なんですかコレッ!?……う、うわぁ……いぇっ!?…………いやいやいやカミラ違います違いますからっ!!こんなじゃなくて私が知りたいのは全然違ってて……ぐもっ?……ぴぎぃ~っ!!」


慌てて否定しつつ、しかし興味は全く無い訳ではないジャニスが開いたり閉じたりしながら奇妙な叫び声をあげる様を見つつ、グラスはカーボンとナノがお昼寝中でよかったわぁ……とホッと胸を撫で下ろした。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



お昼寝時間もそろそろ終わるから……と、グラスが部屋を出た後ジャニスは改めてカミラに聞くことにする。勿論()()()()()()はしっかりと閉ざしたまま。


「ちぇ~、つまんないのぉ~!ジャニスちゃんにこれから必要不可欠になる新妻必須の必殺房中術を伝授しよーと思ったのにぃ~!!」


「カミラさん……必ず殺してどうするんですか!?まったく……私が聞きたかったのはそうじゃなくて、セイムスが帰って来た時に……どんな風にもてなせば……いいのかな……って、そう思ったから……」


混ぜっ返す気満々だったカミラに向かって、躊躇いつつも本心を告げるジャニス。


「今日は、初めて地下迷宮に挑む日……だから、きっと……疲れて……もしかしたら、少しだけ怪我して帰るかもしれないし……たぶん強いから無事に帰るとは思いますよ?……でも、ちょっとだけ危なかったり……心が傷付いたりしてたら……どうやって迎えたら……いいかな……って……」


最初は囃し立てるつもりでニヤニヤしながら聞いていたカミラだったが、次第に真顔になる。

そして、ジャニスから不安と期待の交差する複雑な心情を感じ取った彼女は無言のまま、ジャニスの頭を胸にそっと抱き寄せると頭を撫でる。


「……私の幻術の師匠はね…………もっの凄いおばーちゃんだったのよ?そのおばーちゃんの口癖は、『口先だけで慰めるな!……抱き締めて一緒に泣いてやれ!』だったわ……」


そう告げながら、ゆっくりと、ゆっくりと……ジャニスの頭を撫でながら、不安の種を一緒になって覗いていく。


「ジャニスちゃん……セイムスのこと、……好き?(こくん)」


「……それじゃ、セイムスが帰ってきたら……優しくする?(こくん)」


「……じゃ、さっきの本みたいなこと……してあげる?(……ふるふる)」



「……じゃ、いっしょにご飯食べて、お話する?(こくん)」


「だったら……好きなモノ、思い出してあげたら……?(こくん)」


「……それなら、私も探しにいったげようか?(こくん)」



……そうか、ジャニスちゃん……初めて『好きなヒトを待つ不安』で押し潰されそうになってたんだ……フフフ♪……ジャニスちゃんらしいわぁ!


カミラはそう結論つけると、ジャニスに優しく提案する。


「じゃ、これから二人で見に行こうか!市場まで!!」




えー、間違いなくこの小説のコンセプトは「縦糸はセイムス、横糸はジャニスを用いて織り成す人間模様」です。そこんとこヨロシク……的にゆっくりと進めて参ります!

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